【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

リアside (2)



 カルーダの港へ、一攫千金を夢見て出稼ぎにソフィアと出てきた私たちは、冒険者になった。
 最初の数ヶ月間は、本当に大変な毎日だった。
 残り少ない資金を切り詰めて宿を取って、その日暮らしをする日々。
 最後には、宿代も払えなくなって追い出されてしまった。
 そんな不幸のどん底にいた私とソフィアの前に現れパーティに加入したのは黒目黒髪の男性だった。

 ソフィアは、ハーフエルフということで精霊眼を持っていた。
 彼女が言うとおり、カンダという男性は、神官としての才能をもっていて本来は30日前後かかる魔法の講習を数日で終えて戻ってくるという離れ業をやってのけて彼は戻ってきた。

 彼は、ソフィアと一緒に部屋に入ってくると私の容態を見て回復魔法をかけると「どうだ? 大丈夫か?」と、自信無さそうな声色で私を心配してくる。
 
「大丈夫なの――」
「本当か? 辛そうなら言えよ?」

 彼は、ベッドで横になっていた私に優しく語り掛けてくる。

「そんなに心配しなくていいの」

 私は、ベッドから立ち上がるけど、ずっと寝ていたからなのか……ふらついてしまい倒れそうになる。
 そんな私を「あぶない!」と、カンダという男性は支えてくれた。

 私は、顔が赤くなっていくことを自覚しつつ、「ありがとうなの」と、お礼を言うと、すぐに彼から離れた。
 心臓が早鐘を打っている。
 今まで、村では魔法が使えるおかしな女と見られていた。
 だから男性には煙たがられていたし、彼みたく優しく接してくれる異性はいなかったから、初めてのことで――。

「リア、本当に……耳まで顔が赤いけど……大丈夫?」

 私よりも背が高いソフィアは、心配な表情をして語りかけてきてくれた。

「――う、うん! だ、大丈夫なの!」

 胸元に手を置きながら、大きく深呼吸する。
 何度も落ち着けと自分に言い聞かせるように――。

「あ、あの! カンダしゃん!」
「――ん?」

 彼の名前を呼ぼうとしたら噛んでしまった……。

「なんでもないの……」

 せっかくお礼に、食事に誘おうと思って――あれ? 私……何を思って……。
 魔法師は如何なる時でも冷静でいないといけないのに、自分が何を言おうとしたのか一瞬、理解できなかった。
 自覚した途端――、立ちくらみを起こして……、私は、不覚にも彼に身体を預けてしまった。
 すると彼は、慌てると「くそっ!? やはり俺の回復魔法は、まだ! 未熟だったのか!?」と、すごく慌てていた。

 そんな私とカンダさんを見ていた幼馴染のソフィアにだけは私がどういう状態だったのか見抜かれてしまったみたいで「あー……」と呟くと「カンダさん、大丈夫です。乙女の病みたいなものです」と呟いていた。

「乙女の病? それは何かの病気か何かなのか?」

 カンダさんが必死に考えたあと、頭を振るうと私を抱き上げてベッドに寝かせてくれた。

「ごめんな、俺はまだ回復魔法を覚えたばかりで……、今日はソフィアと一緒に冒険者ギルドに冒険者登録してくるから……。今日は、寝ていてくれ、帰りに何か……、そうだな。果物か何か買ってくるからな――」

 彼は、私の額に手を当てながら熱を測ってくれていた。
 すごく私のことを心配してくる気持ちが伝わってくる。

「大丈夫なの……」
「いや、リアに何かあったら困るからな。今日は、安静にしておいてくれ」

 カンダさんは、すごく真剣な瞳で私を心配してくれていた。
 こういう風に異性に心配されるのも悪くないかもしれない。
 私はおとなしく頷いた。
 それから1時間ほどして、ソフィアだけが先に帰ってくると、私のことを彼女はからかった。 
 


「――と、言うことがあったの」

 私とリアは、目の前に座っているグローブという男と、その男が連れてきたカンダさんの膝を治せると言っていた男に、カンダさんがどういう人かをソフィアと一緒に語り聞かせていた。

「どうして、あの男の事ばかり――」
「――え? だって……グローブさんがカンダさんは、どんな人か知りたいって言ったからなの」
「言ったが……あの男が持っている剣について知りたいだけで――」
「どうしてなの? 同じパーティの人間だけどカンダさんの持ち物について貴方に教える義務はないと私もソフィアも思っているの。そもそも、あなたはリムルさんが、どうしてもと言ったからパーティに加えただけなの。それなのに、罠の解除もまともに出来ない人だったなんて信じられないの」
「本当です。リムルさんには後で、カンダさんが怪我を負った責任を取らせませんと!」

