【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

どなどな




 ログハウスが完成したのは、良かった。
 問題は、お風呂に全員入って出てからおきた。

「カンダしゃん……」

 エルナが、他の獣人達と一緒に寝ることになったことだ。
 瞳に涙を溜めてながらも、もう一軒のログハウスへと一緒に向かってしまう。
 それはまるで、ドナドナされていく子狐のようだ。
 まぁ、エルナは狐族の幼女だから子狐で合っているが……。

「なあ、リルカ。エルナは、まだ幼いのだから一緒に居てもいいんじゃないのか?」
「――で、でも!」

 他の獣人を別にして暮らさせるのは、俺を狙っているという前提が成立しているのなら効果はあるだろう。
 だが、エルナは俺の義理とは言え妹となるのだ。
 つまり家族だ。
 家族が別々に暮らすのは良くはない。
 たとえ獣人の仕切りたりだったとしても、そういうのは良いとは思えない。

「リルカ、お前が何を焦っているのか俺には分からないが、同じ家族を蔑ろにするのはだめだと思うぞ?」
「ううっ……」
「俺は姉妹仲良く一緒に! が信条だからな!」
「――! わ、わかりました! 仕方ないですね! エイジさんが、それほど姉妹を一緒に! を望むなら! エルナ! エイジさんの許可が下りたわ!」
「おいおい、大げさだな」

 まったく、別に俺が許可を出したわけでもない。
 むしろ俺がリルカの説得をした側だ。
 やはり獣人というのは良く分からないものだな……。

 嬉しそうな顔をしてエルナがスキップするかのように軽やかに走ってくると目の前で足を止めて「カンダしゃん! まだ大きくないのにいいのでしゅか?」と、自身の胸に手を当てながら聞いてきた。
 俺は首を傾げた。
 エルナは何を言っているのだろうか?
 胸の大小で、俺が義理の妹になるかもしれない子を差別するわけが無いのに。

「エルナ」
「はいでしゅ?」
「俺は、身体的特徴で差別なんてしない。それは、もっとも人として行ったらいけない事だからな」
「カンダしゃん……」

 エルナが金色の尻尾を大きく左右に振りながら俺の腰に抱きついてきた。
 やれやれ……、色々なことを知っていてもやっぱり子供だな。



 俺とリルカとエルナは、いつも通りログハウスの中に入る。 
 そして夕食は、リルカが作っていたがエルナも率先して手伝いをしていた。

「ふむ……」

 俺は、リルカとエルナを見ながらやっぱり姉妹は仲良くないと! と、考えながら毛皮の上で寝そべっていて気がついた。

「リルカ、向こうにも毛皮を持っていったほうがいいよな?」
「そうですね、エルナ!」
「はいでしゅ!」

 リルカが手を上げて、纏められている毛皮を両手で抱えると外へ出て行こうとする。
 ただ、毛皮の体積がエルナの体と比べて遥かに大きい。
 扉を開けても出入り口で突っ掛かってしまう。
 エルナが四苦八苦して、扉から出ようとするが、出られないようだ。
 リルカも横目で見ているだけで手助けしようとしない。
 まったく困ったものだ。
 俺は立ち上がり後ろからエルナが必死に両手で持ち上げていた毛皮を代わりに持った。
 するとエルナが「――あっ!?」と、驚いた声色で俺を見てきた。
 リルカも俺の行動に驚いた表情を見せてくる。

「どうかし――あっ!?」

 彼女達に問いかけようとしたところで、どうして彼女達が驚いた表情を見せてきたのか分かった。
 
 エルナが以前に説明してくれたことが本当なら、狐族の習慣は極めてライオンの社会形態に近い。
 そしてライオンの雄の仕事は、雌が捕ってきた食料を食べて危険が迫ったら雌や子供を守るのが仕事。
 つまり、危機感がない状態での仕事――つまり、毛皮を届けるという仕事は女の仕事かもしれないのだ。
 そこまで考えたところで下手に手を出してしまった事に内心溜息をつく。

「すまない。余計なことをしてしまったな。ただ、見ていられなくてな……」
「カンダしゃんは悪くないでしゅ……」
「そうか。エルナ、扉を開けておいてくれ」
「分かったでしゅ……」

 しぶしぶと言った感じでエルナが扉を開けてくれた。
 俺は扉から出る。

「私もついていきます!」

 扉から出るとリルカが、慌てて近づいてきた。
 
「大丈夫だ、魔物などが居ても膝の痛みはないからな。ある程度までは、対処できるから」
「――いえ、そうではなくて……分かりました。エルナ、カンダさんを守るのよ?」
「分かったでしゅ!」

 別にエルナに守られるほど俺は弱くないんだが、まぁ心配してくれているのは伝わってきた。
 毛布を俺が届けた時、山猫族と狼族は尻尾を千切れんばかりに振って俺に近づいてきた。
 ログハウスの床が乾いていない木の板だと不都合があるのだろう。
 
 帰り道にエルナが「何事もなくてよかったでしゅ。今日は姉妹でエイジ丼でしゅ!」と意味不明な言葉を言っていた。
 何か不吉な言葉な気がした。
 遅くまでおきていたら駄目だと! 本能が俺に語りかけてきた。
 俺は夕食後、リルカとエルナが木の器を洗っている間に夢の中へと旅立つことに成功したが、翌朝に目が覚めるとリルカとエルナが二人して怒っていた。
 やはり昨日の夜は何かやろうとしていたのだろう。
 果たして姉妹でエイジ丼とは何なのか? 謎は深まるばかりだ!




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