【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

農耕を始めよう(7)

「ああ、ソルティは快諾してくれた」

 俺の言葉にリルカは微笑むと「そうなのですか? 良かったです。これから、よろしくお願いしますね。ソルティさん」と、手を差し出す。

 すると、その手をソルティは掴むと「こちらこそ、よろしくお願いします。女神業をすることになったソルティですので、ソルティ様と呼んでくださいね?」と、呟いていた。

 ソルティの言葉を聞いたリルカは、チラッと俺の方を見てくる。

 ――彼女の目からは、「どう言った話をして承諾を得たのですか?」と、俺に問いかけてきているような気がした。
 
「エイジさん、少しいいですか?」
「――ど、どうしたんだ?」

 リルカが、近づいてくると俺の腕を掴むとログハウスの外へ連れ出し壁に押し付けてくる。
 所謂、逆壁ドンという奴であった。

「エイジさん、女神業って何ですか?」
「いや――、ほら、ソルティが落ちこんでいたから元気になれば、こちらの要求が通りやすくなると思って……」
「どういうことですか?」
 
 リルカが首を傾げながら、俺に問いかけてくる。

「じつはな、塩湖にある塩ってソルティの魔力で作られた物らしいんだよ」
「――え? そうなのですか? 食べて大丈夫なのですか?」
「ああ、大丈夫らしいが……、問題はそこじゃない。塩湖の塩はソルティの私物ってことになるのが問題なんだよな」
「――あっ!?」
 
 俺の言わんとしている意味がリルカも分かったようで「なるほど……、そういうことでしたか」と、頷く。

「つまり、塩を提供させるために女神として奉って煽てるということですね?」
「もう少し、オブラートに包んでくれ……。まるで、俺がソルティを騙しているようじゃないか……」
「でも、本当のことですよね?」
「否定はできない。だが――、一応は女神扱いをする」
「大丈夫なのですか?」
「大丈夫とは?」
「いえ……。私を崇めなさい! とか暴走したりしないでしょうか?」
「ふむ――、そのへんは上手くやるしかないな……。まぁ、村内だけで女神様! と言う方向に持っていくとして外部には漏らさないようにしておこう。リメイラール教会関係から横槍が入っても面倒だからな……」

 俺の説明に、しぶしぶと言った感じでリルカは、「仕方ないですね。わかりました」と、小さく溜息をつくと俺から離れるのと確認した後、俺はリルカやエルナを共だって、塩湖に塩を取りにいく。

「それで、どうして……、こんなに人数が?」

 塩湖に到着したところで、塩湖には獣人が全員で塩を切り出して麻袋に詰め込んでいた。

「いえ、実は……」
「お姉ちゃんだけ新婚旅行はだめでしゅ! エルナも一緒にいくでしゅ!」

 エルナが、俺に抱きつきながら抗議してくる。
 
「もしかして、エルナは、ログハウス内の俺とリルカの話を立ち聞きしていたのか?」
「――ッ!」

 リルカが、横を向くと「何のことか分からないでしゅ」と、口笛を吹きながら呟いていた。

「はぁー……。まったく――」
「仕方ないです……。エイジさん、新婚旅行は次回としましょう? みんなでソドムの町に行くのはどうでしょうか?」
「ふむ……、そうだな――」

 俺は周囲の獣人へ視線を向けると彼女らは手を止めていたが、すぐに塩の塊を麻袋に入れ始めた。
 
「リルカ」
「はい、何でしょうか?」
「獣人は、みんなで動くのが普通なのか?」
「そうですね……。一応は――」
「そうか……、なら皆でソドムの町に行くとするか」

 まぁ、獣人であるリルカを妻に持つのだ。
 少しは獣人の生活習慣を理解しても悪くはないだろう。
 俺の言葉に、その場にいた獣人たちは笑顔を見せてきた。
 やはり、獣人はグループで動くのが普通らしいな。

 ――その後、全員で麻袋に塩を入れて村に戻ることになった。
 塩を入れた袋の数は13袋で量としては合計で500キロ近いだろう。
 全部の作業が終わったあとは昼を少し回っているくらいであった。

「リルカ、昼食を作っておいてくれるか?」
「分かりました。それで、エイジさんは?」
「ああ、ソルティにソドムの町に行くことを説明しにいくんだ」
「そうなのですか? 彼女も連れていくのですか?」

 リルカの言葉に俺は肩を竦める。
 さすがに、ソルティを連れていく訳にはいかない。
 あの社会不適合者を町に連れていったらどうなるか想像もつかないからな。

「いや、連れてはいかない」
「――そうですか……」

 リルカの落ち込んだ言葉を聞きながら俺はログハウスの中に入る。
 すると「エイジ待っていましたよ?」と、ニコリとソルティが俺に話かけてきた。

「ソルティ」
「分かっています。エイジよ! この私が女神としての仕事を! ソドムですればいいのですね?」
「いや――、ソドムの町に来なくていいから」
「――え? 嘘だよね?」
「いや、マジで! 女神が営業するとかだめだろ?」
「……で、でも! ほら! 神秘的な力を見せたりしたら信者が増えるかも知れないし!」
「うーん……」

 塩や香辛料を作り出す能力って女神としてどうなんだ? と俺は思わず突っ込まずには居られないんだが……。
 そもそも、塩とか香辛料は高く売れるわけで、その秘密が王宮とかにバレたら高待遇でソルティを引き抜かれる可能性だってある。
 そうすると俺としても困るわけで……。
 ここは何とかしてソルティを説得しないといけないか。

「ソルティ、良く聞いてくれ!」

 俺は彼女の華奢な両肩に手を置く。

「――う、うん? 一体、どうかしたのですか?」
「俺は、お前が! とても大事なんだ!」

 そう、引き抜きなんてされたら困る。
 ここは誤解でもいいから誤解してもらおう。
 そして、何かあったら、有耶無耶にしよう。

「――え!? それって、どういうこと?」
「これ以上、言わせるな……、つまり、そういうことだ」

 彼女は少し思案顔をした後に、頬を赤く染める。

「それって、そういうことよね? 貴方いいの? 一応、私とか女神なのだけど?」

 俺は彼女の言葉を肯定も否定もしない。
 ただ、まっすぐに彼女の瞳を見ながら、心の中で元・女神だけどな! と突っ込みを入れておく。
  
「分かりました。神田栄治の帰りを待っていますね」
「すまないな。これを――」

 俺は、エンパスの町で購入してきた種をソルティに渡す。

「これは?」
「暇な時間があったら適当に地面にでも蒔いておいてくれ。ただ、それは夏に蒔くものだから、秋口に差し掛かった今では芽は出ないと思うから、芽が出なくても気にしないでくれ」
「――う、うん……。早く帰ってきてね……」

 何故か予想外に、ソルティがしおらしくなってしまったので、チョロすぎると心配になってしまった。
 そしてソルティを説得できたこともあり翌日、俺たちはソドムの町へ向けて出立することが出来た。




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