Lv.1なのにLv.MAXよりステ値が高いのはなんでですか? 〜転移特典のスキルがどれも神引き過ぎた件〜
《幕間》彼女の物語 1
サラ・リーゼリットは優秀なリポーターだった。今回も、謎の怪物がギリシャに出現したというニュースを聞いてすぐにギリシャへと飛んで、アメリカ中にその醜悪な姿を写した。
しかし、最初は取るに足らなかったはずの怪物が、数が増えてだんだん強くなってきたので、身の危険を感じて上に確認を取り撤退。
明日フライトのアメリカへの帰国の便のチケットを買い、大急ぎで退散する段取りだ。
まだ被害は大きくないので大半の人は避難しないのだろうが、前線で全てを見てきた彼女は、カメラマンたちに急いで撤退しませんかと提案をしたのだ。
「さぁ、今回の危険な旅はもうおしまい。次の仕事まで家族とのんびり休日を過ごさなくちゃ」
まだ20代半ばの彼女は、50代の両親、高校生の弟、中学生の妹との5人家族だ。
「今回はお土産も多いし、怪物に襲われる前に帰らないとねっ♪」
スキップしながらホテルへと帰り、明日のフライトの時間までどうするかを考える。
それは翌朝までの本の半日程が恐ろしく長く感じられる、始まりの時間だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「サラ、逃げるぞ! ホテルに奴らが来た!」
ドンドンと大きな音を立てて戸をノックするカメラマンに起こされ、事態を瞬時に把握して荷物を持って部屋を出る。
昨日に荷物をまとめておいたことが幸いし、寝巻きのままで素早く外へと飛び出した。
「なによ、これ……」
轟々と燃え盛る炎と、それを背に地を這う醜い大蛇たち。意味のわからない、文法も何も無い謎の台詞を吐き連ねて建物に巻き付く。遂には都市の大きな建物たちが次々と崩れて言った。
「なにぼさっとしてる、早く行くぞ!」
20ほど上のディレクターが顔面蒼白でそうさけぶと、地域の避難所らしき場所に急いで足を運んだ。
「流石にこの光景は撮らなくてもいいですよね?」
カメラマンが焦り気味でそう聞く。
「ああ、それどころじゃないからな」
ディレクターも少し落ち着きを取り戻し、冷静にそう答えた。
避難所は街から離れた郊外にあり、その薄暗さ、空気の悪さは禍々しいものを感じさせた。
「ようこそ避難所へ。ここにはけが人もいるんだ、あんた達のような動ける人が手伝ってくれると助かるんだが」
避難所に着いた途端そのように声をかけられ、有無を返答する間もなく仕事が与えられた。
傷を包帯で巻く、避難所に来た人の誘導などの仕事をこなし数時間した頃には、交代と言われて寝床が与えられた。
「ふぅ、この場所には全然あの蛇が来ないのね」
「ああ、何故かこの周囲にだけは現れないから、ここを避難所にしたんだ。ありったけの道具を近所の店からかっさらってきてな」
寝る前に自分たちに仕事を与えた男に話を聞き、知りたいことを知ってからぐっすりと床についた。それが、たったの数十分の睡眠になるだなんてことは、この時は誰も思っていなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
けたましく着信音が響く通信端末に、こんな状況でもまだ電波が繋がっていることに一同は驚く。
画面に映し出された連絡先は、サラの実家の弟の番号だった。
「マイク、どうしたの?」
普段なら、彼女が仕事をしている途中に家族が電話をかけてくることなどない。何か緊急時じゃない限り、仕事の邪魔をしないでほしいと彼女は家族に伝えていた。
『……姉、さん……助けて……』
ノイズが混ざっていてうまく聞き取れなかったが、声は確かにマイクの声だ。
「もっと、もっと大きな声で話して」
『殺される……死にたく、ない……来るな、来るな、来るな』
なにかに怯えているようにそう叫ぶマイク。
「なに、どうしたの!?」
普段の緊急事態の比ではないとわかり、何度もどうしたのかと質問を繰り返すが返答はない。
『……やめてくれ、父さんも、母さんも食べて、アンも食べて、俺も食べるって言うのか? あぁ、おい、馬鹿、やめろ、うっ、あああああ、ごふっ、くそ、血を這いずり回る程度の知能しかない、化け物の分際でぇぇぇぇ!!』
独壇場となったマイクの台詞を、みんなはただ聞いていることしか出来なかった。
そこでブツリと電話は切れて、ツー、ツーと空虚な音がその場に響いた。
「あれは、演技じゃない……」
「そんなのは家族じゃない俺たちにもわかったさ。今、俺も家に連絡をしてみたんだが、繋がらない。それどころか、局にも連絡が取れない」
「おい、お前の家って、サラの実家とは離れてるよな、確か局近くのとこだろ? 局も繋がらないって、何かあったんじゃ……」
「ああ……」
「地を這う、化け物……」
「蛇……」
「もし、あの蛇がこの国だけじゃなく世界中の国に現れているとしたら?」
「少なくとも、アメリカには現れている確率が高いな」
飛行機の便がなくなったから帰れない、とかそれどころではなく、最早帰るべき家、更には帰るべき国がなくなっていくのも時間の問題だった。
何がどうなっている? インターネットから情報が沢山当たり前に出てくる世の中、それが回線を失うことによって一瞬で全てが白紙に変わる。
何故か最後まで繋がった電話回線も、最早その役目は終えたと言わんばかりに圏外であることを示し、二度とどこかに繋がることは無かった。
