【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記
農耕を始めよう(5)
朝食を摂った後、リルカを供だってログハウスから出ると何人もの獣人の女性が、森の中で木々を切り倒している光景が目に入った。
「みんな、何をしているんだろうな?」
「恐らくは巣作りだと思います」
俺の言葉に、若干だが険のあるような言い方でリルカは答えてきた。
それにしても、巣作りとは……。
何だか色々と余計なことを思ってしまうのは、俺も煩悩があるということだろう。
「――チッ、ずいぶんと早い行動ですね……」
あれ? 今、リルカが舌打ちしたような気がしたが気のせいだよな?
俺、何かしちゃいましたか?
あとでエルナ先生に、獣人の巣作りについて聞いておく必要があるかも知れない。
「あっ!? カンダしゃん!」
二人して、村の北の方角で木を切り倒している獣人を見ていたところ、リルカの妹であるエルナに見つかったのか彼女が俺の名前を呼びながら駆け寄ってくる。
「――あっ!? だめよ! エイジさんは!」
リルカがエルナの首元を掴もうとしたところで、一瞬、エルナの姿が消えて俺の胸に飛び込んできた。
身長が1メートルちょいのエルナは、その低い身長もあって胸に飛び込んできてもとても軽い。
そんな彼女を軽い音と供に受け止める。
「スーハースーハー、カンダしゃん……お姉ちゃん臭いでしゅ――、これは……」
「いい加減にしなさい!」
リルカがエルナの首元を掴むと俺から引き剥がす。
何故か知らないが、さっきまで上機嫌だったリルカが嘘のように機嫌が悪いように雰囲気から察することが出来る。
余計なことは言わないほうがいいだろう。
「そういえば、ソルティはどこにいるんだ?」
開拓村エルには、いまのところ建物は二つしか存在しない。
俺とリルカが住むログハウスと、それ以外の獣人が住まうログハウス2号だけだ。
そして村の中に獣人の姿はあれど、ソルティの姿は見当たらない。
「ソルティちゃんは、放っておいてって言っていて建物から出てこないでしゅ」
「そうなのか?」
「でしゅ!」
――ふむ。
まぁ、あいつも女神としての職務を解雇されてニートになったわけだからな。
色々と思うところもあるのだろう。
俺も会社をクビになってハローワークに毎日通っていたときは、色々と思ったところがあったからな……。
たとえば俺が就職できないことは社会が悪いとか。
給料が低いのは社会が悪いとかな。
そして、そういう時に限って面接とかで落ちるとゲームしたりして時間を浪費するんだよな――。
まぁ、異世界にはそんなものは存在していないから気分転換もできないだろう。
「リルカ、俺はソルティが管理していた塩の湖から塩を貰う許可を確認しにいくから、麻袋の用意をしておいてくれるか?」
「はい、エルナも手伝いなさいね?」
リルカに片手で持ち上げられていたエルナが「でしゅー」と答えていたが、それは果たして了解という意味なのかと突っ込みたいところだ。
二人のやり取りを、遠くに聞きながら俺はログハウスの中へと入る。
そして思うことがある。
どうして、女性が大勢生活をしている場所は、いい匂いがするのかということだ。
「……ソルティ?」
そんな良い匂いの部屋の中の一角――。
部屋の隅っこで、膝を抱えて天井を眺めている少女に俺は話かけた。
――だが、彼女から帰ってきたのは無言の光りが消えた瞳。
「――お、おい。だ、大丈夫か?」
ソルティは、空ろな眼差しのまま俺に視線を向けて「私……、どうしたらいい?」と問いかけてきた。
それは、俺に語りかけてきているような気がするが、一体、どんな精神状況に置かれているかまったく分からない。
そんな状態で適当に答えていいものなのか――。
「私、女神をクビになった……。神田栄治と同じニート……、生きている価値がない」
「おい! お前、言って言いことと悪いことくらいあるってことに気がつけよ! たしかに、俺はハローワークに向かっている途中で、この世界に来たからニート継続かもしれない。だが、いまは一応、開拓村の村長という仕事しているし……、しているのか?」
俺は顎に手を当てる。
よくよく考えれば、俺は村を開拓するような仕事をしていないような気がする。
そもそも、リルカを妻にするのに定期的な収入がないような……。
いまは冒険者時代に貯めていたお金を切り崩して生活をしているようなものだ。
まぁ、塩を売買するという方法もあるが、それだけに頼るのもよくないだろう。
それよりも、俺とか冒険者ギルドから給料もらってないような……。
あれ? そうなると俺って……。
いやいや、考えたらだめだろう。
今の俺は村長――、人の上に立つのが仕事だ。
「ソルティ! お前には塩大臣の職務を与えよう!」
そう、こういうときには適当に役職を与えて気分転換させるのがいいだろう。
「塩大臣?」
ソルティが、首を傾げながら俺の言葉に反応してくる。
「ああ、塩の湖で塩を採取して、それをお金に変えるための役職だ! 人の役に立つ仕事だぞ?」
「それって、私が居た場所の塩を売り飛ばすってこと?」
「――ん? ああ、そうだが?」
俺の言葉に、ソルティは目を見開いた。
どうやら、俺の説得が功を制したようだな。
ソルティは、体育座りを止めて立ち上がると、手の平に10センチほどの塩の塊を作り出す。そして投球フォームを取ると、「神田栄治のバカ! あれは私が長い時間をかけて蓄積した私の魔力なのよ! それを売り飛ばすなんて最低!」と塩の塊を投げつけてきた。
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