虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

神無き世界



『──すでにさまざまな強者が『生者』を知ろうとしている』


 かつて言われたこの台詞だが、明らかにフラグ感満載な発言であろう。
 なぜか『超越者』でない【獣王】が俺のことを知っていたのは、もしかしたらそれが理由なのかもしれない。

 もちろん、これは自意識過剰な考え方という可能性もある。
 発言だって俺を脅かしているだけかもしれないし、実際には本当にただ情報収集をしているだけ、ということも考えられる。

「しかし、しかしだ。これまでの出来事を思い返して、そんな都合のいい展開はありえないわけだ」

《そのようでございますね》

「だからこそ、俺はドローンを各地に飛ばして情報収集をしていた……そうだろう?」

《そうでございます》

 けれど、それでもイベントは唐突に。
 突然極東の使者が現れたり、不思議な入り口から地下世界へ向かったり……なんだかこう、ルリとは逆──悪い意味で運が働いている気がするんだ。

 念入りにチェックしても、まるで捜索網を回避したかのように不意打ちで接触される。
 そしてあとで情報収集を行い、それでようやく解決法に届くのがいつものパターンだ。

「アイプスルだけが、唯一無二の安住の地となっている。というか、外に出ただけでトラブルが起きるんだから、本当にあそこ以外でゆっくりできる場所がないだろ」

 もし神様が運命とやらを操っているのであれば、荒廃していたこの世界にその神という存在はいないのだろう。
 だからこそ幸運も不幸もなく、生きようとする活力さえあれば今この世界では他に必要なものが存在しない。

「せめてこう、ゲームの主人公みたいにやるやらないを選べればいいのにな……VRだからって、選択肢まで奪わないでほしいよ」

 強制クエスト、みたいな感じだしな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 さて、ここまで悲しく『SEBAS』と会話をしていた俺だが……いったいどこでそんな話をしていたと思う?

「このタイミングでイベント……誰一人として教えてくれなかったのは、全員共通であたりまえだと解釈していたからか」

 イベントの説明? ああ、『SEBAS』が今調べてくれているよ。
 アイプスルから冒険世界へ向かった所、その瞬間がイベントへの初期転送時間とピッタリ一致したらしく──直葬だ。

 誰もいないお空の上、なんだか廃墟と化したお城の中で俺は呟いている。

「天空の城、だな。どこかにプラズマを生みだす制御装置でもあるかもしれない」

 飛行する石は……まあ、とっくにロマンに釣られて作ってあるので大丈夫だろう。
 なんのイベントか分からないが、今は情報収集に励むしかない。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品