虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

戦闘人形



 アイプスル

「できたー!」

 その日、俺の叫び声が世界に広がった。
 まだ:DIY:を終了していなかったため、叫び声も無限の能力値の下で発せられたからである。

《旦那様》

「おっと、すまないすまない。けど、かなりの品になったと思わないか?」

《そのようですね、神代の民でもこれほどの戦力を保有していたことはないでしょう》

 造り上げたのは一体の人形。
 正確に言うのなら──改造した、だけど。

「完全な戦闘データがあったから組み込んでみたが……うん、バッチリだ」

 試しに起動させてみると、俺の指示に従って攻撃を仕掛けてくる。
 キレも間違いなく同じように思える……少しだけ感じる違和感は、きっと入れ込んだ器があまりよろしくなかったからだろう。

「“停止”……よし、コマンドも効く」

 俺の声、そしてそこに籠もった魔力に合わせて行動を変化させることができる。
 暴走することもなく、正しく従う存在。
 その気になれば、戦争もできるんだよな。

「戦闘人形、暗躍街で見つけた白き人形。あれがどうやって闘うかの戦闘データを別のものに書き換えた結果……これが生まれた」

《旦那様はそれを、今後どうなさるおつもりですか?》

 誰の戦闘データを使ったかを分かりやすくするため、頭部には特徴的な長耳が付いている……そう、【獣王】のモノである。
 無限に人形を生みだせる神代魔道具、その構造を解析すれば戦闘データをいくつか見つけることができた。

 しかし、強者のスペックを押し込むことができない……しかも、俺程度の虚弱生産士に倒される人形である。
 もともと入っていたデータも、あくまで一般兵レベルのものだった。

「黒い方はもう少し強かったが、それでもその上司程度しかなかったな」

 強者が戦いに参戦すれば、一瞬で屠られてしまうレベルだ。
 質より量、量より質という言葉が存在するのを思いだし……最強レベルの人形を大量に用意すればいいと考えた次第である。

「これでこの世界に侵入者が来ても、民たちの手を煩わせることなく撃退できるはず。けど、それだけだと酔ってしまうか」

《防災を行っていますが、意識レベルは低下するでしょう》

「そればかりは日本と同じだよな」

 震災の怖さを知っていても、自分が生まれる前のことだから……別の地域だから……とか思っている。
 この場合はどうせ人形が居るから、と勝手に安心してしまう。

「風兎がちゃんとやってくれているから、まだどうにかなる。戦闘訓練にこれを使ってもらえば、少しは意識改善になるか」

《確実になるかと》

「ならそうしよう。指示は頼んだぞ」

《畏まりました》

 安全な場所、なんてどこにもないのだ。
 限りなくそうあるように、誰もが努力しなければならないだけ……楽園であるためには苦労も必要なんだよ。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品