虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
対騎士王
さて、歓迎会も終わって再び活動を始めることにした。
アドベンチャーワールドの初期地点から降り立ち、ふらふらと移動する。
するとまあ、当然のように──
「奇遇だな、『生者』」
「俺に探知の魔術でも仕掛けているのか? 久しぶりだな、『騎士王』」
どこからともなく現れたのは、黄金の剣を携えた一人の女性だ。
彼女は親しい友人に会うように俺へ近づくと、歩く俺の隣にやってくる。
「今日はあの屋台に行ってから会うんじゃないんだな」
「私とて、店の迷惑になるようなことを故意にするわけじゃない。『生者』がいないと分かれば、大人しく引き下がっているさ」
「……そういうことじゃないんだがな」
前に店主が言っていたな。
俺たち……というよりも『騎士王』がいると、その日は売れると。
中身はともかく、見た目はとても麗しいからな。
そりゃあPR効果としちゃあ、かなりの効果が出そうである。
「まあいいや、今回は何をしに? 何も用が無いっていうなら、聞きたいことがあるんだが……」
「構わないぞ。なら、その対価として──」
「いや、やっぱりなんでもない。今日のところはこれまでにしておこうか」
お別れを告げるスイッチ──対『騎士王』強制排除ボタンを取りだそうとすると……俊敏な動きを見せた『騎士王』に、一瞬の内に取られてしまった。
「何すんだよ、『騎士王』。それを返せよ」
「そうはいかない。日々改良を重ねられている『生者』のことだ、すでに魔術の対策もしているのだろう?」
「……さぁな」
「ふむ……やはりそうか。食えない男だな、『生者』は」
対魔術にはかなりの時間を要した。
黒霧や仙丹などから、通常の魔力を用いた現象すべてを一時的に封じる。
体内で使用するものであれば無理だが、外部に魔力を放出して行うものならすべて無効化できる新技術だ。
……魔力を必要以上に使い込めば、理論上は俺の策を突破できるけどな。
「封印とは違うのか。吸収で放出されたエネルギーを奪い、それを永続して繰り返すものか。だが、私には通用しない!」
「チッ、なんだよ全能の権能って……ふざけるのも大概にしろ!」
「ふふふ……私を超えたければ、あらゆる可能性を根絶させるのだな。また、理から外れるのもまた良しだ。いかなる術も、この全能の権能からは逃れることはできない。ならばこそ、『生者』は──」
「はい、さようなら」
「んなっ!?」
残念でした、そんなこととっくに知ってるに決まってんだろう!
こちとら『SEBAS』にいついかなる時も、解析をさせているのは伊達じゃない。
今回は仮でしかないが、『騎士王』の生体波動にリンクした特定魔力波動に制限を設けた術式に改造した。
ある意味パスワードのようなもので、解除しなければ術式を無効化することはできないままだ。
「時間が経てば元に戻るさ……まっ、そのときにはもう俺はいないけどな」
「覚えてろよー、『生者』ぁぁぁぁっ!」
「はいはい、また今度な」
消えゆく『騎士王』に手を振りながら、俺はまた別の策を考えるのだった。
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