【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

正妻戦争(10)




「久しぶりじゃないよ! 父さんも母さんも心配していたんだからね!」
「……ご、ごめん-」

 何やらセフィとベックは姉弟のようだ。
 それにしても、ベックとセフィ姉弟は似てないな……。
 本当に姉弟か? と失礼なことを思いつつ二人を見ているとセフィが溜息交じりに俺やベックに向けて「――はぁ……、こんなところで話をしていても周りの迷惑になるから入りな」と、語りかけてきた。

「――ああ、すまないな」
「だ、旦那!?」

 セフィの許可も下りたことだし、俺は遠慮なく建物の中に入る。
 建物内に足を踏み入れる。
 
「変わってないな」

 俺は、客の容態などを確認するために設けられた室内を見たあと、近くの椅子に腰掛ける。

「うちは薬を作るのが仕事だからね。それに作った薬は教会や商業ギルドに直接卸しだからね」
「――そうだったな……」

 俺とセフィが話をしている間に、ベックが建物の中に入ってくると音を立てないように扉を閉めてから、俺の隣の椅子に座ってきた。

「旦那は、姉さんと知り合いだったんですか?」
「まあな、以前に薬草採取の手伝いをしたことがあるんだ」
「そうっすか……」

 ベックが小さく溜息をつきながら、俺が視線を向けている方向へと顔を向けていた。
 視線の先には、お茶の用意をしているセフィの姿があり。

「それにしてもお前と似てないな」
「姉さんは、母さんの連れ子だったんですよ」
「なるほどな……」

 そういえば、以前に両親にはあまり頼りたくないって雰囲気を醸し出していたな。
 俺とベックが小声で話をしていると、目の前のテーブルに木を削って作ったマグカップが置かれた。

「何も出さないわけにはいかないからね」
「別に何も出さなくも問題ないぞ?」
「そういう訳もいかないよ」
「そうか……」

 俺は、目の前に置かれたマグカップを手に取ると口をつける。
 味としては、日本茶の濃い目の味と言ったところだろう。
 
 ――日本から転移してきて10年以上経っている。そんな、俺が故郷の味を感じられる薬草茶は悪くはない。
 ただ、配合が難しいから自分では作れないんだよな。

「――まずっ!? これ、薬!?」
「そうよ。体には良いから飲んでいるのだけども……、貴方には好評みたいね」
「まぁな……、ところで頼みがあって来たんだ」
「頼み? 生活魔法の使い方かい?」
「生活魔法は、一通り使えるようになったから、教えてもらう必要はないんだが……」

 俺の言葉に、セフィが「なら――、何のために、こんな夜に尋ねてきたんだい?」と問いかけてきた。

「実は、俺の――」
「おかあさん……」

 俺が、話始めようとしたところで、部屋の扉を開けて5歳前後の女の子が、眠そうな目をして入ってきた。
 女の子はセフィの近くまで歩いていく。
 そんな女の子をセフィは抱き上げると膝の上に乗せて頭を撫でていた。

「ああ、なるほど……。もう寝る時間だったのか?」
「そうだね」
「それよりもずいぶんと大きくなったな」
「そりゃあね。あんたが町を出て行ってからかなり経つからね」
「いや、町を出て行ったというより、俺はギルドのクエストで来ていたからな、出ていくのは当たり前だろ?」
「そりゃあね……」

 俺は、セフィの娘マリーを見ながら話をしていると、セフィの娘が俺の方を見てくる。
 マリーは眠そうな瞳で俺をジッと見ていると、ハッ! とした表情をしたあと、母親の膝元から降りると、マリーが、「パパッ!」と言って近寄ってくる。
 マリーは、俺の膝を昇ってきようとするが上手くいかない。

「パパッ……」
「セフィ、お前……」

 俺は、セフィの方を見ると彼女は両手を合わせて無言で頭を下げてくる。
 神様でも何でも無いんだが……」
 
「だ、旦那……、パパって――!?」
「勘違いす――「パパッ?」……」

 俺は、紡ぎかけていた言葉を途中で閉じる。
 まだ、幼いマリーが居る。
 俺が思っていることが本当なら、まだ事実を告げていないのだろう。
 
「ま、まぁ……、想像に任せる……」

 俺は、膝の上にマリーを乗せて頭を撫でながら心の中で深い溜息をついた。

「ま、マジですか……、旦那が俺の義理の兄!?」
  




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