【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

農耕を始めよう(18)




「エイジさん」

 リルカの声に俺はうっすらと目を開ける。
 俺の腰の上にはリルカが乗っていて頬をうっすらと赤く染めていた。

「どうし……ハッ!?」

 ――昨日、生活魔法を発動させた際に作り出した石鹸。

 その際に、分量というか必要な魔力の消費量を俺は間違えた。
 本来なら退避後に、石鹸の事と俺は悪くない! 魔王が悪いと被害者を装うことをするはずだったのに、それをする前に俺は意識を失って倒れてしまった。

「エイジさん、どうかしましたか?」
「いや……んっ――」

 俺の腰の上に乗って体に抱きついてくるリルカは、扇情的な表情で口付けを交わしてくる。

「ふふっ――。昨日は、別々の部屋に寝られないと思っていましたから、良かったです」

 リルカの言葉に「そういえば――」と、部屋の中を見渡す。
 部屋の中は簡素な作りで壁も床も天井にも木材が利用されていて、遺跡を利用して建てたられているソドムの町の建物とは赴きが異なる。
 まぁ、俺としては高級な部屋だと落ち着かないので、こういうテーブルと椅子とベッドとクローゼットしかない簡素な作りの宿屋の方が好きではある。

「この部屋は……?」
「ここはソドムの町の南側に位置する宿屋です。昨日の貴族が部下の方に命じて部屋を用意してくれたのです」
「――なるほど……」

 俺はリルカの言葉に頷く。
 以前に、ソドムの町に来たときには、西門から入ってカルーダの冒険者ギルドから受けた依頼を遂行していた。
 そして人口1万人の都市ということもあって町は、それなりの規模がある。
 全てのエリアを見て回ったわけでもないから、俺が知らない場所があってもおかしくはないだろう。

「すまなかったな……」
「エイジさん、謝罪をするのはいいです。でも、妻に内緒で外に女を作るのは良くないです。気をつけてくださいね!」

 リルカが少し怒った口調で語ってくるが、昨日のように殺気を放っていないことから、少しは落ち着いたのだろう。

「わかった。次回から気をつける」

 俺の言葉に「分かりました。それならいいです」と、リルカが体を預けてくる。
 そして彼女に、昨日は何があったのか語りかけようとしたところで、寝息が聞こえてきた。
 もちろん、寝息を立てているのは俺の妻であるリルカで、昨日は俺が気絶してから何が起きたのか聞こうとしていたが、彼女が寝てしまったので俺は内心溜息をつきながらもリルカが目を覚ますのを待つことにする。
 そんなことを思った時に、扉が三度ノックされ「カンダしゃん、少しいいでしゅか?」と、エルナの声が聞こえてきた。

「ああ、別に構わないが」
「入るでしゅ」

 リルカの妹であるエルナが断りを入れて部屋の中に入ってくると、俺とリルカを見て「お邪魔だったでしゅか?」と、語りかけてきた。
 たしかに、寝ている男の上の――、しかも腰の上に乗って体を預けている女の姿を見れば、そうとしか思えないのは世の摂理だろう。
 ただ、俺とリルカも服を着ているし、やましい事など一週間くらいしていない。
 至って健全な状態だ。
 誤解もいいところであり、そこは断固として「お邪魔ではない」と、発言させてもらう。

 俺の言葉に、エルナが近づいてくると布団を捲って「そうでしゅか……、たしかに何もしてないようでしゅね……」と、言ってくる。

「エルナ」
「何でしゅか?」
「お前は、まだ子供なんだからあまりそういうのはよくないぞ?」
「――大丈夫でしゅ! こういうのは、よくおかあしゃんから教わったでしゅ!」

 エルナの言葉に、俺は溜息をつきながら思う。
 一体、自分の娘に何を教えているんだ? と――。

「それで、要件は何なんだ?」
「宿屋を用意してくれた人が、カンダしゃんに会いたいらしいでしゅ」
「……そうか――」

 まずいな。
 事前情報が何もないというか、町が石鹸に飲み込まれていく光景を見たあとの記憶がまったくないから、相手との交渉をどうすればいいのか分からないぞ?
 しかも、これだけエルナと話をしていてリルカが目を覚まさないという事は余程疲れているのだろう。
 
「エルナ、お前に頼みがあるんだが――」
「何でしゅか?」
「少し、俺と付き合ってくれないか?」
「――!?」

 突然、エルナが自分の胸を触り始めて「まだ、小さいのに問題ないのでしゅか?」と意味不明なことを言い出した。
 
「あれだ――。昨日は俺が気絶した後、獣人の女性達もエルナも町がどんな状況になったのか、宿屋を用意してくれるまで一通り見ていたんだろう?」
「そうでしゅけど……」

 俺の言葉を聞いているエルナが、胸を触りながら「まるで成長していない……」と、独り言を言いながら、それでも俺の問いかけに答えてくる。

「それなら、エルナでいい」
「わ、わわ、私でいいのでしゅか?」

 幼女が目を輝かせて俺に「ほんとうに、まだ成長してないのにいいでしゅか?」と問いかけてくる。

「ああ、エルナじゃないと駄目だ」
「分かったでしゅ! お姉ちゃんの分までエルナは頑張るでしゅ!」
「それと勘違いさせたら困るから言っておくが、別にエルナを嫁に欲しいとかそういう意味じゃないからな」
「ふぇ――!?」

 とりあえず、勘違いさせたらいけないと思いエルナにはきちんと伝えておく。
 以前にも問題になったからな。
 ハッキリとさせておくのがいいだろう。

「カンダしゃんのバカ!」

 何故か分からないが、俺はエルナに殴られた。
 やはり思春期の女性は、扱いが難しいな――。




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