虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
暗躍街 その03
かつて映画で見たスパイのように、華麗なアクションで宙を舞う。
──のは難しいため、すべて結界による補助を受けて移動していく。
「なんか、違う」
適当にジャンプすれば、吸着性が発揮されて次の屋根に渡れる。
どれだけ適当な姿勢だろうと、最悪スキップ程度の移動でも渡れているのが現状だ。
「『SEABS』、ルートは?」
《この先を左に、そしてしばらく直進です》
「あいよっと!」
進路方向に見えた殺気を避け、真っ直ぐに移動していく。
殺気が濃いと俺は死ぬし、相手も俺の存在に気づいてしまう。
ある意味において、どちらにもWinを与えない悲しい取引だ。
突然探知範囲が拡大されることを避け、少し距離を多く取って移動する。
順調だった。
指示を受けて進んでいけば、楽々で目的地まで辿り着けると信じていたんだ。
……そう、結局忘れていた。
「──なあ、こんな所を歩いてどうしたんだよ? 同類さん」
それは一瞬のことだった。
脇腹に凄まじい衝撃が加わり、俺は地上の通りまで蹴り飛ばされ──そうになった。
「ん? やるじゃねぇか」
「……何か、しましたかね? 人の迷惑にならないよう、こうして静かに行動していたはずなんですが」
「んにゃ? たしかに縄張りは一つたりとも踏んでなかったぞ。だが、それはそれで怪しくもなるだろう。何もないのが一番の証拠。だから直接来てやったんだよ」
吸着性の結界が、その衝撃を殺していた。
もしそうでなかったら……まあ、それはそれで『生者』らしく蘇るのだが。
「貴方はいったい……」
「だから言っただろう、同類さん? 俺はお前の同類さ」
「……はて、なんのことで?」
「しらばっくれんなよ『生者』。『騎士王』の奴があんだけ宣伝してりゃあ、誰だって気づけるに決まってんだろう」
あ、あの野郎! ……野郎じゃないけど。
また何か余計なことでも言ったか?
身元もなんだかバレてる気がするし、俺の安住の地が本当に『アイプスル』しか存在していない説が、なんだか確証を得てきた気がする。
「俺は『拳王』。拳一つで闘い抜いた男だ。お前の知り合いなら、『闘仙』の奴が一番近いだろうな。アイツは仙術もいっしょに使ってるが、俺はそれよりも物理特化な男だ」
「これはご丁寧に、そこまでされればこちらも応えましょう。──『生者』、よく誤解される『超越者』が末端。最弱にして貧弱を極めた足掻きに特化した男です」
『拳王』と名乗った男は、初めフードを被っていた。
だが挨拶の最中に外套を脱ぎ去り、その姿が露わとなる。
まあ、当然のイケメンフェイス。
西洋系の顔立ちだろうか。
筋肉は所々締まっており、ただ膨れ上がった筋肉風船よりも厄介そうだ。
……たとえるなら、ボクサーだな。
「そんなんだったか? 『騎士王』が言ってた『生者』は、もっと摩訶不思議な存在みたいな扱いだったんだがな」
「彼の王も、人を見る目が無かったというだけですよ」
「ふーん、そうなのか」
はてさて、どうやってこの状況から逃れればいいのやら。
集まる死の予感に、そう思うのだった。
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