うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

俺と王子と魔力適性検査【後編】



魔力適性検査は魔法研究施設に移動して行われる。
小さな珠を持たされて、その珠の光具合で適性が高いか低いかわかるらしい。
自分の適性がゲームの中で『高』だった『ヴィンセント・セレナード』である俺は当然だが『高』だろう。
その時点で『従者候補』。
代理戦争の『代表候補』になるわけですよ。
く、めちゃくちゃ怖ぇ。
戦争とか嫌すぎる。

「次の者」

柔らかな声だがどこか有無を言わせぬ口調。
五列ある、一番端の列に俺は並んでいた。
で、いよいよ年貢の納め時。
俺の列を担当していた研究者兼教師に、前のやつが使った珠を渡され…あれ? こいつ…。

「?」

飴色の長髪に緑の目。
そしてこの胡散臭いレベルで整った顔…。

「…キャクストン…?」
「? ああ、ボクの名前だよ」

胸元のプレートに書かれた名前。
うげ、マジか…⁉︎
攻略キャラの中でもレア!
そう、隠れ攻略対象…変態教師ミケーレ・キャクストン!
こ、こいつが…!
げ、げぇ、まさかこんなところでエンカウントするとは…っ!

「どこかで会ったことあるっけか…?」
「あ、いえ、珍しいお名前だな、と」
「ああ、そうだね。ボクは平民出の『記憶持ち』だから…キャクストンは自分で考えてつけた苗字なんだ」
「そ、そうだったんですね」

えー、知らなかった。
けどぶっちゃけどーでもいいわー。
ネタバレで本性知ってるから笑顔が胡散くせー…。

「キミも平民出の『記憶持ち』だろう? ヴィンセント・セレナードクン?」
「!」

カルテらしきものに目を落とし、俺の名前を確認した途端…目が輝いたのを見逃さなかった。
…見逃したかった気もする。
や、やだなー、すごい怖いわこの人。

「さあ、魔力の適性を測るよ。リラックスして。持っているだけでいいんだから」
「は、はあ…」

ぽとん、と手のひらに転がされる珠。
確かに…どーせ結果はわかってる。
俺の魔力適性はーーーー


パァン‼︎


「……………」

…え、割れ…。


「割れた…?」

俺の手のひらに乗った瞬間、割れ…割れましたけど?

パァン!

「え?」

呆気にとられていると俺のいる列の二つ向こうの列で同じ音がした。
そこには俺と同じく呆気にとられたような顔のレオハール様。
俺と同じように珠が…割れた、のか?

「割れてしまったねぇ」
「われた………割れた!」

呑気な声色で手元を眺めたレオハール様。
しかし、俺の横の人は…突如満面の笑みで両手を挙げる。
びっくりして肩が跳ね上がる俺とレオハール様。

「割れた! 割れたよ⁉︎ 信じられない! あははは! 割れたぁぁ! ヒャアホッホホホホ‼︎」
「キャクストン落ち着け! ヤバイ発作だ! 出合え出合えー!」
「キャクストンが発作を起こしたぞー」

「? ⁉︎ ?」

突然の時代劇。
研究者たちがわらわらどこからともなく出てきて発狂したように笑うミケーレを雁字搦めにしてズルズル回収していく。
お年頃の生徒たちの表情は俺以上に…ヤバイものを見てしまった顔になっている。
…うん、まあ、ネタバレで本性を知っていたとしても…俺も…………ビビったわ。

思ってた以上にヤバいよあの人!

「そんな、割れたぞ珠が…そんな事あるのか?」
「どういう事だ」
「ミケーレを落ち着かせてから予測を立てさせろ」

ざわざわ。
研究者たちの走り回る姿。
いや、それより俺もレオハール様を放置するなよ…。
まだ検査を終えていない生徒もいるんだぞ。

「はぁ…」

俺の手のひらからも零れ落ちた破片。
ガラス玉のような珠を仕方なくハンカチで拾い集めておく。
あぶねーな、突然割れるとか怪我でもしたらどうすーーー。

「レオハール様! お怪我は⁉︎」

マーシャが皿を割った時の感覚を思い出した。
俺は幸い怪我などしていないが、王子のレオハール様に怪我でもあったら!
俺の叫びに近い声に周りの貴族たちもやっと我に返ったらしく、レオハールに近付いていく。

「殿下、お怪我はっ」
「うん、血が出てるねー」
「なんと!」
「す、すぐに医務室へ!」
「ちょっとどいて下さい! 失礼します!」
「え?」

貴族どもをやんわりと退かし、レオハールの手首を掴む。
確かに血が出ている。
多分割れた拍子に欠けらで切れてしまったんだ。
こういう場合はまず…綺麗な水で細かい欠けらを洗い流す。

「行きますよ」
「え?」

トイレに手洗い用の水壺があったはず。
手首を掴んだまま、引っ張って施設のトイレへと連れて行く。
そこで桶に水を入れて、レオハール様の手を突っ込んだ。

「チッ、水道があれば楽なのに」
「なんて?」
「なんでもありません。ちゃんと破片を洗い流さないと余計な怪我につながりますよ」
「そうなのか…。ありがとうヴィンセント」

