【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

狐耳姉妹。(前編)

 屈強な見た目のアンガスですら、何かに終われるように逃げる場所。
 俺は、エルの村開拓について少しずつ不信感を抱き始めていた。

 それと同時に嫌な予感がしてくる。

「まさかな……」

 俺を何かの生贄にするために、こんなところに連れてきたのではないよな?
 10年近くも冒険者をしていると虫の知らせという物が、時々聞こえてくるのだ。
 そして、その虫の知らせが聞こえた後は、必ずと言っていいほど問題に巻き込まれる。
 今回は、まだ虫の知らせはない。
 ただ、毎回きちんと告知があるわけでもないから用心はしておくとしよう。

「とりあえず、オークの家は遮蔽物になるから離れておくとするか……」

 オークの集落と、辺境の村エルの中間に降ろされた俺は、渓谷を壁にしてテントを張っていく。
 もちろん痛めた膝を庇ってテントを張っていることもありテントの設置が終わり、薪として使う枝を集めた頃には日が沈みかけていた。

「やっぱり夜になると冷えるな……」

 俺は一人呟きながら、体が冷えたことで痛み出した膝を摩りながら薪に火をつける。

 そして、袋から非常食として持ってきた乾物や干し肉、ハーブや硬く焼いた黒パンを取り出した。

「さてと……」

 俺は、鍋を背負い袋から取り出すと、薪の上に置く。

「水生成! っと――」

 生活魔法を発動。
 火のついた薪の上に置いておいた鍋を水で満たすと、しばらく様子を見る。
 しばらくすると、水が沸騰してきた。

「そろそろかな……」

 俺は、袋から木で作られたマグカップを取り出して乾燥したハーブを入れてからお湯を注ぐ。
 すると周辺には、香草の香りが立ち込め始めた。

 俺は、火で体を温めながら香草茶を飲みながら干し肉を齧る。

「あとは、スープくらいか……」

 この世界に来てからアウトドアを何度もしてきたが、屋外で一人でしたことはない。
 つねにリアやソフィアがいたからだ。

「やれやれ……俺も大概だな……」

 一週間以上も経つというのに、いまだに彼女達のことを思い出すなんて――。

 一人呟きながら、鍋の中に乾物を入れる。
 お湯で戻したあと、塩で味付けをして簡易的な塩スープを作る。
 スープが出来上がったところで、木の器に注ぐと黒パンをスープに漬けながら食べようとしたところで何かしらの気配を感じた。

「――ん? 何だ?」

 俺は、崖に立てかけて置いた日本刀を手に取りながら立ち上がる。
 神経を張り詰め周辺を注意深く観察していくと金色の毛並をしたキツネ耳の幼女以外は、特に変わった様子は見られない。

 幼女はふらふらと近づいてくると「お腹しゅいた」と言いながら、お腹を押さえている。
 あまりにも場違いな場所に、金色のキツネ耳を頭から生やした幼女が姿を現したものだから、一瞬、何か幻でも見たか? と思ってしまった。

 ただ、「きゅるるるるる」と幼女のお腹から聞こえてくるのは現実感があり……。
 お腹から聞こえる盛大に音に俺は緊張を解いていた。

 幼女は、右人差し指を口に咥えながら、「おなかしゅいた」と、物欲しそうに俺が持っているスープを凝視している。

「……た、食べるか?」

 異世界に転移してから獣人と人間、そしてエルフと人間のハーフ見たことがあったが、完全な獣人を見るのは初めてだった。
 理由は、獣人は見目麗しく保護欲に駆られるという理由だ。
 そして、狩りと称して率先して獣人を狩っているのは、この国の腐った貴族たちだ。
 そのため、人間という存在を獣人は毛嫌いしている。
 エルダ王国自体を憎んでいると言っても過言ではない。

 俺の言葉が理解できたかは分からない。
 だが、とてもお腹が空いているのだろう。
 ふらふらと近づいてくると幼女は、俺が座っていた石に座る。
 そして俺が食べようとしていたスープを飲み干し、黒パンを食べて火にかけていた干し肉までをもペロリと食べる。
 そして最後にハーブティを飲んで満足そうな笑顔で寝てしまった。

「……一体……」

 突然のことに驚きを隠せない。
 どうして子供の獣人が、一人で近づいてきたのか? 
意味が分からない。

「一体、どうなって……」

 そこで俺は「ハッ!」と気がつく。
 すぐに袋の中から、港町カルーダで受けた開拓民募集の貼紙を確認していく。
 そこには、開拓民募集要項が書いてあった。

「獣人との融和政策をエルダ王国は取ることになりました。強いては、獣人に嫌われない人を募集しています……だと?」

 思わず、バカか? と思ってしまった。
 散々、狩りをしてきておいて融和政策も何もないだろうに。
 ただ、一つ分かったことがあった。
 開拓村の狙いだ。
 獣人との交流を目的に村を作る予定だったということだ。
 だが、そんなのは無理だ。
 好き勝手してきた国に対して獣人が心を開くわけがない。
 そして、それを国民も理解している。
 だから、誰も受けていないのではないか?
 ただ、そう考えると幼女が一人だけ居たのが気になってくる。

