うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

お嬢様とマリアンヌ姫生誕祭【前編】



気が滅入る。

「いいなぁ、お城でパーティ〜。私もいつかお城に入ってみてぇさ〜」

るんるんと俺の作ったサンドイッチ…本日はライ麦のバケットに野菜と特製ソース、和風出汁で炒めた鶏肉を挟んだもの…を口に運びながら、目をキラキラさせ、そんな事を口にするマーシャ。
しかし、マーシャとは違い普段なら和気藹々とした昼の薔薇園は鬱々としている。
それに気がついたんだろう、浮かれていたマーシャも困惑気味に「み、みなさんどうしたんだけ?」と声をかけてきた。
遅い。

「…あ…い、いいえ………そ、そうですね…マーシャもローナ様の侍女として…つ、付いてきてはどうです…?」
「絶対駄目です」
「ぶ、ぶーぅ」
「そうね、絶対駄目ね」
「お嬢様まで⁉︎」

マーシャのドジ云々以前の問題だ。
今日は午後からマリアンヌ姫の誕生日パーティーの準備のために全生徒は帰寮する。
そして例によってレオハール様は本日お休みだ。
エディンもなぜか朝から学校にいないが…。

レオハール様。


「………………」


レオハールと友人になった日から約半月。
相変わらずちゃらんぽらんしている奴ではあるが、少しだけ真面目な話をすることは増えた。
それは主に城での生活の事。
聞いて呆れて、そして俺までへこむ。
父親であるバルニール陛下とは半年に一度しか会わず、父と呼んだことすらない。
会って言われることと言えば「お前は戦争に勝つための道具」「兵器として尽くせ」など。
エディン以上のクズがよもや存在しようとは…。
そしてもっと最低なのは、城の地下で魔法の他にも『記憶継承』をより高く発現させるための実験も行われている事。
レオハールの並外れた身体能力はその実験の“成果”だった。
ゲームをプレイした時、大変お世話になった身としては複雑極まりない。
だがそれだけではなく…レオハールの生活のもう半分を占めるのは妹姫マリアンヌ。
日頃からちょいちょい挟まれるレオハールの妹姫への愚痴は、ほんの一部のようだ。
妹に関してはだいぶオブラートに、そして「困るけどね」「仕方ないよね」「ちょっと疲れるけどこれはまだ平気かな」と笑って纏めるレオハールだが、多分ちょっとどころではないと思う。
その辺りは彼の生活を見ていれば分かる。
スティーブン様も困り顔で一部を聞いているんだろう、たまにその中でも耳を疑うようなレベルのものは話してくれるので。
…15歳の子供が置かれるには、途方もなくストレスが多い環境と言えるだろう。

「その代わり、ちゃんとお留守番できたらいいものをあげるわ」
「え? いいもの⁉︎ なんですかなんですか⁉︎」
「誕生日プレゼントにプラスアルファしてあげる」
「ほんとですかぁ、お嬢様⁉︎ わかりましたぁ! ちゃんとお留守番してますだー!」
「え? …マーシャ、今日誕生日なの…?」
「はい!」
「なんと! マリアンヌ姫と誕生日が同じだったのか!」

……………………。
そうなんだよなぁ…当たり前だけど…。
マーシャの誕生日は今日なんだよな。
すっごく当たり前だけど。
…つーか、マリアンヌ姫とマーシャの誕生日が同じ日だった時点で気付けば良かったよなぁ…。

「ええ…い、言ってくれれば…私もプレゼントを用意したのに…」
「あ、そ、そうだな…すまん、マーシャ」
「え? いえいえ! スティーブン様もライナス様も気にしねぇでください! わたしはお嬢様と義兄さんからプレゼント貰えるから十分ですだ!」
「来年は用意するね。…では、今年はお祝いの言葉だけでも受け取って下さい。マーシャ、お誕生日おめでとうございます…」
「おめでとう!」
「ありがとうございますだ〜!」

…何という癒しの空間。
この後、あの我儘放題好き放題のマリアンヌ姫に会わねばならない現実から一瞬でも目を逸らすことが出来る…。

「…それで、マーシャは幾つになったの…?」
「14歳ですだ!」
「え…あ…歳もマリー様と同じになるんだね…」

…まあ、そいつが本物のマリアンヌ姫なので…。

「………。…ローナ様…例の噂ご存知ですか?」
「耳には入っています。ですが、本日はそのお話をするのには最も似つかわしくない日ですわ、スティーブン様」
「…………そ、そうですね…」

