うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

レオハールのきもち


入学から一週間。
分かってはいたが、本当に濃ゆい。
日記を読み直す。
入学初日。
レオハール様がマリアンヌ姫に呼び出され、翌日から登校が二時間目になりお茶の時間に合わせて城へ帰るという前代未聞な事になった。
ここで俺は、改めてレオハールルートの悪役姫、マリアンヌの恐ろしさを思い知らされ、王家の闇を垣間見たのだ。
入学2日目。
魔力適性検査で、俺とレオハール様の検査珠が割れる。
後日再度検査してみたがまた検査珠は割れた。
これにより、俺はレオハール様と同じ魔力適性『極高』と判定された。
ゲーム内でヴィンセントは魔力適性『高』のはず。
どうしてこんな結果になったのか…。
それとも、俺の知らないヴィンセントルートで実はヴィンセントが魔力適性『極高』と語られるものなのか。
今の俺には確認しようがないが、攻略サイトのネタバレにもそんなこと書いていなかった。
魔力適性が『極高』ということは、戦争の『代表候補』に俺は半ば決定なのではないか?
攻略対象に生まれた以上、可能性はあった。
むしろメイン攻略対象なので追加キャラより有力。
でも、いざそうなると非常に怖い。
戦争とは無縁な場所で生きてきた。
旅行も、紛争地帯になんて近づきもしなかったし。

「…ふう…」

まだヒロインは召喚されていない。
だが、魔力適性的に俺はお声がかかるだろう。
この国のために…この国に生きるお嬢様のためにも、俺は代表戦争に出て勝利をもぎ取ってくるべき…なんだろうけど。
……あ? 待てよ?
その場合、正規ヒロインが俺を『従者』にした場合…『ヴィンセントルート』になるの、か?
『従者』…正規ヒロイン…ああもうめんどくせぇ、以後正規ヒロインは戦巫女と呼ぼう。
戦巫女の使う『魔宝石』の力で魔法を使えるようになる者…それが従者だ。
戦争に参加するのは5人なので、戦巫女を含め『従者』は4人。
戦巫女は、在学中に『従者』を選ぶ。
選ぶが、一応戦争なので本人の同意が必要だ。
しかし好感度が低ければ戦争直前でも断られる。
それでもその相手を『従者』にしたい場合、国王の強権により無理やり『従者』にさせる事は可能。
ただし、好感度はマイナスになり、ステータスが半減するという。
『従者候補』の好感度と、自分のステータスを上げなければ戦争に勝てずバッドエンド。
…恐ろしい乙女ゲームだ。
で、『従者』にしたうちの1人と恋人エンディングを迎える。
ので、まあ…俺…ヴィンセントルートになるかどうかは分からないな。
……あ、いや、待て…。
うっかり忘れてたが、ここは一作目の無印『フィリシティ・カラー』の世界ではない。
続編…『フィリシティ・カラー 〜トゥー・ラブ〜』の世界だ。
いや、どっちも『フィリシティ・カラー』の舞台の『ティターニア』だけど。
ややこしいな…。
そうじゃなくて、続編の『フィリシティ・カラー 〜トゥー・ラブ〜』には…プレイヤーの声が反映され、よりにもよってハーレムエンディングがある、らしい。
俺も攻略サイトでネタバレを掻い摘んで読んだだけなので、どうやるのかは知らんが…あるらしいのだ。
確か、条件は正規ヒロイン…戦巫女でプレイする事。

「…………うーん…」

ヴィンセントルートについて一応、おさらいしておこう。
この場合のヴィンセントは俺ではなく、ゲーム内のヴィンセント!
召喚後、アミューリア学園の女子寮で生活する事になった戦巫女。
翌日、城で引き合わされた『従者候補』たちと再会し、従者になって協力してもらえないかと聞いて回るようになる。
その中で、最初からあっさりオーケーを出すのがレオハールとヴィンセント。
ヴィンセントは孤児で、リース家に拾われて以降、恩返しのためにリース家に尽くしてきた。
ケリーの執事になったのも、その恩返しの一環。
そして、リース家のため…国のためならと笑顔で戦争に出る事を受け入れたのだ。
その後も優しく接してくれるヴィンセントに、次第に恋心を抱く戦巫女。
ある日、城でマリアンヌ姫とローナ嬢に手酷く罵られた戦巫女は、心が折れて逃げ出してしまう。
更に追い打ちをかけるように、追いかけてきたヴィンセントに「本当は戦争で戦うことが怖い」と告白される。
2人で逃げてしまおうか、と話し合うが、2人は城へ戻った。
戦巫女はヴィンセントの恩返しを手助けしたいと思ったのだ。
そして2人は強い絆の力で魔宝石の力を引き出し、戦争を勝利に導く。
だが、戦巫女は元の世界に帰るすべはなく…ヴィンセントの妻として、幸せに暮らしましたとさ。