 私の言葉に、ソフィアも同意してくれた。

「……あんた達が、俺達に語ってくれたカンダだが、お前たちを捨てて別のクエストを受けたんだぜ?」
「――私たちに黙ってそんなことするわけありません!」
「――そんなの! 信じられないの!」

 私とソフィアの言葉に、グローブが一枚の用紙を見せてきた。
 そこには、カンダさんがパーティから抜けることを了承することが、彼の筆談で書かれていた。
さらに、それを受付嬢のリムルが受諾していた。
 
「うそ!?」
「そんな!?」

 私とソフィアは同時に立ち上がる。
 そんな私とソフィアの腕をグローブともう一人の神官が掴んでくるけど、同時に振りほどく。

「なあ? カンダがお前たちを捨てたんだぜ? 俺達と仲良くしようぜ? 冒険者パーティBランクなんだからさ」
「話を聞く限り、教会が嫌いなんだろ? そんな回復魔法師にロクな奴いないって!」

 二人が、私たちの神経を逆撫でするような物言いで諭そうとしてくるけど逆効果にも程がある。

「どくの!」

 私は、すぐに受付に歩いていく。
 そして新人だと思われる女性に「リムルはどこにいるの!」と大声で怒鳴った。

「か、カンダ様なら……リムル先輩の案内で開拓村に……それに今はリムル先輩が用事で外に出ていて……」

 新人の冒険者ギルド受付嬢の言葉を聞いてブチ切れた。
 あのリムルって女……カンダさんを逆恨みして嫌っているのは知っていたけど、オークが出没する危険だと言われている開拓村の仕事にカンダさんを行かせたなんて……許せないの!
 怒りでどうにかなりそうになっていたところで、「リア! すぐに市場に向かいましょう! 開拓村のクエストを受けているのなら食料とか買い揃えていると思うから!」と、ソフィアが叫んできた。

「分かったの!」

 すぐに二人して冒険者ギルドを出ようとすると、額に青筋を立てたグローブと、カンダさんの膝を治すと言っていた神官が入り口の前に立っていて通れないようにしていた。
 カンダさんの膝が治せるかも知れないと思って、愛想よくしていたのに……。

「そこを退くの!」
「あんな男のどこがいいんだよ? 俺の方がずっと良い男だろう?」
「あんな男……」

 段々と苛立ってきた。
 同じパーティメンバーと戦ったら冒険者ギルドから追放されるかも知れないけど、今の「あんな男」という言葉は……許せなかった。
 外への出入り口を封鎖している男たちに杖を向けると、ソフィアが横に並んだのが気配から察することができて――。

「ソフィア、止めても無駄なの! カンダさんを侮辱した物言いは許せないの!」
「止めませんよ?」

 横目でソフィアを見る。
 彼女も弓を番えてグローブの額に鏃の先を向けていた。

「――お、おい……じ、冗談だよな……」

 グーなんとかって男が慌てて両手を広げて何か言っていたけどファイアーボールで、扉ごと吹き飛ばすと静かになった。
 手加減はしたから生きていると思うけど神官ごと吹き飛ばしたから、たぶん教会もあとで文句を言ってきそう。

「リア! 早くいきましょう!」
「分かったの!」

 私とリアは市場へと走り……。
 市場をあっちこっち必死に探したけど、カンダさんとは行き違いになって会う事はできなかった。

「ソフィア! 開拓村エルにいくの!」
「歩きになるから、すごく時間かかるわね……」
 
 その日のうちに宿を引き払う。
 後々、文句を言われても困るから冒険者ギルド建物修理費を支払った。
 ただ身内で私闘を厳禁としていた冒険者ギルドからは、冒険者の資格を剥奪されてしまった。

 まぁ、もう十分に稼いだし別にいい。
 今は、カンダさんに会いにいくことが重要だから。

「きっと、カンダさんは膝を痛めて一人では何も出来なくて大変なはずなの! オークもいるかもしれないから急ぐの!」
「そうね! 急ぎましょう!」
「目指すは、開拓村エルなの!」

 私とソフィアは、旅の支度をしてカルーダの港町を出た。
 




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