そしてそんな彼女達のいる避難所の周囲を、無数の蛇目が睨んでいるということに、気づいたものは誰一人としていなかった。
しかし、最初は取るに足らなかったはずの怪物が、数が増えてだんだん強くなってきたので、身の危険を感じて上に確認を取り撤退。
明日フライトのアメリカへの帰国の便のチケットを買い、大急ぎで退散する段取りだ。
まだ被害は大きくないので大半の人は避難しないのだろうが、前線で全てを見てきた彼女は、カメラマンたちに急いで撤退しませんかと提案をしたのだ。
「さぁ、今回の危険な旅はもうおしまい。次の仕事まで家族とのんびり休日を過ごさなくちゃ」
まだ20代半ばの彼女は、50代の両親、高校生の弟、中学生の妹との5人家族だ。
「今回はお土産も多いし、怪物に襲われる前に帰らないとねっ♪」
スキップしながらホテルへと帰り、明日のフライトの時間までどうするかを考える。
それは翌朝までの本の半日程が恐ろしく長く感じられる、始まりの時間だった。
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「サラ、逃げるぞ! ホテルに奴らが来た!」
ドンドンと大きな音を立てて戸をノックするカメラマンに起こされ、事態を瞬時に把握して荷物を持って部屋を出る。
昨日に荷物をまとめておいたことが幸いし、寝巻きのままで素早く外へと飛び出した。
「なによ、これ……」
轟々と燃え盛る炎と、それを背に地を這う醜い大蛇たち。意味のわからない、文法も何も無い謎の台詞を吐き連ねて建物に巻き付く。遂には都市の大きな建物たちが次々と崩れて言った。
「なにぼさっとしてる、早く行くぞ!」
20ほど上のディレクターが顔面蒼白でそうさけぶと、地域の避難所らしき場所に急いで足を運んだ。
「流石にこの光景は撮らなくてもいいですよね?」
カメラマンが焦り気味でそう聞く。
「ああ、それどころじゃないからな」
ディレクターも少し落ち着きを取り戻し、冷静にそう答えた。
避難所は街から離れた郊外にあり、その薄暗さ、空気の悪さは禍々しいものを感じさせた。
「ようこそ避難所へ。ここにはけが人もいるんだ、あんた達のような動ける人が手伝ってくれると助かるんだが」
避難所に着いた途端そのように声をかけられ、有無を返答する間もなく仕事が与えられた。
傷を包帯で巻く、避難所に来た人の誘導などの仕事をこなし数時間した頃には、交代と言われて寝床が与えられた。
「ふぅ、この場所には全然あの蛇が来ないのね」
「ああ、何故かこの周囲にだけは現れないから、ここを避難所にしたんだ。ありったけの道具を近所の店からかっさらってきてな」
寝る前に自分たちに仕事を与えた男に話を聞き、知りたいことを知ってからぐっすりと床についた。それが、たったの数十分の睡眠になるだなんてことは、この時は誰も思っていなかった。
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けたましく着信音が響く通信端末に、こんな状況でもまだ電波が繋がっていることに一同は驚く。
画面に映し出された連絡先は、サラの実家の弟の番号だった。
「マイク、どうしたの?」
普段なら、彼女が仕事をしている途中に家族が電話をかけてくることなどない。何か緊急時じゃない限り、仕事の邪魔をしないでほしいと彼女は家族に伝えていた。
『……姉、さん……助けて……』
ノイズが混ざっていてうまく聞き取れなかったが、声は確かにマイクの声だ。
「もっと、もっと大きな声で話して」
『殺される……死にたく、ない……来るな、来るな、来るな』
なにかに怯えているようにそう叫ぶマイク。
「なに、どうしたの!?」
普段の緊急事態の比ではないとわかり、何度もどうしたのかと質問を繰り返すが返答はない。
『……やめてくれ、父さんも、母さんも食べて、アンも食べて、俺も食べるって言うのか? あぁ、おい、馬鹿、やめろ、うっ、あああああ、ごふっ、くそ、血を這いずり回る程度の知能しかない、化け物の分際でぇぇぇぇ!!』
独壇場となったマイクの台詞を、みんなはただ聞いていることしか出来なかった。
そこでブツリと電話は切れて、ツー、ツーと空虚な音がその場に響いた。
「あれは、演技じゃない……」
「そんなのは家族じゃない俺たちにもわかったさ。今、俺も家に連絡をしてみたんだが、繋がらない。それどころか、局にも連絡が取れない」
「おい、お前の家って、サラの実家とは離れてるよな、確か局近くのとこだろ? 局も繋がらないって、何かあったんじゃ……」
「ああ……」
「地を這う、化け物……」
「蛇……」
「もし、あの蛇がこの国だけじゃなく世界中の国に現れているとしたら?」
「少なくとも、アメリカには現れている確率が高いな」
飛行機の便がなくなったから帰れない、とかそれどころではなく、最早帰るべき家、更には帰るべき国がなくなっていくのも時間の問題だった。
何がどうなっている? インターネットから情報が沢山当たり前に出てくる世の中、それが回線を失うことによって一瞬で全てが白紙に変わる。
何故か最後まで繋がった電話回線も、最早その役目は終えたと言わんばかりに圏外であることを示し、二度とどこかに繋がることは無かった。
そしてそんな彼女達のいる避難所の周囲を、無数の蛇目が睨んでいるということに、気づいたものは誰一人としていなかった。
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