Lv.1なのにLv.MAXよりステ値が高いのはなんでですか? 〜転移特典のスキルがどれも神引き過ぎた件〜
突然の展開について行くのに必死なんですが? 前編
3人で馬車に乗って西を目指すこと一週間。人間が拠点にしているベースキャンプがあるという街に向かっているのだが、さすが魔物の蔓延る異世界。
いくらなんでも酷すぎる悪路に何度も車酔いをして、道端でたくさんの胃の内容物を戻してしまった。
いろんな小説の主人公達はいとも容易く次の街に移動するが、裏ではこんな苦労をしているのでは? と思った途端、異世界転移モノの主人公達に尊敬の念を抱く。俺は無理だね、主人公にはなれないわ。
常に表紙でにこやかに笑っているその姿は、素直に冒険を楽しめている証拠だろう。だが、彼らもこの状況では楽しむことなんて絶対にできないと思う。
……うっ、また吐きそうだ。もう胃の中身なんて無い筈なんだけどなぁ……タイヤが木製なのが揺れが伝わる原因なのかもしれない。スキルでなんとかできないか考えておこう。
それにしても、ヤン兄が最近やたらと話しかけてくるのがかなりうざい。個人的には、自分のことを殺しにかかってきたやつと一週間も一緒にいることの出来る自分の精神がすごいと思う。
自分のことを殺そうとしたやつと同じ馬車に乗り、敵を偵察(彼は倒す気でいるようだけど)するという任務をこなす。
傍から見たらライバルとともに敵を倒す胸アツ展開かもしれないが、心躍る激闘や感情を互いにぶつけ合うというテンプレがあった訳でもないし、そもそもつい先日知っただけの他人。
そんなやつと楽しく異世界旅などできるわけが無い。それこそこの1週間は当たり障りのない程度で話をかけられる程度だけだったが、急に唾を撒き散らかして攻撃してくるやつに対しての信用なんて最初からない。
……ヴっ!? やべ、別の事考えて忘れようとしてたのに……胃液が逆流してき……
「うっわ、きッたねェな! 何吐き散らかしてんだよ!」
キラキラ胃液をを撒き散らかし、その場で気絶することで俺の思考はその場で一度止められることとなった。
◇◇◇
俺が吐き散らかしたものは、俺が目が覚めた時にはあとかたもなく綺麗に片付けられており、あたりが少し寒くなり始めていた。
「やっと起きたか。明日の朝にはベースキャンプに着くらしいぞ、エイジ」
寝起きでぼーっとしている時に、横からヤン兄が話しかけてきた。
「そうか。ありがとさん」
当たり障りない感じで適当に返して御者台にいるコウジの方に目をやるが、馬2頭と会話しながら走っているのでこちらの会話に入ってくることはなさそうだ。
コウジのチートスキルは『人外言語理解』と『精霊王の加護』。
『人外言語理解』は名前の通りに人外のもの、主に動物や魔物達の声を人間の言語で理解することが出来る。
『精霊王の加護』は、魔力の消費量が常に100分の1になり、魔法の攻撃力が10倍になるというものだ。
『人外言語理解』によって馬とも会話ができるため、今回の旅での御者役として動向を命令されたのだという。
一方、ヤン兄のチートスキルは一向に彼が答えてくれることはなかった。一応理由を聞いてみると「俺のスキルは役に立たねぇから、知らなくていい」の一点張りだった。
そんなに役に立たないスキルだということは、この世界でLvMAXになったのは、彼のこの世界に来てからの努力が実を結んだ結果、ということだろうか。
その後も数時間街道を走り続けたのだが、ついに胃液すら吐ききってしまったのかと思うほどに、気持ち悪くなっても何かを吐き出すことは出来なかった。
決して胃液が無くなるなんてそんなことはあるはずがないのだけれど、割と枯渇はしているのかもしれない。
目的地までは時間がかかるようだし、少し眠るか。
◇◇◇
夢を見た。
自分の部屋で、PCの画面に映し出された少女の姿を必死に目で追い、ふと振り返ると自分の好きなキャラクターのフィギュアがそこにある。
当たり前の風景のはずなのだが、何故かどこかが歪で、ここは本当の自分の部屋ではないという事がなんとなく分かっていた。