「…意外と…良い話…だな…」

ちょっときゅんとした。

「………そうか…ゲーム内の、ヴィンセントも…怖かったのか」

救済ノートで、ヴィンセントルートを見直して…今更気付いた。
これを書いた時はただの作業。
お嬢様のために、思い出せるゲームの内容、ネタバレをただ“書いていた”。
別に忘れていたわけじゃないけど…俺はメイン攻略対象の1人…ヴィンセント・セレナードだったんだよな。

君となら、怖くても一緒なら戦える。
そう思ったのか、ヴィンセント・セレナード。

俺は?


ノートと日記を机にしまう。
昨日の休日のこと、日記に書こうと思ってたのに。
かなりたくさん書くことがあるのに。
マーシャが『本物のマリアンヌ姫』って事。
レオハールがお嬢様と同じデザインで、色違いのネックレスをしていた事。
追加メイン攻略対象のクレイが王都にいた事。
あと、昨日助けた亜人の子供…あれは、多分…。

「はあ」

だめだ、鬱々として、考えがまとまらない。
お嬢様を破滅エンドから助け出す。
この気持ちは揺るがない。
でも、それと自分が戦争に参加するのは、なんか、違う。
部屋を出る。
食堂でホットミルクでも作るか…な。

「え?」
「やっほう」

あれ?
幻覚か?
男子寮の表玄関に、ここにはいないはずの人がいるぞ?
普段は城で寝泊まりしているはずの…。

「レオハール様? どうされたんですか?」
「抜け出してきた。君と話をしたくて」
「はい?」

ちょっとツラ貸せやって事か?
寮の中では誰かに聞かれかねないと、外へゴー。
うわ、マジか…この王子、積極的に寮の規則を破るスタイル…。

「あれ、その馬」
「気付いちゃった〜? さすがだね〜」

…リース家で生まれた馬だ、何度か世話をしたから覚えてる。
騎士団に売られた一頭。
成る程、馬で寮まで来たのか。

「アンジュ。僕の愛馬だよ」
「そうですか…」
「…僕のネックレス、誰かに話した?」
「まさか。内緒なのでしょう?」
「……ありがとう、君には内緒にしてもらってばかりだね」
「話というのはその事ですか? それなら…」
「ううん、これもそうなんだけど…少し僕の話をしようと思ってね」
「? …レオハール様の…?」

人の気配に敏感な馬の側でする話。
余程人に聞かれたくないんだろう。
やばいな、ちょっと今、俺なかなかにキャパがパツパツなんだけど…。
でも、今更王子から逃げるのも無理げだし。

「…僕、5歳くらいまで王都の外で母と暮らしていたんだ。スラム街でね」
「え…」
「その頃は知らなかった。自分が王族の血を引いているなんて。…でも斑点熱が流行りだした頃、城から来た兵に母と王都へ連れてこられた。母は、酷く怯えていて…翌年、他の側室から毒を盛られて死んだんだ。僕に「生まれて来なければよかったのに」と言い残して」

………うまれて、こなければ…?
は、母親に、言われたのか…?

「で、その後にね…陛下に、僕は『代表戦争』に勝つために“作った子”と知らされた。僕は兵器なんだって」

へ……へいき?
……兵器?
なにを、なにを言っているんだ?
この王子は。
笑いながら、笑顔で、なにを…。

「……ヴィンセント…君には、少し不快に感じるかもしれないけれど、僕と同じくらいの“魔力適性”を持つ君の存在は…僕、ちょっとだけ嬉しかった」

……やばい。
風が、生暖かい風が吐きそうなほど気持ち悪い。
春の風。
なのに、気温は低いから肌寒い。
そうだ、きっと、そのせいだ。
…レオハール…、お前は…!

