虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

巨大な社



 社の中を歩いている俺たち。
 悪鬼のような巨大な輩も移動することを前提に設計されているのか、社自体の大きさはかなりデカい物である。

 ……入口から急に広く感じたので、おそらく空間属性で広さを拡張したのだろう。

「大きいですねー」

「物ノ怪の大きさなど千差万別、あらゆる種族が通ることを見越しているとのことだ」

「へー、たくさんの方が出入りしていたのですか」

 地球では、山よりもデカい妖怪的な奴もいるからな。
 大きさで制限をかけるのは、酷だったのかもしれない。

 移動をしていると、死亡レーダーにいくつかの反応をキャッチする。
 そこに目をやれば、幼稚園児ほどの子供たちが掃除をする手を止めてこちらを見ているのが確認できた。

「あのー、彼らは……」

「ん? ああ、そうだな。私のようにあのお方に仕える者たちの子供だ。私も若い頃は、ああして社の中を駆け巡ったものだ」

 懐かしそうな目で彼らを見る悪鬼。

 すると仕事をサボっているのを見られたと思ったのか、慌てて持っていた掃除道具を動かし始める。
 ……うん、ゴメンな。

 しかし、物ノ怪の子供かー。
 原理はまだ分からないが、やっぱり居るには居るんだー。

 ──となると、人と物ノ怪のハーフなんて奴もどこかに居るかもしれないぞ。



 まあ、そうやって社の中を探索しながら移動していると、『陰陽師』の所で体験したはずの状態に陥ってしまう。

 ──要するに、再び襖の前でスタンバイの状態でございます。

「あの……どうして、このような状態に?」

「私だけが謁見、または貴様だけでの謁見も許されなかった。だからこうして、正式な場での邂逅を選んだわけだ」

 いや、いろいろとツッコみたい。
 たしかあの後通りかかった物ノ怪と幾度か会話をしていたが、そこでアポを取っていたのかよ。

 さすがに上司と直接繋がるホットラインが無くて、一度一度伺いを立てていたと。
 俺もまた汗をポタリと垂らしながら、悪鬼に尋ねておく。

「か、確認しておきますけど……中に居るのは会うべき方のみ──」

「な、はずが無かろう。貴様が本当にあのお方にお目通りさせるべき相手かを、私も含めた居るべき者全員で観察する。おそらく最初は、簾越しでの謁見となるだろう」

「デスヨネー」

 嗚呼、この胸を絞めつけられるような思いは何なのだろうか。
 全身を支配し、俺から体の所有権を奪う熱くも冷たい気持ち。

(当然、死による恐怖だよな)

 足はガタガタと震え、歯は噛み合わない。
 それほどまでの殺気が、襖の奥から漏れだしている。

「──では、開けるぞ」

「は、はい……」

 すぐに心を改めると、称号の効果もあって平静の状態で安定する。

 大きく深呼吸をしてから、開かれた襖の先へ進んでいった。


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