虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

特級会員 後篇



 ──特級会員。
 各ギルドに新しく用意された制度。
 貢献著しい優秀な者たちを、人種や出生を問わずその実力だけで選定する。

 会員は各ギルドで定められた制約として、その行動に最大限の協力を行う。
 冒険者であれば武具や魔道具の調達、生産者であれば素材の準備、商人であれば腕利きの護衛の配置などが含まれる。

 また、貢献を外部に漏らさないよう、各ギルドがその隠蔽に励む。
 開示されずにいたギルドの情報を特級会員にのみ開示し、さらなる発展を促す。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 まあ、だいたいそんなことが書いてある。
 要するにこれまで以上にサービスが受けられ、よりより環境が与えられるのだ。

「外部、にですか……」

「そこにツッコむかい? もっといろいろな場所に穴があったと思うんだけど」

「ああ、分かっていてやっているんですね」

「優れた職人なら、腕だけでなく知恵も磨いてほしいからね。それくらい、見ただけで気づけるようになることが大切だよ」

 契約書において、何も見ないでそのままサインすることなど愚の骨頂だ。
 これは社会人だけでなく、ゲームで遊ぶ子供や働かなくなったご年配の方々も含む。

 そうして内容も見ないまま適当に契約に同意した結果、のちに金銭を膨大に失うなどの事件は今でも多発している。

「直せるんですか?」

「こことここ、それにここ以外はね。あくまでこれは、こちら側で書き換えた物だよ。だから、元の物を知っているというのも暴くのに必要なことなんだ」

「では、それをお願いします」

 引き出しの中から取りだしてきたもう一枚の紙には、たしかに内容が異なる文面がいくつか記されていた。

「……まだあるんですね」

「商人ギルドの長も参加したんだからね。その総本山ともなれば、その文字一つ一つに自分の利益を混ぜてくるモノさ」

「こちらの修正は?」

「こことここ以外ならどこでも。采配は各ギルドに委ねられるようにしたんだよ……その分商人ギルドは大変だろうけどね」

 視界と首元の隠しカメラを通じて、その文面は『SEBAS』に届いている。
 その指示の下、一つ一つ俺に問題がありそうな文章を書き換えていく。

「──驚いた。まだあったんだ」

「一つでは特に意味のないこと、と思えるようにして複数を重ねることで意味を発揮する契約はよくありました。商人は用心深く動く者ですし、こと契約の方面ともなれば彼らの独壇場でしょう」

「ああ、ずいぶんと粘ってたからねー」

「不要な物は削除しますね。最低限、私が生産者ギルドに従順にしている(と思える)文面にしておけば大丈夫でしょうし」

 そうして完成した契約書に、俺とギルド長がサインを行う。
 これで俺は、生産ギルドから協力をかなりしてもらえるようになるわけだ。

「と、いうわけでギルド長。新作をいくつか持ってきたのですが……」

「……早いよ」

 げんなりとしたギルド長を見て、少し契約も早すぎたのかな? と思ってしまった。


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