【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

正妻戦争(5)




「それよりも……、この白い山は一体――」

 ベックは、俺から視線を逸らすと町の中央。
ソドムの町の中央にそびえ立つ石鹸の山を見ながら俺に問いかけてきた。
 
「まぁ、あれだ――。何と言うか……」

 俺は案内してきた兵士を横目でチラリと見ながら言葉を濁す。
 そもそも、俺はアイテムボックスが使えない。
 そして、そのことをベックも知っている。
 何せ、最初の奴隷との取引の際に塩を麻袋に入れて持ち運びしていたから。
 ニードルス伯爵に、アイテムボックスから石鹸を出したと説明したから、ここでベックにアイテムボックスから出したというと、話が食い違ってくることになる。
 もし、そのことがニードルス伯爵に知られたら、俺が築き上げてきた信用が崩れてしまうことになるだろう。

 俺が何と説明していいのか躊躇していたところで、ソルティも興味を引かれたのか石鹸で出来た山の方へと視線を向けると「全ての白い物からカンダさんが感じられます」と、言い放った。

「……ま、まあ……、そりゃ俺が作ったものだからな……」

 アイテムボックスから出したとも言わず、生活魔法で作ったとも言わず中間地点を見極めるようにして俺は言葉を口から吐き出す。
 
「きっと! カンダさんの! 白いぬるぬるした液体からも! カンダさんがふがふが――」

 俺は途中でソルティの口を塞ぐ。
 人が避難して居ない往来の通りと言っても、少しは自重してほしいものだ。
 
「それでベックは、あの山に驚いていたって事はソドムの町に着いたばかりなのか?」
「はい、カンダの旦那は違うので?」
「俺は――、昨日だな」

 ベックの問いかけに答えながらも話を逸らす事が出来たことに内心ガッツポーズをとる。

「ところで、どうしてソルティと一緒に行動をしているんだ?」

 俺は最初に聞いておかないといけないことを忘れていた。

「そりゃ、ソルティさんにカンダの旦那に会いに行きたいと頼まれまして」
「そうか……」

 俺は別にソルティには村から出るなとは言った。
 ただ、それをベックが知っているわけもない。
 彼女が、約束を破るとは思っていなかった。
 いや、こいつを唆した奴が問題か……。
 それにしても香辛料とか言っていたな……。

「ベック、一つ聞きたいんだが――」
「何でしょう?」
「さっき、香辛料と言っていたが――」
「ああ、ソルティさんから色々ともらったので――」
「……ソルティ」
「――んっ。勘違いしないで。私は神田さんのものだから。体は許してないから安心して」
「いや、そういうので心配はしてないが――」

 俺は安易に香辛料を作り出したのか? と思っただけだが……。
 案内してきた兵士も居る手前、余計なことを聞くことも出来ないからな。
 
「――神田様」

 ソルティに何と問いかけていいか迷っていたのを、会話が一区切りついたと思ったのか兵士が話かけてきた。

「どうかしたのか?」
「はい。大まかな被害などもご理解頂けたと思いますので、そろそろ戻りましょうか?」
「そうだな――」

 そういえば、エルナとニードルス伯爵がどういう話をしたのかも気になる。
 あまり長い時間を、エルナ一人だけにしておくのも問題だろう。
 さすがにエルナに用事があったと言っていても、まだまだエルナは子供だからな。
 何か変なことに巻き込まれたりしたら、リルカに怒られそうだ。
 そう考えると早く帰ったほうがいいかもしれない。

「神田さん。何かあったんですか?」
「いや――、じつはリルカの妹のエルナがニードルス伯爵と対話しているんだが……」
「エルナって、あの腹ぐ――「神田様、そろそろ馬車に――」……」

 ソルティが何かを言いかけたがさすがに兵士をいつまでも待たせるわけには行かない。
 俺は兵士の言葉に頷くと馬車に乗る。

「ソルティ、ベック。俺はすぐに村に戻るから、先に戻っていてくれ。その際に、今後の話をしよう」
「了解ですぜ、旦那!」

 ベックが頷くのを確認すると同時に、馬車は走り出した。
 それと同時に「ここまで来て帰るなんて選択肢は存在しません! ベック! 神田さんの乗った馬車を追うのです! ハーリー、ハーリー」と言うソルティの声と、「ソルティさん、背中を叩かないでください」と言う声が聞こえてくる。

 窓から後ろを見ると、ベックの馬車が追いかけてきていた。
 どうやら、ソルティは帰るつもりはないようだな。
 それにしても、エルナは大丈夫だろうか?
 ニードルス伯爵に失礼なことをしていなければいんだが……。
 





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