いつもなら、どんな暗がりでもフィギュアの位置はすべて把握しており、闇に慣れたその目は的確にフィギュアたちの顔の造形や服の細部までを映し出すのだが、どのフィギュアも何故かデッサン人形のようにしか見えない。
そんな部屋には俺以外の人物はいないはずなのだが、どこからが不意に少女の声が聞こえてくる。
『あなたの望む世界はあんな寂れてしまった酷い世界?』
違う。俺は地球に帰りたい。
『じゃあ、ここにいればいいわ! ここにいれば、あなたは永遠に地球と同じ生活を送ることが出来る。それがあなたにとっての益で、私にとっての益でもある』
それはできない。
『何故?』
ここは俺の部屋じゃない。俺は、自分の部屋、つまり俺とフィギュアたちの愛の巣に帰るって決めてんだ。
こんな形だけ真似したような、なんの想いもこもってない場所なんて俺は望んでない。
『ふーん……喰えないヤツね。いつもの雑魚勇者たちと同じ匂いがしたのに』
その言葉が耳に届いた直後、急に背後から手を思い切り引かれるかのように俺はこの想いのない世界を脱出した。
『気に入った!』
◇◇◇
少女のその諦めたかのような声で目が覚め、周囲を見回すが何故か視界が何かで遮られている。体は何故か痺れて起き上がれない。
「ちっ、そこのクソサキュバス共。俺の仲間を貶めようとした罪は重いぞ……」
朦朧とする意識の中で、ヤン兄の声が聞こえる。
「『魔力喰らい』」
「やめろっ……三谷チンっ!」
怒りに身を任せて相手に何かを叫ぶヤン兄を、掠れた声で必死に止めようとするコウジ。
「俺の仲間たちにお前らが犯した罪は消えないぞ」
敵感知でも感知できなかったのだから俺のミスなのだが、ヤン兄が俺のことを仲間って言ってるのがなんか臭いね。
「滅べ、淫魔ども」
ヤン兄がそういった途端、周囲に爆風が起こって、風によって俺の目隠しが外れた。
『グルォォオオオ!』
先程までヤン兄の声が聞こえていたところにたっているのは、身長およそ3メートル程の人型の体躯、全身を覆う黒くただれた皮膚、大きな山羊の頭が特徴的な怪物だった。
『グゥオゥァァァァァァア!』
雄叫びをあげて、周囲に立ち尽くしていた角の生えた女形の魔族たちを、片っ端から掴んではちぎって口に入れるの繰り返し。
「……三谷チン……」
怪物を見てヤン兄の名前を呼ぶコウジ。今の状況と先程のみんなの発言から起こったことを考えると、俺とコウジは移動中をサキュバスに襲われて眠らされた。
何故か唯一無事だったヤン兄が、自分のスキルを使ってあの怪物に変異した?
あの怪物、明らかに理性が無い。周囲の動くものを狙って食べているようだ。
「ちっ、ギャーギャーうるさいわね、人間」
一人だけやられることなく、怪物の攻撃を交わし続ける小柄なサキュバスがそう呟いた。
「少し黙るといーわっ!」
思い切り怪物の顎を右膝で蹴り、怪物の脳を大きく揺らしたサキュバス。すかさずそのまま右足を前に伸ばしけって怪物の腹に大きな衝撃を与える。
「ったく、血気盛んなやつは嫌いなのよ。さぁ、部下が無礼を働いて悪かったわね」
しゅぅぅぅぅと全身から湯気を吹き出し、怪物から人間の姿へと戻るヤン兄。どうやら俺の予想は当たっていたらしい。
なんだよ、スキル役に立たないって、危ない意味での役に立たないだったのか。どうりで努力するわけだわ。
強いけど理性失うからクソ能力、とか俺的には自決もんだもの。そりゃ、ヤン兄みたいな血気盛んな奴は頑張ろうとすんだろうな。まぁ、あくまで予想の範疇は離れないけど。
そんな、理性を失った代わりに強力な力を得たヤン兄をいとも容易く気絶させた、あのサキュバスは何者なのだろうか。
その俺の疑問を汲み取ったかのように、サキュバスがその口を再び開いた。
「私はあなた達と契約しに来たの。シルティス・ゲオルギウス。あなた達でいう、元・北の魔王って言えば分かってもらえる?」
サキュバスの口から放たれたその言葉は、魔の者たちを絶対悪だと聞いていた俺に対して、驚愕と違和感を感じさせるものだった。
