【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

農耕を始めよう(11)

 兵士に案内されて建物内へと入る。
 床には絨毯が敷かれているということはなく、白い大理石が敷き詰められているだけであり歩くと音がよく響く。
 さすがにシャンデリアや、電気を利用したライトなどは見当たらないが、それでも日が高いこともあり洋館内は十分な明るさに満たされており歩くのに支障はない。

 建物内の壁には、よく分からない風景画などが等間隔で飾られている。
 異世界においても高貴な身分の人間が絵を飾るのは、地球と似て居るのかも知れない。

 何人ものメイド服を着た女性と擦れ違う。
 その都度、値踏みされるような視線に晒されるが、俺はリルカと手を繋いだまま兵士の後をついていく。
 しばらく歩いたところで、通路の突き当たりには木製の両開きの扉が存在していた。

「神田栄治様、こちらのお部屋でニードルス伯爵様がお待ちです」

 兵士は扉をノックした後、2メートルを越える扉を開けていく。
 扉を開けた兵士は、その場で立ち止まりながら「神田栄治様。どうぞ、中へ――」と、部屋の中に入ることを進めてきた。
 どうやら、兵士は部屋の中にまでは入らないようで。

 俺が躊躇していると部屋の中から、「神田栄治が来たのですか!?」と、言う何かに遮られたようなくぐもった声が聞こえてきた。
 どうやら、俺を待っていたのは本当のようだな。

「――神田栄治様、申し訳ありませんが……、まずはお一人だけで入室して頂けませんか? スザンナ様は、他人と関わるのが苦手な方でして――」
「そうなのか?」

 俺は、兵士の言葉に首を傾げる。
 領地運営をしていく上で、他人と関わるのは避けては通れないことだと思うのだが……。
 
「……仕方ない。リルカ、ニードルス伯爵様から許可が貰えるまで扉外で待っていってもらえるか?」
「……はい」

 リルカが落ち込んだ様子で肩を落とすのを見て思わず彼女を強く抱きしめる。

「大丈夫だ。すぐに話を纏めるから待っていてくれ」
「――はい」

 よく知らないが、リルカは人間の町に来てからずっと構ってほしいという雰囲気を漂わせている。
 そんな彼女を抱きしめると、微かに体が震えていることに気がつく。

 しばらく彼女の体の震えが収まるまで抱いていると「神田栄治様、そろそろ――」と兵士が俺に語りかけてきた。

「あ……、すまない。それじゃ行って来る」

 リルカから離れて部屋に入ると、室内の壁には数多くの本が納められている棚があり、その部屋の中央には大きめの木で作られた机が置かれていた。
 机を挟んだ向いには一人の女性? が座っていて右人差し指で何度も机を軽く叩いていた。
 室内の女性? を、見たと同時に背後で扉が閉められた音が聞こえてくる。 

「あの――、私はこれでも一応は伯爵家当主なのですよ? 神田栄治さんは、貴族に対して振る舞いがなっていないと報告は、かなり昔から受けていましたけど……、まさか男女の陳情を目の前で見せられるとは想像しておりませんでした」
「……それは、すまなかったな」

 俺は、机を挟んだ対面に座っている人間を見ながら肩を竦める。

「それに。そんな面を着けているんだ。相手に自分の顔を見せない時点で、俺としてはお互い様だという認識になってしまうのだが?」

「そうでしたね。申し訳ありません、私は容姿が醜いからと、幼少期より両親に嫌われておりましたので――」  
「……それは、すまない」
「いいえ。貴方の連れていた獣人の女性は、美しい方でしたね?」
「ああ、リルカのことだな。俺の自慢の妻だ」
「そうですか……、男性のお相手がいる女性は羨ましいですわ」

 ニードルス伯爵は小さな溜息と共に、俺にではなく自分自身に語りかけるように言葉を紡いでいた。

 ――それにしても巷で、ニードルス伯爵家の令嬢スザンナは可愛くないとか社交界において汚点だとか言われていたが、仮面をつけないと人とは、まともに話せないまで酷いとなると色々と問題が出てくるし、深く関わりにならないほうがいいだろう。

「――で、俺のことを探していたらしいが何かあるのか? 生憎、俺は開拓村エルの村長をしていて別の依頼を受けることは出来ないのだが?」
「はい、存じております。実は、お願いがありまして――」
「願い?」

 なるほど、つまり石鹸の話を兵士がしていたということは石鹸納品をお願いしたいということで間違いないだろう。
 深く関わっても面倒ごとにしかならない気がするから、ここは願いを聞いて石鹸を渡した後、対価をもらって、さっさとニードルス伯爵邸から離れたほうがいいかも知れないな。

「あの――、神田栄治さんは……、獣人を妻に持つということは、獣が好きということですよね?」
「――ん? 好きというか……、何と言うか……」

 話が見えないぞ?
 どうして獣人が好きかどうか聞いてくるんだ?
 
「お嫌いなのですか? それとも兎族以外の獣じゃないと駄目なのですか?」
「いや……、嫌いとか嫌いじゃないかという以前に、そんな偏見な目で見たことはないな。むしろリルカやほかの獣人の女性に限っては、可愛い子が多いと思ったまである」
「――本当ですか!? 今の話は本当なのですか!? 兎族でもオーケーですか?」

 俺の言葉の真偽を確認しようと椅子から立ち上がって近づいてきたニードルス伯爵から、少し距離を俺は取った。
 それよりも、どうして兎族がここに出てくるんだと思いながらも、エルナが「兎族は面倒で、構って上げないとしんじゃうでし!」と、言っていた言葉を思い出す。
 いやいや、あれがフラグになっていて、ニードルス伯爵が兎族で、だから仮面で頭を隠していると、そんなこととか……。
 
 ――いや、ないな。

 そんなフラグを回収するような主人公気質を俺が持っているわけがないからな。
 ここは、面倒そうだからスルー推奨だろ。

「申し訳ありません。少し興奮してしまったようです」
「い、いや――、別にいいんだが……」

 さっさと用件を済まそう。
 相手のペースに合わせて話をしていたら大変なことになりそうだ。

「それで俺を呼んだ本当の理由を聞かせてもらってもいいか?」
「はい。実は――、ソドムの町は遊楽町とも言われておりまして男女の秘め事が多い町なのです。そのため、身を清潔に保つための意味も含めて貴方が無償で提供して頂きました石鹸を大量にほしいのです」
「なるほど……」

 俺は顎に手を当てる。
 つまり歓楽街というか遊楽町のために石鹸が欲しいから俺を呼んだということか?




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