Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~

なつめ猫

記憶の対価(2)




 フィーナと分かれた後、いつものように川原にある大岩の上に座って拾ってきた小石を川へと投げ入れて時間を無為に費やしていた。 

 本当は、粉砕した石炭を投石する投石器の設置箇所も確認しないといけないのに、まるで心の中に穴がポッカリと空いてしまったようで、やる気がまったく起きない。

 大岩の上で横になりながら空を見上げる。
 すると、ふいに離れ間際のフィーナの表情が思い出された。

 彼女の悲しそうな表情。

 別に俺は、フィーナが喜ぶ姿が見たかっただけだった。
 彼女が気に病んでいる妹が助かればいいと思いアルセス辺境伯へ願い出ただけで、彼女を傷つけるつもりなんてどこにも無かった。

「――くそっ!」

 俺は岩を殴る。
 俺の軽率な行動が、彼女に違和感を与えるなど想像していなかった。
 
 もっと、考えてから行動するべきだった。
 もっと、コミュニケーションをとっておけば、回避できたはずだった。
 もっと、上手くやれたはずだったのに――。

 ――彼女に「貴方は、アルス君じゃない!」と否定されるとは思わなかった。
 
「まさか、こんな結果になるなんてな……」

 俺は自分に向けて一人呟く。
 ただ、分かっていた。
 俺は彼女を死なせてしまった。
 俺の軽率な行いのせいでフィーナは魔王に殺された。
 そのことを思えば、彼女に嫌われるのは……、問題ない。
 元々――、全部俺が悪いのだ。
 
 ――そう。最初の目標を忘れたらいけない。
 俺は魔王を倒す。
 それが、俺の目標だ。
 そのために、行動してきたのだから――、そうすれば全てが上手くいくはずで……。

「詭弁だな――」

 自分を、どんなに正当化しようとしても結局は、俺がアルスではないことに変わりはない。
 俺は別の世界で生まれて育った日本人であり桜木悠斗と言う名前がある。
 フィーナの言っていた事は十分に的を射ているし、間違ってもいない。

「――ったく――、誰だよ……。俺に異世界転生させた奴は……」

 どうして俺を異世界転生させたのか? そして死んだ時に、時を巻き戻して生き返る力を与えたのか? 理由がまったく分からない。
 ――いや、理由ならあるか……。
 
「魔王がいるからな……」

 それにしても、アルスの記憶が殆ど無いとか無茶苦茶にも程がある。
 おかげで苦労のしっ放しだ。
 考え事をしているところで、川を渡っている音が聞こえてくる。
 ふと大岩から、下を見下ろすと丁度、兵士の一人とフィーナが川を渡っているところであった。
 フィーナが一瞬、俺の方へと視線を向けてくる。
 彼女を見ていた俺と視線が一瞬だけ交差するが、すぐに視線を逸らされた。
 
「どうやら、完全に嫌われてしまったようだな……」

 一瞬、自殺をして時間を巻き戻せば――、と思ってしまう自分が居たが頭を振って否定する。
 今回の討伐が終われば問題ない。
 
「――あと3日だ。それで全てが終わる」

 魔王を倒した後は、魔法王を倒し――、それで目標は達成だ。
 その後は、俺は――。
 俺は……、何をすればいい?

 フィーナに嫌われたまま――、俺は領地を富ませることができるのか?
 そもそも、アルスと偽って両親を騙している俺に領地を受け継ぐ資格なんてあるのか?

 考えれば考えるほど悪い方向へと考えが向かってしまう。
 良くないというのは分かっている。
 それでも――。

「アルス君」
「――ッ!?」

 思考の泥沼に嵌っていた俺は、驚いて後ろを振り向く。
 そこには、アルセス辺境伯軍の魔法師団長アリサが座って俺を見てきていた。





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