日本の古い井戸にありそうなポンプ式の水道ならあるが、施設内にはさすがに設置されてないもんな。
だからって水壺から桶に水を入れて手を洗うとか、非効率だ。
文句言っても仕方ないけど。
まだ水や石鹸で手を洗う文化があるだけマシだ。
うん、そう思おう。

「…ヴィンセントってハンカチ何枚持ってるんだい?」
「予備と万が一を考えて五枚ですね」

マーシャがたまに連続でドジをやらかすので、最低限五枚持つようになった。
俺が二枚目のハンカチを持ち出したから疑問だったのだろう。
その二枚目で、レオハール様の手を包み、簡易な包帯として使った。

「とりあえずこのまま医務室へ行きましょう。消毒してちゃんと手当いたします」
「ありがとうヴィンセント」
「…いえ…」

二回も礼を…。
ほんと、ちゃらんぽらんに見えて律儀なお方だな。

「?」

…そして本当に美形だな。
いや、乙女ゲームのメイン攻略キャラなんだから当たり前っちゃー当たり前なんだけど。

「僕の顔に何かついてる?」
「あ、いえ…今日のお弁当はサンドイッチです」
「…本当に作ってくれたのかい? わあ、サンドイッチ大好き〜! ありがとう! 楽しみだなぁ〜」

なんて無邪気な笑顔。

「…レオハール様も、全然違うんですね」
「? なにが…」
「表情がです。うちのお嬢様も一見表情が分かりにくいんですけど…やっぱりその時々で全然違う。レオハール様はいつも笑顔でいらっしゃいますが、その時々で全然違うのですね」
「…………そんなに分かりやすいかな」
「いえ、分かりやすくはないですけど」

ただ、違うな、と分かる。
それだけだ。

「そうか、困ったな…もっと気を付けないと」
「? 何故です?」
「笑顔の方が都合がいいからさ。気付いても内緒にしていておくれ」
「…………。成る程、分かりました」

王子様だから、なんだろうな。
ちゃらんぽらんに振る舞うのも、多分。
とんだ食わせ者の王子様だったな。








********



「で、検査結果は後日になったのか」
「はい…」

お昼時ーーー。
普段なら食堂で食べるのだが、少々遠出して敷地内の薔薇園にやって来た。
理由は…。

「分かる分かる分かる! それでその後にエリーゼがドラゴンを一撃でやっつけるシーンがかっこいいんだよね!」
「はい、かっこいいですよねっ!」

アレだ。
スティーブン様のご希望でマーシャと一緒に食べる事になったから。
さすがに同じものを同じ席で一緒に食べることはないが、例の語り合いをしたかったんだそうだ。
いや、それはいいんだが…。

「まあ、それはいいのですが…純粋な疑問として何故エディン様が自然に混ざっているのでしょう」
「っ」
「僕が呼んだんだよ。仲間はずれは可哀想じゃな〜い」

俺がお弁当…サンドイッチを作ってきたのはお嬢様、スティーブン様、ライナス様、そしてレオハール様だ。
レオハール様からすればエディンがいない事は仲間はずれ、になるのか。
幼馴染、侮れん…。

「それは分かりましたが、では、どうしてレオハール様はおとなしく座っていてくださらないんですか」
「え?」
「え、じゃありませんよ! お茶やお食事の給仕は私が致します‼︎ なんでさも当然のようにお茶をお淹れになられておいでなんですかっ⁉︎」
「…はっ! つ、つい…妹にやるノリで…!」

なんとも自然な流れで俺の横に立ち、ポットに完璧な仕草でお茶を淹れるレオハール様。
いやいや、お嬢様じゃあるまいし…普通貴族、まして王族がなんでお茶の淹れ方を完璧にこなせるんだよ⁉︎
…俺の疑問は地雷という形で解決したが、もうやめて…その理由は居た堪れない!
王家の闇とかあんまり聞きたくない!

「でもせっかく淹れたし、飲む人〜」
「貰うー」
「では、わたくしもいただきます」

エディンとお嬢様が飲むってさ。
えええ、お嬢様には俺のお茶を飲んで欲しかったのに…!

「ヴィンセントも飲んでよ〜。僕も結構お茶を淹れるの上手いんだよ」
「はい…実に完璧なお茶の淹れ方でした。マーシャのやつにも見習わせたいくらい…。ありがたく頂戴いたします」

王子に差し出されたら断れねーよ。
カップに注がれたのはカモミールティー。
…………なにこれウマ!
ハーブティーは淹れるの意外と慣れがいるけど、完璧だな!