……ああ…。
マリアンヌ姫、偽物説な。
お嬢様の誕生日パーティーにすら上がっていた話題だ。
スティーブン様まで言いだすってことは相当に浸透してきてるんだな。
…………うーん…。

レオハールは戦争が終わるまで、多分王位の事は保留にするつもりだろう。
諦めモードから保留に進展したのはこの国の未来にとって一つ前進と言っていい。
だが、レオハールが王位に就くのにはいくつかの障害がある。
そのうち大きいものが三つ。
国王バルニール。
王位第一継承者の妹姫マリアンヌ。
そしてマリアンヌを傀儡にして国を牛耳ろうと考える一部の権力者たち。
レオハールルートでマリアンヌ姫が取り替えられた別人であると露呈しなければ、語られてはいないにしてもお嬢様のエンディングの均一性を思うとあのマリアンヌが女王に即位する可能性が高い。
バルニール陛下は…まあ、人間いつか死ぬ。
それに、戦争に勝てば恩賞が与えられるらしいし、そこで王位継承権をレオハールが求めれば即位云々はともかく与えられるっちゃ与えられるだろう。
マジ、レオハールにそもそも王位継承権がないって聞いた時は目が飛び出すかと思った。
貴族の中でもレオハールに王位継承権が与えられていないことは浸透しておらず、たまに普通にレオハールに「王太子殿下」と言ってヨイショしてくる人がいるのはそのせいのようだ。
ぶっちゃけ、マーシャがマリアンヌ姫と取り替えられた事実の裏どりをして、レオハールを王にと考えている人たちに情報流したろうかとも考えたが…まさか王位継承権がねぇとは。
かと言って本物のマリアンヌ姫は…。

「う〜〜ん! 義兄さんの卵焼き美味〜いっ」
「……………」

コレだしな。
…偽物だろうが本物だろうが、マリアンヌ姫に王位は無理だろ。
だから、つまり…。
やっぱり戦争に勝ってレオハールを王にする。
これしかねぇな…。
でないと例えお嬢様の破滅エンドを救済出来たとしても…お嬢様とレオハールは結ばれない。
なにしろあのマリアンヌ姫はレオハールに「誰も好きにならない事」を繰り返し命令しているとスティーブン様が言っていた。
恐ろしいシスコンだ。
…あ、いや、そもそもお嬢様もレオハールをどう思ってるんだろうってのもあるしな…。
多分嫌ってはいない。
ただ、レオハール以上にお嬢様の感情は読み取りにくい。
それはひとえに表情筋が仕事しないプラス…俺が男でお嬢様がお嬢様だからだ。
女心は…特にお嬢様のは…本当に、分からない。

「………」

ただ…今日もお嬢様はレオハールが贈った薔薇のネックレスとバレッタをご使用だ。
あれは…贈り主を意識してなのか、それとも本当にただ単に気に入っているからなのか…。
うーーーん…分からん…!
俺としてはエディンよりレオハールを推したい。
あんな優しい男の子はそうそう居ない。
例えば…入学初日の実力テスト、剣技の試験で俺と戦う事なく負けを宣言してとんずらこいたのは自分の身体能力が獣人並みだと自覚していたから。
戦うの嫌い、と冗談のように言っていたが…あっちが本心だったんだ。
それだけの能力を持ちながら妹の無体にも耐え、周りに優しく振る舞う。
簡単な事じゃない。
そしてだからこそ…………。

「はあ…」
「…はぁ…」
「はぁぁ…」
「…な、なんかみなさん本当に元気ないだな…?」
「お前、マリアンヌ姫の噂知らないのか?」
「え? …すっごーく我儘でヒステリックっていう噂け?」
「……知ってるんじゃないか…」
「そ、そんなにすごいんけ?」
「らしいな…」

あのお三方の様子を見るに。
…ついでに言うと、今日のクラス…いや、校内全体こんな空気だ。
アミューリア学園の全生徒はマリアンヌ姫の誕生日パーティーには強制参加。
悲しいが俺もだ。
貴族の方々のこの様子と、日々レオハールに聞かされる愚痴。
そして忘れもしない、ゲーム内での言動。
…俺も行きたくない。

「ハア…」
「義兄さんまで…」


気が滅入る…。




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