いくらなんでも酷すぎる悪路に何度も車酔いをして、道端でたくさんの胃の内容物を戻してしまった。
いろんな小説の主人公達はいとも容易く次の街に移動するが、裏ではこんな苦労をしているのでは? と思った途端、異世界転移モノの主人公達に尊敬の念を抱く。俺は無理だね、主人公にはなれないわ。
常に表紙でにこやかに笑っているその姿は、素直に冒険を楽しめている証拠だろう。だが、彼らもこの状況では楽しむことなんて絶対にできないと思う。
……うっ、また吐きそうだ。もう胃の中身なんて無い筈なんだけどなぁ……タイヤが木製なのが揺れが伝わる原因なのかもしれない。スキルでなんとかできないか考えておこう。
それにしても、ヤン兄が最近やたらと話しかけてくるのがかなりうざい。個人的には、自分のことを殺しにかかってきたやつと一週間も一緒にいることの出来る自分の精神がすごいと思う。
自分のことを殺そうとしたやつと同じ馬車に乗り、敵を偵察(彼は倒す気でいるようだけど)するという任務をこなす。
傍から見たらライバルとともに敵を倒す胸アツ展開かもしれないが、心躍る激闘や感情を互いにぶつけ合うというテンプレがあった訳でもないし、そもそもつい先日知っただけの他人。
そんなやつと楽しく異世界旅などできるわけが無い。それこそこの1週間は当たり障りのない程度で話をかけられる程度だけだったが、急に唾を撒き散らかして攻撃してくるやつに対しての信用なんて最初からない。
……ヴっ!? やべ、別の事考えて忘れようとしてたのに……胃液が逆流してき……
「うっわ、きッたねェな! 何吐き散らかしてんだよ!」
キラキラ胃液をを撒き散らかし、その場で気絶することで俺の思考はその場で一度止められることとなった。
◇◇◇
俺が吐き散らかしたものは、俺が目が覚めた時にはあとかたもなく綺麗に片付けられており、あたりが少し寒くなり始めていた。
「やっと起きたか。明日の朝にはベースキャンプに着くらしいぞ、エイジ」
寝起きでぼーっとしている時に、横からヤン兄が話しかけてきた。
「そうか。ありがとさん」
当たり障りない感じで適当に返して御者台にいるコウジの方に目をやるが、馬2頭と会話しながら走っているのでこちらの会話に入ってくることはなさそうだ。
コウジのチートスキルは『人外言語理解』と『精霊王の加護』。
『人外言語理解』は名前の通りに人外のもの、主に動物や魔物達の声を人間の言語で理解することが出来る。
『精霊王の加護』は、魔力の消費量が常に100分の1になり、魔法の攻撃力が10倍になるというものだ。
『人外言語理解』によって馬とも会話ができるため、今回の旅での御者役として動向を命令されたのだという。
一方、ヤン兄のチートスキルは一向に彼が答えてくれることはなかった。一応理由を聞いてみると「俺のスキルは役に立たねぇから、知らなくていい」の一点張りだった。
そんなに役に立たないスキルだということは、この世界でLvMAXになったのは、彼のこの世界に来てからの努力が実を結んだ結果、ということだろうか。
その後も数時間街道を走り続けたのだが、ついに胃液すら吐ききってしまったのかと思うほどに、気持ち悪くなっても何かを吐き出すことは出来なかった。
決して胃液が無くなるなんてそんなことはあるはずがないのだけれど、割と枯渇はしているのかもしれない。
目的地までは時間がかかるようだし、少し眠るか。
◇◇◇
夢を見た。
自分の部屋で、PCの画面に映し出された少女の姿を必死に目で追い、ふと振り返ると自分の好きなキャラクターのフィギュアがそこにある。
当たり前の風景のはずなのだが、何故かどこかが歪で、ここは本当の自分の部屋ではないという事がなんとなく分かっていた。
いつもなら、どんな暗がりでもフィギュアの位置はすべて把握しており、闇に慣れたその目は的確にフィギュアたちの顔の造形や服の細部までを映し出すのだが、どのフィギュアも何故かデッサン人形のようにしか見えない。