「…お茶っていいよね…。ちゃんと手順通りに淹れると、美味しくなってくれて…裏切らなくて…いいよね…」
「……………」

多分、俺にしか聞こえなかったであろうレオハール様の呟き。
哀愁漂う笑顔が沁みる。
なんだその悟り開いたような仏チックな顔…。
俺、お茶入れる時にそこまで考えて淹れたことないわ…。
お嬢様に美味しいって言われたいだけで頑張ってきたもん。

「美味い! ヴィンセント、野菜は美味いんだな⁉︎」

…そして口をリスのようにしてもしゃもしゃと野菜のサンドイッチを頬張るライナス様。
彼にはそっと蜂蜜茶を差し出す。
それを一気飲みするライナス様に、言い知れぬ癒しを感じた。
ああ、なんて癒し系お馬鹿なんだライナス様…。
王家の闇を忘れさせてくれる馬鹿面…。
なんかレオハール様がライナス様を可愛がってる理由がわかった気がする…。

「それは何よりでございます」
「僕も貰うね。はむ…。…うーん、美味しいっ」
「レオハール様は座ってお食事なさって下さい」

給仕は俺がやる!
お嬢様の給仕は俺が!
お嬢様にご奉仕できる数少ない時間!
よりにもよって王子に奪われてなるものか!
無理やり座らせて、残りのサンドイッチを確認すると…ん? もうあれだけ? 減るの早…!

「って、テメェには作っていないぞクズ野郎!」
「明日は俺の分も作ってくればいいだろう」
「図々しいにも程があるなテメェ!」
「うるせぇ! 使用人の分際で!」
「エディン様、ヴィンセントはわたくしの執事ですわ。貴方の使用人ではなくてよ」
「そうだ! 俺はお嬢様の犬でありテメェの使用人ではない!」
「……?」
「……?」

…ん?
なんか口が滑ったな?
お嬢様とエディンの表情が疑問符を浮かべているような…?
まあいいか。

「ん? これは…ポテト?」
「ポテトサラダといいます。茹でて柔らかくなったポテトをすり潰したサラダです」
「へえ、すごく美味しいね!」

無邪気な笑顔…うん、これは本気でレオハール様のお気に召してようだ。
そうだろうそうだろう。
作るのは割と手間がかかる……なに分この世界にはマヨネーズがない…イチから作らねばならねーのだ。

「ねえ、これ明日も食べたいな〜。ダメ?」

…乙女ゲーム不動の人気No. 1恐るべし。
なんだ、この逆らい難いおねだり力。

「もちろん構いませんよ」
「明日はしっかり俺の分も作ってこいよ」
「持参しろクズ野郎」

なんでさも当然のように明日も居るの前提になってるんだこのクズ野郎エディンは。
レオハール様の前だから強気なのか?

「そうだぞ、エディン・ディリエアス! 俺だって本当ならまたこのサラダやサンドイッチを食べたいが…流石に連日は迷惑だろう! 我慢しろ!」
「…サラダくらいでしたらお作りしますよ」
「ありがとうヴィンセント!」

……あれ、今俺ライナスにはめられた…?
まさかなぁ?

「スティーブン様はいかがなさいますか?」

レオハール様とライナス様に作ってスティーブン様に作らないのも可哀想だ。
振り返ると、恋愛小説で盛り上がっていたスティーブン様が満面の笑顔で「いいのですか⁉︎」と…。

何この人マジ美少女抗いづれぇぇぇぇ…。

「もちろんです」
「では、では、マーシャがヴィンセントのお料理で一番好きだという“だしまきたまご”というものを食べてみたいです!」
「だしまきたまご? なんだい、それ?」

…ンンンンン!
マーシャの横にスティーブン様。
スティーブン様の横にレオハール様。
ま、眩しいいいぃ‼︎
これにお嬢様が入ったら目も当てられないぞ!

「といた卵にダシを入れて焼いて丸めた料理です。…が…あれはまかない用でして、貴族の方に食べさせて良いものか…」
「わたくし、それ知らないわ。ダシ? …食べてみたい」
「かしこまりました。お作り致しますね」

お嬢様がそう言うなら!
…でもこんな洋々してる世界で和食って受け入れられるのか?
俺は母さんに教わった料理が食べたくて作ってたのであって…本当に俺用のまかない飯なんだけどな。

「甘〜い卵焼きもあるんだよ! わたしはそっちも好き!」
「甘いんですか? わあ、私、それも食べてみたいです…」
「ではどちらも作って参ります…が、甘い方には砂糖を使いますからお気をつけ下さい?」
「そうなんだ…」

レオハール様は砂糖が苦手らしいから、作った後ちゃんと分けておこう。
というか…。

「マーシャ…スティーブン様は侯爵家のご子息だぞ。なにタメ口利いてんだお前」
「公爵家子息の俺には暴言吐いてんだろう貴様!」
「人徳の差だクズ野郎」
「んだとコラ!」
「わわ、ご、ごめんなさいスティーブン様…つい気持ちが盛り上がりすぎて敬語忘れたよ…!」
「わ、私は構いませんっ!」
「構ってください」
「貴様も構え!」
「人徳の無さを改善する事を考えろクズ野郎」




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