虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
守護獣の孵化
あれから数日後、アイプスルにそびえ立つ巨大な樹の下へ俺は立ち寄っていた。
そこでは今日も、風兎先生によるハードな特訓が繰り広げられている。
「──と、いうわけなんだ。すまんが、風兎の知恵を借りたい」
『いきなり「と、いうわけ」と言われて何が協力できるか分からんが……とりあえず、今度はしっかりと説明をしろ』
カクカクシカジカは通用しなかったので、試練における一連の流れを説明してみた。
たまたま訪れた箱庭で、偶然神の試練を行うことになり、なんやかんやで獣の神の祝福が手に入ったということを。
「……とまあ、こんな感じだ」
『理不尽だな、いつも通り』
「いつも通り、という点にいろいろとツッコミを入れたいんだが……まあ、いいや。それよりも、『守護獣の卵』についてだ」
『なるほど。あのお方の試練であれば、当然の報酬であろう』
いちおうランダムだったのだが、もしかしたらランダムはその中身という意味だったのかもしれないな。
卵であれば、孵化装置の中に入れておけばいいと思ったが……どうやら違うようだ。
『ツクル、貴様は二つの方法のどちらかを選ばなければならない』
「二つ?」
『一つは貴様が肌身離さず持ち歩き、貴様専用の守護獣として孵化させる。こちらであれば、脆弱な肉体を守ってもらえるようになるかもしれんぞ』
「へー、守護獣って凄いんだな」
あまり守護獣を知っているわけではないんだが、それでも『守護』という概念がまさかそこまで便利だとは思ってもいなかった。
「ふむふむ、それでもう一つの方法は?」
『この世界の守護獣として孵化させる、という方法だ。こちらは私に任せてもらえば、見事孵化をさせてみせよう』
「よし、じゃあそっちで頼む」
『……いいのか?』
俺は死んでなんぼの存在になっているし、今さら守られても俺と守護獣どちらも大変になってしまう。
ならば世界の管理者を増やし、風兎にかかる負担を減らした方がいいのかもしれない。
「卵は……ほら、これだ。ああ、そうだついでに子供の情操教育の一環として、孵化するまでを説明するってのはできるか?」
『可能ではあるが、それは子供だけでなく大人も楽しみたいと思うぞ』
「そんなにイベントとして盛り上がるのか。なら、『SEBAS』とカエンに相談しておこう。星脈操作もするし、風兎の決めた場所で孵化させてみるか」
外から来たカルルやレムリアにはしっかり見てもらいたいし、できるなら時間を合わせてコミにも来てもらいたい。
彼女たちは何かと特殊なキーパーソンであるし、何か御利益があるかもしれない。
まあ、何よりも命の尊さを学べる時間になればいいんだがな。
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