うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。

古森きり【Twitter@2kag5fb1】

お嬢様と俺の義妹【後編】



マーシャがお嬢様に拾われて3ヶ月。
俺は部屋で書庫室から借りてきた本を並べながら、1冊のノート開く。
…この世界は間違いなく乙女ゲーム『フィリシティ・カラー』の世界…。
調べれば調べるほど俺が思い出した内容と一致することばかり。
これはお手上げというか、観念する他ないだろう。
そうなんじゃないかと思い始めてからだいぶ足掻いてみたが…。

乙女ゲーム『フィリシティ・カラー』の舞台…つまりこの世界は『ティターニア』と呼ばれている。
女神ティターニアによって創造されたと伝わっているからだ。
ティターニアは天地創造を成したのち、子孫である女神族と武神族に世界を託す。
この二つの神の一族は通称天神族。
天神族はティターニアの造った大地や海に数多の命と種を与え、育てた。
そして海には人魚族が栄え、大地には獣人、エルフ、妖精、人間が各々の領域を構え、その領域に立ち入らないことで平和を保つ。
しかし人間は欲深く、獣人は争いと血を好んだ。
エルフは他の種を見下し、妖精は他の種を煽る。
人魚族は大地も欲しがり始め、武神族がこの5つの種の為に500年に一度、種の代表5名による代理戦争をさせるようになった。
何千年と繰り返される戦いに人間は一度も勝てず、女神族に今以上の力を祈る。
すると女神たちは人間に『前世の記憶の継承』…これは主に知識や技術的なものや身体能力の一部などを魂に刻み、のちの転生した者へ引き継がせるもの…を授けた。

そして、人間族の国『ウェンディール王国』は『前世の記憶の継承』を用いてエルフや妖精のように魔法を習得しようと試みる。
それにより今から100年ほど前、魔宝石という魔力を多量に孕んだ恐ろしい魔石が作られただか発見されただか…。
未知の魔力を秘めた魔宝石は当時の王に封じられ、現王バルニールによって封印が解かれる。

ここからはお嬢様やケリーのお茶会にて集めた情報。
その魔宝石は研究が進み、今のところ記憶継承により能力が一番高いお嬢様たちの世代の者たちの中から魔力適性の高い者を選出し、魔法を使う訓練が始まるらしい。
…俺の知る乙女ゲーム『フィリシティ・カラー』は、そんな魔力適性が特に高い者たち…なぜか男に限る…と、異世界から魔宝石の媒体として喚び出された少女が戦争に巻き込まれながらも絆を深める物語…である。

で、概ね歴史と俺の前世で遊んだ『フィリシティ・カラー』の設定は合致しているんだよな…。
女神やら武神やらは、『フィリシティ・カラー 〜トゥー・ラブ〜』で語られる設定であり、俺がプレイした第1作目には出てこない。
…ふっ…お嬢様…いや、ローナ・リースを攻略したい一心で『トゥー・ラブ』のネタバレまで攻略サイトで調べまくった甲斐があったぜ…まさか来世で役立つ日が来るとは…。
結局“悪役令嬢”のローナ・リースとラブラブになるルートは『トゥー・ラブ』にもなかったけどな…乙女ゲームなんだから当たり前だけど…。

あ た り ま え だ け ど … ! ! 

ふぅ…まぁそれはいいや。
お嬢様は俺が破滅エンドから必ず救済しよう。
その為にも、お嬢様が“悪役令嬢”としてヒロインに立ちはだかるルートをもう一度確認して対策を講じておかねば。

お嬢様がヒロインに立ちはだかるルートは二つ。
お嬢様の婚約者、エディン・ディリエアスのルート。
お嬢様の義弟、ケリー・リースのルート。
まずエディンのルート。
エディンルート【ハッピーエンド】→婚約者のエディンがヒロインに心奪われた事を知り崖から自殺。
エディンルート【バッドエンド】→爵位を奪われたエディンと結婚し生涯苦労し続ける。因みに、バッドエンドの場合ヒロインは戦争で命を落としている。
…うーん、そう考えるとヒロインも命懸けなのか…。
次にケリーのルート。
ケリールート【ハッピーエンド】→義弟がヒロインに心奪われたことにネチネチ虐めて毒を飲んで自殺を命じられる。
ケリールート【バッドエンド】→爵位を奪われ、女癖の悪いままのエディンと結婚。生涯苦労し続ける。また、同じく爵位を奪われ平民となったケリーや両親を支援し続ける。ヒロインは戦争で命を落としている。
うん、なんで?
ケリールートが一番謎なんだよ。
婚約者が心奪われて自殺はわかる。
でもなんで義弟がヒロインと結ばれてお嬢様が自殺に追い込まれるの?
他人をネチネチ虐めるような人でもないし!
分からん……分からないから対策の考えようがない…!
くそ、ケリールートプレイしておけばよかった…!
そしてレオハールルートと俺…ヴィンセントのルートはクズ野郎のままのエディンとお嬢様が結婚して苦労するパターンだからお嬢様のことを思うとどっちも破滅エンド。
レオハール様のルートの悪役は妹姫のマリアンヌ様。
ヴィンセントルートのライバル役は、確か義妹だったな。
俺、義妹がいるらしい。
お嬢様だけが“悪役”で“ライバル”を兼任しておられる。
働きすぎですお嬢様。

