Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~

なつめ猫

記憶の対価(20)第三者side




 アルスと分かれた魔法師団長アリサは、フィーナを供だってアルセス辺境伯の陣地へと戻っていた。

「急な報告とは何だ?」

 疲れを微塵も見せずに天幕の中に入ってきたのはアルセス辺境伯と、軍を統括するリンデール。

「はい、魔王城に関しての報告です」
「今は、投石器の設置に伴う兵士の待機場所や対応で忙しいのだが、そんなに重要なことなのか?」
「重要であるかと言うと、それは分かりませんが……」
「分かった。何か重要な物を見つけたのだな?」

 アリサの言葉に、アルセス辺境伯は溜息混じりに言葉を紡ぐと椅子の上に腰を下ろす。

「フィーナ、出してもらえるかしら?」
「は、はい」

 次々とアイテムボックスから出されている鋼で作られたと剣や槍は膨大な量に及ぶ。
 青銅器が主流の現在の世界においてはロストテクノロジーと良かった。

「これは……、遥か昔に失われたと言われている」
「はい。おそらくは製鉄技術かと――」
「ふむ……、これは王宮も黙ってはいないな」
「恐らく事実関係を問われる可能性が非常に高いかと思われます」

 アリサの言葉に、アルセス辺境伯は小さく溜息をつく。

「リンデール、お前はどう見る?」
「一兵士として軍人としては持ってみたい物でありますが、遺失された技術で作られた物ですと、王国上層部も黙ってはいないでしょうし、王宮お抱えの鍛冶職人による再現が始められるはずです」

 リンデールの言葉に「――で、あろうな」と、アルセス辺境伯は頷く。
 
「ところで、それは?」

 フィーナは軍議が行われる際に使われるテーブルの上にアルスが見つけた日本語で書かれた文字の本を置くと、アルセス辺境伯は本へ視線を向けて言葉を紡いでいた。

「それは、シューバッハ騎士爵の子息であるアルス君が見つけた物になります」
「なるほど……」

 アリサの言葉に頷くとアルセス辺境伯は、本を手に取り中身を確認していく。

「私が知る文字ではないな。アリサ、お前は読めるのか?」
「いえ――、エルフ文字でもローレンシア大陸共通言語でもありません。おそらく別の国の言語だと思いますが100年近く生きてきて、そのような複雑な文字を私は見たことがありません……。ただ、二人を除いて――」
「二人? お前の知り合いなら読めると申すのか? ――して、その者はエルフ族の森に?」
「――いえ」
「どういうことだ?」
「一人は、シューバッハ騎士爵の子息であるアルス。もう一人は――」

 言葉を紡ぎながらアリサに視線を向けられたフィーナは、一瞬だけ肩を震わせる。

「貴女、この文字が読めるのよね?」
「……」

 アリサの言葉に、フィーナは足元を見る。

「ふむ……、魔王城から持ち出された書物に書かれている内容については、今後の軍事行動について影響が出てくる可能性がある。伝承や文献というのは、完全な真実では無いかも知れぬが、その時に起きた出来事を抽象的に説明することにも使われるからな。フィーナとやら、約束は覚えているであろうな?」
「――そ、それは……」
「分かっておる。お主が何を隠そうとしているのか。それでも、お主が隠したことで大勢の民の命が失われるとしたら、どうなのだ?」

 アルセス辺境伯は、諭すようにフィーナに語りかける。

「……それは――」

 フィーナは、肩を震わせた後、勇気を出すように手を握り締めた。
 そして、迷った末に顔を上げる。

「シャルロット・ド・クレベルトと言う方が書いた本のようです」

 フィーナの紡いだ言葉に、アリサを含んだその場に居た3人の顔色が変わる。
 それと供に天幕に一人の男が入ってきた。

「アリサ殿、至急の用ということでしたが?」
「――え、ええ」

 沈黙を破るように天幕に入ってきたアドリアンの言葉に、アリサは反射的に答える。
 
「実は、魔王城に行った時に、妙な物を見つけまして」
「妙な物? それが、私を呼んだ理由?」
「はい。おそらくアルス君にも関係のある物ですから。それに……、どうしても伝えないといけないことがありまして……」
「どうしても伝えないといけないこと?」

 アリサの言葉がやけに重々しく感じたシューバッハ騎士爵であるアドリアンは眉間に皺を寄せると、彼もまた緊張した面持ちで言葉を発した。

「私の、エルフ固有の魔法である共感覚の魔法はご存知かと思います」
「ああ、知っている。他者の魔力や性質と同調することで木々の上に住まうエルフは木々に負担をかけないのであったな?」

 アルセス辺境伯の言葉に、神妙な表情でアリサは頷くと供にフィーナのほうへと視線を向けると、全員を見渡す。
 そして「エルフの共感覚の魔法は、他者の体験や記憶などを読み取ることが時折あるのです」と、言葉を紡ぐ。

「アリサさん……」
「フィーナちゃん、これは大事なことなの。彼が誰なのか……、彼は一体なのか。そして私達と彼の間に何があったのか。それは戦の可否を決定づける要因になるかもしれないの。だって、私達とアルスの間には、そういう約束があったのだから……」
 抽象的なアリサの言葉に、アルセス辺境伯は「どういう意味だ?」と、アリサに問いかける。

「アルセス辺境伯様、そしてアドリアン様。彼は……、アルス君は、この世界の人間ではありません」

 



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