虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
陰陽師 その02
はるか昔、貴族や将軍などに謁見した者たちは皆、こんな気分を味わったのだろうか。
遠近法の問題か、『超越者』判別機はまだまだ遠くを指し示している。
(あ、圧倒的な圧迫感だな……)
視界に入る光景は三つに分けられる。
右に映る式神たち、左に映る式神たち
──真ん中に映る巫女っぽい少女。
高校生ぐらいだろうか。
純和風、黒髪ロングの少女がそこには鎮座している。
巫女っぽい、であるのは恰好が十二単を改造した動きやすい恰好だったからだ。
「あら、お越しやす『生者』はん。ささっ、どうぞこちらへ」
優しく告げられたその言葉、遠くにいるはずなのにはっきりと耳に入る。
周りの式神たちは俺の挙動を逐一確認し、何かを確かめていた。
ゆっくりと歩を進め、『陰陽師』と呼ばれる少女をじっくりと調べる……などといったことはしない。
女性が男性を観察するのはまだしも、その逆パターンはどうにも犯罪臭がするよな。
「初めまして、『陰陽師』さん。今回はお招きいただき、誠にありがとうございます」
「気にしておくんなさいな。ウチとて理由もなく、あんさんをお呼びしたわけじゃないんです」
「そう……ですか。こちらとしても、一度は会ってみたいと思っていましたので。お会いできて光栄ですよ」
無礼だとは分かっているが、俺はどっかりと胡坐を組んで座った。
その瞬間膨大な殺気があらゆる所から向けられてくる……が、それらはすべて俺の糧となる。
「──実に『陰陽師』さん想いの方々みたいですね。たしか……式神、でしたっけ?」
「誠心誠意向き合えば、みんなウチ以上に働いてくれる子ばかりや。ただ、少しうちのことに過剰に反応するんやけど」
「……それは、頼もしいですね」
式神の少女の一人に『陰陽師』が視線を配ると、すぐさま殺気は止む。
偽装の意味もないので演技はせず、そのまま平然とした状態で話を続ける。
「単刀直入に言いますが、私に【魔王】をどうこうすることはできませんし……貴女自体それが、ただの名目であることもなんとなく理解できました」
「へえ……。なら、うちがウチさんを呼んだのは何のためやと?」
「さあ、分かりかねますよ。分からないことが分かった。『超越者』の皆さんと言葉を交わしていると、これが分かるだけでもだいぶ思考の幅が広がることを学びました」
「新人さんは大変や。ウチらも元はただの人やのに、そこまで深読みしてはるなんて」
だが実際、凡人が喰らいつくためにはそれぐらいはやっておかないと足りない。
「私は『生者』の名を持つ者として、それなりにやっていきたいんですよ。もちろん、死ぬこともなく」
それは矛盾した言葉だろう。
だがそれでも、そう願いたかったんだ。
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