「昨日の話の続き」
「!」
「僕のネックレス。そうだよ、ローナと色違いのお揃い。ローナのは僕が彼女の14歳の誕生日の時に贈ったやつ」
「…………」

毎年欠かさずお嬢様にプレゼントを渡していた。
ああ、知ってるよ。
毎年、どんなことより最優先にお嬢様の誕生日に駆けつけてプレゼントをくださっていたもんな。
…………じゃあ、やっぱり…。

「…貴方は、お嬢様を…?」

俺の想像とは少し違う、とか言ってたが…。
同じデザインの色違いのネックレスを持ってるって…つまりそういう事なんじゃないのか?
つーか、だとしたら…どうしてお嬢様とエディンの婚約を解消させようとしないんだ。
王子のレオハールが言えばディリエアス公爵だって…!

「うーん?」
「うーん⁉︎」
「…うん、やっぱり少し違う。…なんだろう…特別なんだ」
「…………?」

だから、それが恋というやつなのでは。

「初めてローナに会った時、僕は彼女は権力に屈しない、強い人に見えた。そして、それは今も変わらない。…そうだなぁ…言葉にすると…一番近い言葉で表すなら…憧れ、かな…」
「……! …憧れ…?」
「うん…僕とは真逆の存在」
「…………」


ーーー『権力には逆らえないんだよ』


「………っ」
「彼女のような人間が、この国に居て…生きていてくれると思うと…僕はそれだけで支えてもらえるというか……なんだろう…光みたいな感じ? うーん…言葉にするの難しいね…」
「………。…いえ、もう、なんとなく…分かりました…」
「そう? やっぱり?」

分かるさ。
…とても、よく分かる。
…………分かってしまった。

「……。…僕に王位を継いでほしいと云う者がいるのも知っている。言われたこともある。僕も国のためにそうすべきなのかもしれないと思った事もある。…いつか僕は、ローナにこの矛盾を突きつけられるだろう。彼女は真面目で優しい人だから。…きっと今も、僕の“味方”でいてくれるはずだから」

そうなるだろう。
そして、そうなった時、お嬢様はこの話をレオハール様から聞かされる。
国の為を思うなら、逃げずに王位を望むべきだと指摘するはずだ。
第一王子であるならば、いかに側室以下の子供と言えどマリアンヌ姫よりも優秀であり、なにより人望も厚い。
誰がどう見ても、どう考えても、レオハール様の方が次期王に相応しいと!
俺だって…そう思っていたし願っていた。

王位を継ぐ気は無い。
そう言っていたな。
そのセリフには続きがあったのか。
ーーーー僕は兵器だから…。

クソ、最低じゃねーか!


「ヴィンセント」

…なんて胡散臭い笑顔。
最低だ。
全然上手く笑えてねーよ、レオハール様。

「僕が君を守るから、一緒に戦ってくれないかな…」


本当に、最低だ。


「………お断りします」
「ええ⁉︎」
「男に守ってもらうなんて気色悪いです。自分の身は自分で守りますよ。貴方の足手まといになるのも嫌なので、今後はより精進して参ります」
「……! …ヴィンセント…」
「だから貴方も諦めるのは…絶望するのはやめてください」
「…………え」
「……お嬢様の事をそこまで…想うのなら………勝って、そして生き延びて、貴方の手で幸せにしてほしいんです。確かに我々は五ヶ国で最も劣勢でしょう。でも、だからと言って生きる事を諦めないでください。…俺が隣で戦います。だから、もう1人で絶望するのもやめてください」

…俺が、グダグダと悩んで落ち込んでいたから…こんな事を言わせてしまったんだろう。
ああ、もう、本当に最低だ、俺。
こんなガキに…王子とはいえ15歳の子供に…『兵器』なんて言わせてしまった。
情けない。ホンット情けない!
そんな風に言われ続けたら刷り込まれてそう思うに決まってる。
本当に最低だ、国王バルニール!
自分の息子だろうに…!

「…………、…それは、ええと……、どう、したらいいのかな?」
「簡単です」

色々、今は…後回し!
お嬢様の事も、一旦置いておく!
心の底からすみませんお嬢様。
でも、貴女が“味方”すると決めたこの王子に俺も…


「友達になりましょう、レオハール」


味方したいと思いました。
だから、彼との一時、貴女の元を離れる事をお許しください。





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