虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

隷属(仮)



「入ってきてくれて構わないぞ」

『は、はい!』

 しばらくして、騎士団長くっころさん女騎士みはりを再びこの部屋に招き入れる。
 だが不思議と彼女たちの顔は赤く、チラチラと俺たちの間を行ったり来たりしている。

 まあ、その……なんだ。
 少々ルリの顔が艶々しているのが、もっともな理由なのかもしれない。
 さっきまでと違い、少し楽しげな表情でもあるからな。

「──フィーヌ、貴女のやったことは許されがたいこと……それは分かっているわね?」

「は、はい! ……教祖様の夫たるツクル様に行った非礼、どのようなことをしてでも償う所存であります!」

「そう……リンちゃん、これから何をすべきか理解しているわね?」

「ハッ、すぐに手配いたします!」

 騎士っぽいポーズ(胸に手を当てる)をしてから、すぐにくっころさんは部屋から出ていった。
 一方、入る時とは違って青ざめた表情をしている女騎士……大丈夫だろうか?

「なあ、ルリ……捕まえられてた自分で言うのもなんだが、本当にこれでいいのか?」

「うーん、何かしないとあとが怖いのよ。たとえるなら……狂信的な『さすご主』?」

「優しすぎるのもダメってことか」

「そうなのよ。だから、とりあえずでも名目上でもやっておく必要があるわ」

 死亡レーダーによって、くっころさんが猛ダッシュで戻ってくる様子が確認される。
 部屋の者たちが音を聞き取れる範囲内に来ると、走るのを止めて早歩きになったのは内緒にしておいてやろう。

「ただいま戻りました」

「ご苦労様……フィーヌ、あれがなんだか分かるわよね?」

 くっころさんが持ってきたのは、ペットなどが首に巻くチョーカー的な……って、待て待てこの展開はまさか──

「れ、『隷属の首輪』です」

「そう。これからしばらくの間、ツクルさんの傍づか──」

「ちょっと待て!」

「え……どうしたのかしら?」

 まさかの妻による女騎士奴隷化イベント。
 なかなか滅多に味わえないことだが、それはありえないからこそそう思うわけで……というか、そもそも必要ないわけで。

「ルリ、俺にそういうのは必要ない」

「ふふっ、分かっていますよ。だから、あくまでそれはここにアナタが来たときだけの話だわ……フィーヌ、これから貴女は傍仕えとしてツクルさんがここを訪れたら、その世話係となってもらうわ」

「せ、世話係……ですか?」

「一番レベルの低い『隷属』にするわ。だから、頼まれ事でも嫌な命令だったら拒否してもいい……やってくれるわよね?」

 すぐに『SEBAS』に訊いてみると、この判断は正しいとのこと。
 いちおうでもそれを行っていることが、彼女を排他的環境に置かないんだとか。

「わ、分かりました……」

「そう、なら付けなさい。と、いうわけでアナタが嵌めてあげてちょうだい」

「……分かったよ」

 そんなこんなで、女騎士のご主人様(仮)となってしまった……まあ、ここに来なければいいんだからな。

「また来てくださいね、ア・ナ・タ♪」

「分かってて言ってるな?」

 連絡はできるだけ、外部から取ろう。


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