虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
野生王 その13
時は遡ること数時間前。
さまざまな視線を掻い潜り、疲労困憊で謁見の間を訪れたときのことだ。
「──さぁ、俺と闘え」
獣の王と聴き、普通はどういった姿を想像するだろうか。
王道である百獣の王──ライオン、それをイメージする奴が多いだろう。
だが現実はどうであろう。
たてがみが生えているわけでも、獰猛そうな瞳を爛々とさせているわけでもない。
ピョコンと生えた長耳、儚げな顔立ち、華奢な体躯……どれを見ても、【獣王】だとは思えない者が玉座に君臨している。
「なあ、声が聞こえてないのか? 俺は、お前と闘いたいんだ……『超越者』」
「……おや、知られていましたか」
「おいおい、謙遜するなよ。西へ東へ挙句は地下へ、向かうところで必ず厄介事を働く新たな『超越者』──それがお前の評価なんだよ、『生者』」
ウサギ、そうウサギであった。
たしかにこの世界、初期地点から近い森がウサギ型の守護者の領域だったように、それなりにウサギが強者として存在しているのかもしれない……けど、さすがにウサギが獣の王ともなると、少し違和感が出る。
「女性、なんですね」
「王と聞いて勘違いしたか? それとも、こいつがトー様と言うからか? 俺の名前を略したらトーになるだけだ、覚えときな」
「ええ、そうさせてもらいましょう」
父様じゃ、なかったんだね。
なんだかウサギに縁のあるゲームライフを送らせてもらっているようで、少しだけ心がほっこりしたが……先の発言、彼女が忠告通りの人物であるなら──
「なあ、それより闘いだよ。アンタ、強いって噂だぜ? 俺を倒したらこの国全部くれてやるからさ、闘わないか?」
顔を俯かせている獣人の皆さま方から、とてつもない怨嗟の声が上がっている気がするのは気のせいだろうか。
それはきっと、体のいい押しつけなんだろうなーとも理解できた。
(フォローしてくれるはずなんだよな? 予めヤーにも頼んでいたし、きっと──)
「もしコイツが勝てば、俺はちゃんと仕事をするぞ? そして俺が勝てば、コイツが俺の代わりに仕事をする……それならどうだ?」
「──セージャ様、どうかお受けください」
「……はい?」
この言葉を皮切りに、皆さま方からとても熱い声援と説得を受け始める。
なんでもこうした約束事の場合、彼女は必ず仕事をするそうで……闘いを望んでいるからこそ、闘いに誓った内容を順守するといったところか。
なんだか必死に頼み込むお偉い方。
そこは『騎士王』とも『冥王』とも違う、【仙王】の所と似た雰囲気を感じて少しばかり気持ちが和む。
「──分かりました。条件さえ呑んでいただければ、その勝負を受けましょう」
そして、現在に至るわけだ。
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