虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

革命 その19



「ただいま、でしょうか? とにかく、戻ってまいりました」

「……あのあと、いったい何があった」

「少しばかり【暗殺王】さんとお話をして、仲を深めただけですよ。英雄様のように、深いことは考えておりませんので」

 実際、そんな話だっただろう。
 僅かにブラックな要素も含まれていたものの、最終的に暗殺に関する事柄へ対する決まりを設けることができた。
 ──要するに、以降は殺されないわけだ。

「ところで、魔道具の方はどうですか? 正常に稼働しているとは思いますが……」

「今も稼働しているぞ。飢えに苦しむ者はたくさんいる……だが、『生者』の協力のお蔭でそれもずいぶんと減った!」

「それはよかったです。何より、少し雰囲気が明るくなりましたね」

「そ、そうだろうか……?」

 活気に溢れる、と言った方がよかったか?
 老若男女問わず、もともと死にたくはないが動く気力がなかった者たちは動けるようになっている。

 エネルギーを省エネする必要がなくなったが故に、剽軽者たちが場を盛り上げてくれているのも理由の一つだろう。

「英雄様、私は貴方に言っておかなければならないことがあります」

「い、言っておかねば、ならない、こと?」

 なぜ区切ったかは分からないが、それよりもちゃんと言っておかねば。

「革命も一段落しましたし、私はこの場から去ろうと思いまして……」

「…………そうか」

「皆様の食糧問題は解決できましたので、また私を必要としている場所へ向かうことにしました。申し訳ありませんが、英雄様とはここでお別れです」

「君は、商人なのだ。本来であれば、それが普通であろう」

 何かを堪えるように、ギュッと拳を握りながら英雄はそう語る。
 だいぶ商品を売ったし、そろそろゆっくりしたくもなってきた。

 タクマ? ああ、もう会ったぞ。
 どうせ俺が動けないこともあって、タクマの方に闇厄街へ来てもらうことで問題は解決だった。
 ……俺が一部、物知り顔をしていたのもそのためだ。

「せ、『生者』は次にどこへ?」

「そうですね……一度街を離れ、地上でいくらか商品を揃えてくるつもりです。しばらくしたら、またこちらにもお世話になります」

「そ、そうか……また、来るのだな」

「ええ、ですのでこちらを」

 渡したのは、名刺のようなカードだ。
 現実であればそれは名刺そのものだが、こちらの世界でそんな陳腐な品を流行らせようとするわけもなく──

「ご必要な品があれば、そちらの魔道具でご連絡ください。また、構造を解析し、コピーすれば連絡用の魔道具を複製できます」

「そ、そのような品を……いいのか?」

「もちろん、英雄様に渡した品以外は劣化してしまうのでご注意を。魔力による連絡ですので、盗聴も可能となってしまいます。あくまでそれを想定しての用途でお願いします」

「あ、ああ……分かった」

 この後少しやり取りをして、俺はこの場を去った……闇厄街を去ったのではないのは、まだ他に会うべき人が居るからだ。


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