「……………うーん…」

エディンのやつはアミューリア学園で叩きのめしお嬢様との婚約を破棄させて、ついでに根性も叩き直す…として、やはりケリールートが問題だよなぁ。
どうしてお嬢様がケリーとヒロインが恋に落ちると自殺に追い込まれるんだ。
ああ、今からでも攻略サイト巡りをして調べたい。
…そうだ! ケリールートのイベントの内容を思い出せれば何かヒントがあるかもしれない。
ケリールートに入らせない為にも、おさらいしておくべきだな!
ええと、確か…出会いイベントは全員同じで、その次に学園で再会するんだよな。
ヒロインはアミューリア学園に編入する事になり、そこで戦略や戦闘技術を叩き込まれる。
特に重要なのが魔力適性の高い人物を、在学中に説得して従者になってもらう事。
従者になればヒロインの使う魔宝石の魔力を借りて魔法を使えるようになる。
だがそれは、代理戦争に国の代表として出陣する事を意味するわけだ…。
で、魔力適性の高いケリーに従者になってもらうべくアプローチ(変な意味ではなく)を始めるヒロイン。
最初はのらりくらりと話をはぐらかすケリー。
だが、ある日ヒロインが故郷を思い出して城の片隅で泣いているのを慰めてから従者になる事へ積極的になる。
自分を元の世界へ還すために一緒に頑張ってくれるケリーに惹かれていくヒロイン。
そしてついに始まる戦争。
2人は強い絆で魔宝石の本来の力を引き出し、戦争を勝利に導く。
大陸の覇者となった国王は、ヒロインに元の世界に帰る術がまだ開発されていないと明かし、帰れないことを知ったヒロインはケリーの妻になって幸せに暮らしましたとさ。

「…いい話じゃないか…。…ん?」

ヒントは?
あと、お嬢様が自殺する理由は?
大まかなイベントは『出会いイベント』と『同級生イベント』と『故郷を想うイベント』←これが恋愛ルートへの入り口…そして『戦争前の告白イベント』…『戦争後のプロポーズイベント』…だよな?
え? お嬢様は?
なんでお嬢様が死なないといけないんだ?
はぁ???

「いや、そもそもシスコンのケリーがお嬢様の自殺を良しとするわけがない…。そ、それにそもそもお嬢様が虐めなんてするわけがないだろ…⁉︎ 誰かに陥れられるとかじゃないのか? うう、でも誰に…」

だめだ、手掛かりがなさすぎる。
俺とレオハールのルートはエディンのクズを根性叩き直せば回避可能だが…。
やはり確実な方法…ケリールートに入らせないことが一番だな…。
すまん、ヒロイン…ノーマルルートで一人逞しく生きてくれ…!
君のためにも俺が必ずエディンの腐った性根を叩き直すから、最悪王道のレオハールルートにでも…。

「ヴィンセント、遅くにすまないね。まだ起きているかい?」

コンコン、とドアをノックする音。
声は義父のローエンスさんだ。
…なんかスッゲー現実に引き戻された気分…。
けど、こんな時間にどうしたんだろう?

「はい、何か問題ですか?」
「ああ、マーシャがね…」
「また何かドジったんですか?」

前の貴族の屋敷ではあのドジが祟ってクビになったマーシャ。
3ヶ月ほどこのお屋敷で働いて、存外掃除や洗濯、皿洗いや食事の配給よりも薬草園で薬草の生育をさせた方が向いているということがわかった。
確かにドジはドジだが、マーシャの薬草や植物に関する知識はお嬢様でも敵わない。
田舎育ち故だと本人は言っていたが、正直あれほどの知識量…俺と同じ平民の『記憶持ち』なのではないかと疑ってしまう。
…ただ、ドジはドジなんだよなぁ…。

「お祖母様の具合が悪化したそうなんだ。それで、ウエスト区に一時帰省したいって…」
「病院から連絡が?」
「うん。…けれど、やはりマーシャの給料では外科手術は無理だろうからね…」
「…………」

リース家に雇われてからようやく体調の悪かった祖母を病院に入れられたと喜んでいたマーシャ。
だが、病院に入れて検査したところ、彼女の祖母の病は外科手術を行わなければ根治しないということが分かった。
メイドはそれなりに高給取りだが、現時点で見習い扱いのマーシャにはとても外科手術代など出せるわけもない。
旦那様に頼めばおそらく出資して下さるだろうが…あいつ先月、この家で一番高い食器五枚も割りやがったんだよな…。

「そこで考えたんだけどね、マーシャをボクの養子にしようと思うんだ」
「マーシャを、養子にですか?」
「そうすれば義父のボクがマーシャの祖母の手術代を出しても問題ないでしょう? どうかな? マーシャを養子にしても良い?」
「…良いんじゃないんですか。ローエンスさんらしくて」
「本当に? マーシャがヴィンセントの義妹になるって事だよ?」

…………。
マーシャが俺の、妹…。


「………………………………」


妹…か。

「別に。反対する理由はないですから。あとはマーシャ本人の意思では?」
「…そう、ありがとう」
「いえ、おやすみなさい」
「ああ、遅くにすまなかったね。おやすみ、良い夢を」

パタン。

遠のくローエンスさんの足音を聞きながら、俺はなぜか扉の前から動けない。
足がその場に凍りついたようだった。

いもうと。

『ヴィンセント』に『義妹』ができたって事だ。
ゲームで『ヴィンセントルート』のライバル役となる『義妹』…。
俺はその『義妹』の名前を覚えていなかった。
だが…着実に、進んでいる。
俺の『現実』が、お嬢様の破滅エンドしかないゲームの舞台へと。

ふざけるな。
あの人は、確かに愛想笑いもできない不器用な方だが…死んでいいはずない…生涯苦労し続けていいはずがない!
俺はあの人に、幸せになってほしいんだ!
ゲーム通りの結末なんて許さねぇ。
お嬢様は俺が救済してみせる!


「お嬢様…俺が必ずお救い致します…!」


貴女は、俺がずっと憧れ続けたたった一人の女性ひとなんだから。





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