 

 俺は、無防備で寝てしまった8歳くらいの金髪の狐耳幼女を抱き上げる。
 もちろん、俺はロリではない。
 幼女が地面の上に、動物のように丸くなって寝てしまったから一緒の布団に寝ようとしているだけなのだ。

 テントに移動したあと地面の上に直接敷いただけの毛布の上に幼女を下ろす。

「しかし……、まったく起きないものだな……」

 もっと獣人というのは、警戒心がある物だと聞いていた。
 もしかしたら相当疲れているのかも知れない。

「どうしたものか……」

 俺は小さく溜息をつく。
 幸い物資については、しばらく問題ない。
 何せ、開拓という意味でかなりの食料やテントなどをアンガスが置いていったからだ。

「――ん?」

 俺は、自分で言いながら首を傾げる。

「やられた――」

 俺は額に手を当てながら溜息をつく。
 どうやら、俺は冒険者ギルドの人間に一杯食わされたらしい。
 というかリムルが、契約内容の詳細をわざと知らせなかったと考えるのが妥当だろう。

 契約を重視して依頼に嘘をつかないのが冒険者ギルドの特徴であった。
 それを破るとは、やはりリムルは、追放しておくべきだった。
 今後、カルーダに戻ったら男女平等パンチで殴ろう。

 この世界は、男女平等だからな。
 女でも男でも悪いことをすれば普通に殴る。

「……それにしても……」

 やはり、膝を怪我とパーティを抜けたことが思ったより、判断を鈍らせていたのだろう。
 冒険者ギルドとの契約確認をすることを怠ってしまった。

「今度から気をつけないとな……」

 まぁ、今度があるかどうかは分からないが……。
 自分の軽挙な行いを反省していると「もう、お腹いっぱい……むにゃむにゃ――」という声が聞こえてきた。
 声がした方へ視線を向けると、出会ったばかりの幼女が、毛布の上で丸くなり熟睡していた。
 幼女の様子を見ていて俺はふと気になったことがあった。
 それは、幼女の頭の上に生えているキツネ耳が、どんな手触りかということだ。
 おそらく万人が気になることだと思う。
 俺は、好奇心に駆られて自然と狐耳に手が伸びていた。

「暖かくて、ふにゃふにゃしているんだな……」

 俺は金髪の幼女――その狐耳を触っていく。
 なんとも言えない不思議な感覚だ。
 一言で言い表すなら、これはいいものだ。

「――おっと!」

 気がつけば、かなりの時間、狐耳を触っていた。

 少しだけ貴族が獣人を狙った気持ちが分かってしまった。
 それと同時に獣人狩りをしていた貴族に対しての苛立ちが募ってくる、
 もしかしたら、同族嫌悪かもしれないな。

「……さて、手触りも堪能したし外に出て食事でもするとするか」

 俺は、テントから出る。
 そして火元に視線を向けると15歳くらいの銀髪の美少女が鍋に入っているスープを飲んでいた。

「……どちら様で?」
「ふがふが――」
「飲み込んでから話せ」

 俺の言葉に、銀髪狐耳美少女は頷くと喉を鳴らして口の中の物を飲み込んでいた。

「あの……私……」
「俺の名前は、エイジと言う。君は、保護している金髪狐耳の子と知り合いなのか?」
「――あ、妹はここに来ていたのですね! あ、はい! 私はリルカといいます。ずっと追われていて、ここに家を発見して隠れて暮らしていたのですけど……食べるものも冬で減ってきて、最後には食料も尽きて途方に暮れていたのです。森から戻ってきたところで妹が居ないことに気がついて、周囲を探していましたら良い匂いが……」

 途中から声のトーンが下がっていき萎んでいく。
 どうやら、自分が悪いことをしたという自覚はあるようだ。
 まぁ俺も、腹が減ったときの辛い気持ちは分かるからな……。

「別にいい、腹が減っていたのだろ? なら、仕方ない」

 俺は袋の中からパンを数個出して、リルカの方へ放り投げる。
 彼女はパンを受け取ると呆けた表情を俺に見せてきた。

「……あ、あの、これは……」

 俺は肩を竦める。
 どうせ、冒険者ギルドが開拓民おれだけに置いていった物だ。
 なら、俺がどうしようと文句を言われる謂れは無い。

「スープとパン1個じゃ、育ち盛りには足りないだろ? 干し肉も食べるか?」
「ううっ……わたし、私……人間にずっと追い回せていて……」
「人間に?」

 俺の言葉に、リルカが頷いてくる。
 おかしい。
 いくらなんでも……。
 エルダ王国は、融和政策を取ると冒険者ギルドからの受領書には書かれていた。
 それなのに、獣人が追われるはずが……。







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