Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~

なつめ猫

記憶の対価(15)




 父親であるアドリアンから許可を貰った俺は、川辺で時間を潰していた。
 それは何故かと言うと、魔法師団は魔王城の城門に書かれていた文字を解読するためにアルセス辺境伯軍の陣地にはいないからだ。
 魔法師団長であるアリサも、魔法師団と共に出払っているから戻ってくるまで時間がかかる。
 それに、アルセス辺境伯と魔法師団長のアリサの間でも色々と俺に聞かれたくない内容があるはずだ。
 俺の予想どおり、川辺で待っていることを伝えたところ、二つ返事で許可を貰うことができた。

「それにしても、本当に俺の定位置になりつつあるよな……」

 大岩の上で寝転がりながら空を見上げていると、あの時のことが思い出される。
 俺が、魔王に殺される前に見た光景。
 それは、フィーナが殺された場面だ。
 その場面が頭の中でフラッシュバックする。
 それと同時に、フィーナの妹であるレイリアが今回は上手く言っているという記憶が思い出される。
 彼女は、何の意味を込めて俺に理由もなく自分は特別であると告げてきたのか、そこがずっと気になっている。
 ただ、あまり容態は良くないらしく俺が行くと余計な負担を掛けてしまうだろう。
 それなら、魔王城で何らかの情報を得るのも一つの手だ。
 多角的な方向から物事を見つめ直すのは、問題が起きたときの常套手段だから。

「アルスくん!」

 考えごとをしていると、手を振りながら川を渡ってくるアリサの姿が見えた。
 若者らしい動き方を見ていると、彼女の年齢を勘違いしそうになるがハーフエルフは長寿だからなと自分を納得させながら大岩の上から降りる。

「アリサさん。お手間を掛けてしまって、申し訳ありません」
「いいのよ! それよりも魔王城に入れるんですって?」
「はい。そのような魔法がエルフにはあるとアルセス辺境伯様に聞きましたので」
「あるわよ! エルフだったら誰でも使える魔法だから!」
「そうなんですか?」
「ええ、そうよ。さっ! いきましょう!」

 アリサが俺の手を掴むと歩き出す。
 歩みがずいぶんと速いが、魔王城の城門を調べていた時から彼女は、どこかしら城の中に興味があるようだった。
 それが城の中に入れると決まったのだ。
 
「アリサさん、魔王城は逃げませんので」
「――そ、そうね……」

 俺の言葉に、彼女はハッ! と、した表情を見せると歩くペースを緩める。
 しばらく二人で歩いていると山の中へ入ったあと兵士の姿をよく見かけるようになった。
 その多くは投石器製作のための木材を森林から切り出している。

「あれ? アルスくん? こんなところで何をしているの?」
「フィーナこそ……、ああ、物資の移動の手伝いをしているのか?」
「うん! アルスくんは?」

 よく見ればフィーナを守るように2人の兵士が後ろに控えているように見えた。
 おそらくアルセス辺境伯がつけた兵士なのだろう。

「手伝いはどうだ? 順調か?」
「うん、もう殆ど終わりだけど……」
「丁度、良かったわ。フィーナさん、貴女も一緒に着いてきてくれない?」
「――ど、どこにですか?」

 てっきり俺はアリサと二人で行くと思っていた。
 彼女がフィーナを誘うことは予想していなかったし、出来ればフィーナを魔王城に連れていくつもりはない。

「魔王城よ? 貴女も興味があるでしょう?」
「アリサさん、フィーナは無理に連れていく必要は無いと思います」
「あら? どうして? アルセス辺境伯からアイテムボックス持ちを一緒に同伴させたほうがいいと指示を受けているのだけど?」
「――指示を受けていたとしても彼女は、非戦闘員です。何かあったら自分自身で対処はできません!」
「フィーナさん」
「は、はい!」
「アルスくんは、貴女のことを足手まといのように言っているようだけど? 私としては、手伝ってもらいたいの。何か貴重な物があれば、アイテムボックス持ちがいたら壊れる前に回収できるから」
「アリサさん! フィーナに無理強いするようなことは!」
「それって……」

 フィーナが途中で言葉を区切ると、俺とアリサを交互に見てきた。

「わ、私も! 私も、行きます!」
「――ッ!? ダメだ!」

 俺は、反射的に彼女の言葉を否定していた。
 フィーナは、俺に強く反対されるとは思っていなかったのだろう。
 俺の目を見ながら「……ど、どうして……、どうして……反対するの?」と、涙声で訴えかけてきたが……。

 ――彼女の言葉に答える言葉を俺は持ち合わせていない。
 俺の態度がおかしいと思ったのかアリサが困ったような表情で俺を見てくる。

 二人に分かる訳がない。
 俺は――、フィーナを……。
 自分の行動で……、選択のミスで死なせてしまったのだ。
 その責任すら取れていないのに、彼女を危険な場所に連れていく訳はいかない。

「アルスくん、どうして彼女を――、フィーナさんを連れていけないの? どうしてなのかしら?」

 至極全うな疑問を俺にアリサは呈してきたが、その言葉にも俺は答えることが出来ない。
 
「仕方ないわね。アルス君? 今回の行動は軍の行動ということになっているの。だから、君が反対するには、アルセス辺境伯へと自分の言葉で、どうしてダメなのか伝えないといけないわ。でも、貴方の我侭をアルセス辺境伯は聞いたのでしょう? それなら――」
「わかりました……」

 たしかに俺の我侭で魔王城内の視察が決まった。
 あまり駄々を捏ねても仕方がない。
 
「それでは、よろしくね」
「はい! えっと……」
「アリサよ。魔法師団の団長をしているわ」
「分かりました。よろしくお願いします」

 どうやら、アリサとフィーナ。
 当人同士の自己紹介は終わったようだ。
 

  


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