虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

革命 その18



「実際、俺だって考えてはいたんだ。殺さずに殺す方法として、死ねない状態を用意されることぐらい」

『…………』

「だけど、それをお前ができる道理はないだろ? 方法があるとして、暗殺者のすることは封印じゃなくて殺すことだ。俺たちは、絶望的に相性が悪いんだよ」

 殺す者と殺される者。
 俺は【暗殺王】を殺せないが、【暗殺王】もまた俺を殺し切ることができない。
 だからこそ、封印という手段を提示してきたわけだ……まあ、無理なんだが。

『…………』

「何か言ったらどうだ? さっきまで、俺を殺そうとしていた暗殺者さん?」

『…………て』

「ん、何か言ったか?」


『……助けて』


 現在、【暗殺王】は固まっている。
 そのままの状況をざっくり説明すれば、本当にそんな感じだ。

「どうせさ、丸呑みして収めるとかだと予測してたんだ。だからこうして、特製の粉を塗していただけだが……ここまで効くとはな」

『くっ、分離ができない』

「だから、特製の粉だって」

 スライムの弱点として、水分を吸収して凝固させれば動けなくなるというものがある。
 もちろんスライムも馬鹿ではないので、異物を除去する能力を持つ(確認済み)。

 そのため、俺はそれを無効化できるような成分を研究し──生みだした。
 それこそが『固定粉』、名前はシンプルだが他にも用途があるのでこれぐらい簡単な名前にしておきたかった。

「……それで、そうして油断させている間に次が来るっと!」

『『っ……!』』

「分裂ぐらい予想しているわ。俺、お前の中でどんだけ馬鹿な奴なんだよ」

 やり取りをしている間に現れた、もう一人の【暗殺王】。
 当然、死亡レーダーがその存在を確認していたので粉を振りかけて動きを止める。

 殺気を消す、そんな技術もあるんだろう。
 しかし俺の死期そのものに変化はないし、空気の変化自体が俺の危険となる。
 すぐに存在を見つけられるって寸法だ。

「なあ、【暗殺王】」

『『なに、『生者』』』

「依頼主は誰か、なんて野暮な質問はしないさ。どうせ言われても困るし、いずれこの街に居れば分かるからどうでもいい」

『『じゃあ、何が訊きたいの』』

 どっちが本体か分からないが(どっちもだろうけど)、冷たい視線が向けられる。
 まあ、ここまでされて平気そうな態度を取られても傷つくけどさ。

「──お前を雇おう。金以外のモノでも、俺が用意できるモノであれば支払う」

『『…………』』

「別に、誰かを殺してほしいと言うわけでもない。自分の身の安全を確保したいし、俺の知人に暗殺者が送られても厄介だ。だからここで、それを防いでおきたい」

『『……高くつくよ』』

 スライムは全身が同一の細胞だ、なんてことを何かで見たことがある。
 そのため知性さえ持つことができれば、彼らはとても優秀足りえる存在だ。

 俺の目的をすぐに理解した【暗殺王】も、やはり高速的な思考の持ち主なんだろう。
 ボロが出る前に、この有利なように見える状況で契約を済ませなければ。


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