そんな部屋には俺以外の人物はいないはずなのだが、どこからが不意に少女の声が聞こえてくる。
『あなたの望む世界はあんな寂れてしまった酷い世界?』
違う。俺は地球に帰りたい。
『じゃあ、ここにいればいいわ! ここにいれば、あなたは永遠に地球と同じ生活を送ることが出来る。それがあなたにとっての益で、私にとっての益でもある』
それはできない。
『何故?』
ここは俺の部屋じゃない。俺は、自分の部屋、つまり俺とフィギュアたちの愛の巣に帰るって決めてんだ。
こんな形だけ真似したような、なんの想いもこもってない場所なんて俺は望んでない。
『ふーん……喰えないヤツね。いつもの雑魚勇者たちと同じ匂いがしたのに』
その言葉が耳に届いた直後、急に背後から手を思い切り引かれるかのように俺はこの想いのない世界を脱出した。
『気に入った!』
◇◇◇
少女のその諦めたかのような声で目が覚め、周囲を見回すが何故か視界が何かで遮られている。体は何故か痺れて起き上がれない。
「ちっ、そこのクソサキュバス共。俺の仲間を貶めようとした罪は重いぞ……」
朦朧とする意識の中で、ヤン兄の声が聞こえる。
「『魔力喰らい』」
「やめろっ……三谷チンっ!」
怒りに身を任せて相手に何かを叫ぶヤン兄を、掠れた声で必死に止めようとするコウジ。
「俺の仲間たちにお前らが犯した罪は消えないぞ」
敵感知でも感知できなかったのだから俺のミスなのだが、ヤン兄が俺のことを仲間って言ってるのがなんか臭いね。
「滅べ、淫魔ども」
ヤン兄がそういった途端、周囲に爆風が起こって、風によって俺の目隠しが外れた。
『グルォォオオオ!』
先程までヤン兄の声が聞こえていたところにたっているのは、身長およそ3メートル程の人型の体躯、全身を覆う黒くただれた皮膚、大きな山羊の頭が特徴的な怪物だった。
『グゥオゥァァァァァァア!』
雄叫びをあげて、周囲に立ち尽くしていた角の生えた女形の魔族たちを、片っ端から掴んではちぎって口に入れるの繰り返し。
「……三谷チン……」
怪物を見てヤン兄の名前を呼ぶコウジ。今の状況と先程のみんなの発言から起こったことを考えると、俺とコウジは移動中をサキュバスに襲われて眠らされた。
何故か唯一無事だったヤン兄が、自分のスキルを使ってあの怪物に変異した?
あの怪物、明らかに理性が無い。周囲の動くものを狙って食べているようだ。
「ちっ、ギャーギャーうるさいわね、人間」
一人だけやられることなく、怪物の攻撃を交わし続ける小柄なサキュバスがそう呟いた。
「少し黙るといーわっ!」
思い切り怪物の顎を右膝で蹴り、怪物の脳を大きく揺らしたサキュバス。すかさずそのまま右足を前に伸ばしけって怪物の腹に大きな衝撃を与える。
「ったく、血気盛んなやつは嫌いなのよ。さぁ、部下が無礼を働いて悪かったわね」
しゅぅぅぅぅと全身から湯気を吹き出し、怪物から人間の姿へと戻るヤン兄。どうやら俺の予想は当たっていたらしい。
なんだよ、スキル役に立たないって、危ない意味での役に立たないだったのか。どうりで努力するわけだわ。
強いけど理性失うからクソ能力、とか俺的には自決もんだもの。そりゃ、ヤン兄みたいな血気盛んな奴は頑張ろうとすんだろうな。まぁ、あくまで予想の範疇は離れないけど。
そんな、理性を失った代わりに強力な力を得たヤン兄をいとも容易く気絶させた、あのサキュバスは何者なのだろうか。
その俺の疑問を汲み取ったかのように、サキュバスがその口を再び開いた。
「私はあなた達と契約しに来たの。シルティス・ゲオルギウス。あなた達でいう、元・北の魔王って言えば分かってもらえる?」
サキュバスの口から放たれたその言葉は、魔の者たちを絶対悪だと聞いていた俺に対して、驚愕と違和感を感じさせるものだった。
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コメント
ニムル
《コメント返信》
Lilyさん
ありがとうございます!
これからも体が持つ限り精力的に更新をしていくつもりなのでよろしくお願いします。