【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記
塩。
朝早く起きた俺は、靴を履いてログハウスもどきから出る。
「ふぁああー……、身体中が痛い――」
もうすぐ40歳近いということもあり、朝早く起きてしまうようになっていた。
アメリカの医学会では、睡眠にも体力を使うという科学的根拠が出ている。
それは何故かというとノンレム睡眠に入るためには、新陳代謝が良くないといけないからだ。
そしてノンレム睡眠というのは、内臓修復や肌の修復を行う成長ホルモン分泌にも大きく関わってくる。
まぁ、そんなうんちくはどうでもいいとして……。
――簡単に言うと中年になり新陳代謝も減ってきてということだ。
「昔は、丸太の上で寝ても、あまり痛みを感じなかったけどな……、今日は、ログハウス内の丸太の上に板でも敷いて、その上に毛皮でも敷くか」
しかし、問題がある。
今回、作ったログハウスは全て生木で作っているのだ。
板を敷くのは構わないが、木材を乾燥させないと板と敷いた場合、木が腐る可能性があるのだ。
どうしたものか……。
俺の生活魔法には、ドライヤー程度の威力を持つ乾燥系魔法なら存在するが、さすがに丸太どころかログハウスを乾燥させる魔法はない。
「うーん、まぁ……なるようになるか……」
ログハウスを作ったときに残った丸太の皮を剥ぐ。
その後に、横に置き居合い抜き!
丸太を縦に割りさらに居合い抜き。
それを繰り返し数本の丸太を使って厚さ3センチ、横10センチ、縦2メートルほどの板を量産した。
「カンダさん、おはようございます」
作業が終わったところでリルカが目を覚ましたのかログハウスの扉を開けながら話かけてきた。
振り返り彼女を見ると丁度、朝焼けだったということもあり日差しが彼女を照らしていた。
俺と出会うまでは、お風呂に入っていなかったリルカとエルナは、出会ってからは毎日お風呂に入っている。
そのため、以前は汚れて色あせていた銀色の髪は、艶と張りを取り戻している。
そんな彼女の銀色の髪は太陽の日差しを反射して銀色の天の川のように光を反射していて、頭の上には天使の輪すら出来ている。
さらには顔つきも、鼻筋が通っていて切れ目な瞳が一見気の強そうな印象を与えるが、それを可愛らしく纏めるように頭部についているキツネ耳が補助をしている。
肢体も均整のとれたプロポーションをしており、きっと転移してきたばかりの29歳の俺だったら、結婚を前提にお付き合いをお願いしていたはずだ。
まぁ、40歳近くにもなって身分が冒険者で明日も知れない、こんな開拓の地では、そんなのは無理だし、さすがに親子くらい年の離れた子に欲情するわけにもいかない。
「ああ、おはよう。よく眠れたか?」
「はい! でも……妹は、まだ寝ています」
「分かっている」
リルカの言葉に俺は頷く。
エルナは、まだ小学生低学年くらいの年齢なのだ。
寝る子は育つ理論で、まだ眠いのだろう。
子供は寝ている間に大量のホルモンが分泌されて成長するからな。
無理に起こすのは良くないと、転移する前くらいにネットの医学サイトに乗っていたからな。
「今日は、周辺を探索する予定だが、その前に、この板をログハウスの床に敷き詰めたいと思うのだが手伝ってくれ」
俺の言葉にリルカは「わかりました」と頷いてきた。
「それじゃ、朝食の準備でもするとするか」
「はい!」
リルカに手伝ってもらい、朝食の準備をしていく。
そしてスープを作っている時に気がついた。
想像していたよりも塩の消費が激しい。
ああ、そうか……。
いまは一人ではなく、3人分の塩を消費しているからだ。
一人で計算して塩を買っていたから、減るのも早いはずだ。
本来なら、開拓の村で手に入れることも出来たはずだったのに、それが出来ないからな。
無くなる前に、宿場町に行って仕入れたほうがいいかもしれない。
「早めのうちに塩を補充したほうがいいかも知れないな」
「塩ですか?」
リルカは俺の一人事に首を傾げながら疑問符を投げかけてきた。
俺は「生物っていうのは塩が無いと生きていけないからな」と説明する。すると、リルカが不思議そうな表情をして「そうなのですか?」と首を傾げてくる。
「簡単に説明すると、生物の身体というのは血――つまり血液が、循環しているんだが、それの大半は水で構成されている。そして、この中に塩が1%ほど溶け込んでいる。そして、塩があるからこそ、生物の身体を満たしている水分量が適切に調整されていて食べた食物の栄養を吸収することができる。つまり、塩が無いと、どんなに食料があっても意味がないんだ」
「ええー……、初めて聞きました!」
「まぁ、そうだろうな……」
基本的に塩が必要不可欠というのは、生物なら科学的見識からではなくとも体感で理解している。岩塩などはサハラで産出されたが、それらがヨーロッパやアフリカで重宝されたのは有名な話だ。
それは紀元前の時代からなのだから、経験というのは馬鹿には出来ない。
「ところで、半年近くも、この辺で暮らしていたんだろう? リルカ達は塩を取らなかったのか?」
「えーと、私達は基本果物と、部族の人から一日に一回食べるようにと教えられていたシーオの実を食べていました」
「シーオの実?」
「はい! 少し待っていてください」
「お、おう……」
リルカは、一言断るとログハウスから出ていった。
そして数分で戻ってくると「カンダさん、これをどうぞ」と真っ白な塊を差し出してきた。
「これがシーオの実?」
「はい!」
「どんな木に実をつけるんだ?」
俺は、リルカから受け取った小石くらいの塊を人差し指と親指で擦る。
するとパラパラと白い塊が囲炉裏の中に落ちる。
「えっと、それはソルト大森林の湖が作ってくれる果実なのですが……」
「湖が作る?」
「はい!」
「ふむ……」
俺は、渡されたシーオの実を一舐めして後悔した。
それは、まさしく塩の塊。
俺が転移した世界アガルタでは塩は、高価な代物で500グラムもあれば4人家族を一ヶ月養える。
そしてリルカが言っている湖が作ると言っているのは高濃度の塩湖のことだろう。
「リルカ、朝食を食べ終わったら湖まで案内してもらえるか?」
「はい、別にいいです……けど……」
リルカが言い淀む。
何かあるのだろうか?
「魚とか生き物がいない湖ですよ?」
彼女の言葉に、ほぼ間違いなく塩湖だと確信する。
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