虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

部屋準備



「──ここを会談場所に使いたい? 君は、戦場にでもここを変えたいのかな?」

「いえいえ、そんなことは。メリットと利益の観点から考えて、私としてはこの場所が最適だという結果になっただけのことです」

「……どっちもプラスだね。それじゃあ、デメリットは無いとでも言うのかな?」

 遊びに行く感覚で訪れている生産ギルドのギルド長室。
 何かの書類に目を通しているギルド長と、部屋を借りたいという話をしていた。

「そりゃあね、君が生産ギルドの一員として生産室を使って素晴らしいアイテムを……って夢想したことも、たしかにあるさ。けど、その考えもすぐに潰えたよ」

「ほぉ、それはどうしてでしょうか?」

「できるだけ外部に漏れないように、と工夫はしているんだけど……限界はある。それならいっそ、君が誰も居ない場所で創りあげてくれた方が助かるってものだよ」

「そうでしたか……まあ、それはともかくとして、話を戻しましょう」

 一枚の紙を取りだし、企画をギルド長に説明していく。
 やることはとてもシンプルなので、スラスラと記してある内容を口頭で述べ挙げる。

「すでにご招待する皆様がたには、招待状を送りつけてあります。中には映像中継用の魔道具が入れてありまして、どこに居ても参加することが可能です」

「……まずはその魔道具を、こっちに流してほしかったかな?」

「欲しいというのであれば、サンプルの提供は構いませんよ。引き受けてくだされば、映像を投射する魔道具を例の部屋へ設置する手筈となりますし……」

「使ってもいい、ということだね」

 同じような品が何個もあるので、試作型や旧式を渡しても痛くも痒くもないのだ。
 だが、場所には限りがあるし、安全に使えるとなるとそう多くはなかった。

 もちろん、アイプスルの中にはそういったことに適した部屋も多いのだが、アイプスルに関する情報を今回は開示する予定がないので、冒険世界内で会談そのものは行いたい。

「会談はそこに記された日に。内容は、ただの挨拶会のようなものです。私たちをこの地に送った神が選んだ、十個の『天』を持つ者たちによる」

「けど、この紙には半分ずつで会うように書かれているけど?」

「二パターン居るのです。表だって騒がれてほしい、騎士のような存在たち。そして秘匿していてほしい、密偵のような存在たちと」

「……君はどっちなんだい?」

 その仲介役です、と苦笑しておく。
 片方だけと嘘を言ったとしても、部屋を見られればすぐにバレるしな。
 何よりギルド長との付き合いも長いので、そこまで意味の無い話はしないだろう。

「部屋を使うこと、これは問題ない。魔道具の設置も使用も、別にいい。けど、生産ギルドは何も噛めないのかい?」

「相手は映像越しに話しますので……お土産は渡せませんよ」

「……今度、別の機会でも作ってね」

「今回の結果次第でしょうね」

 さて、部屋の準備はできた。
 早くいろいろと整えていかないとな。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品