虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

VS炎鹿


「あれが……炎鹿」

「フレイムディア、だぞ」

 ツッコミを入れられながらも、少し離れた場所から様子を窺う。

 ──話に出た通り、炎鹿は体に炎を纏った赤色の鹿だった。

 メラメラバチバチと、遠くからでも聞こえてしまう火力の高さが怖い。

 炎の熱さは色で決まると言うが、人体を燃やすぐらいなら赤色で充分だ。

 それが激しい勢いで燃えている様子は、生物として火を怖がる本能を刺激してくる。

「ここから矢で射ることは?」

「無理だ。里長様を除いて、弓だけであれをどうこうするのは誰もできない」

「魔法込みなら、可能なんだよな?」

「ああ、それなら大人はほぼ確実に」

 子供にはまだ難しいか……あ、でも──

「今は違いますよね?」

「…………そう、だな。里に居ながら、安全に強くなる方法が見つかったからな。フレイムディアにダメージを与えられる程度には、子供たちも強くなった」

 はい、原因は俺です。
 虚弱な『超越者』を殺すだけで行える、簡単レベリング法は大人気だったんだ。

 正直一番の商売として、俺を殺してのレベリングがイケる気がするんだけどな。

「では、そちらの場合だと?」

「これがあるなら、エルフは最強だ。弓に足りない圧倒的な貫通力と攻撃力、それらをこれは兼ね揃えている」

「……いや、渡しませんからね」

 スリュで確実に判明したが、エルフと銃の相性はかなりいい。
 優れた視覚と聴覚を持ち、射撃に関する能力はピカイチ。

 もし、『仙郷』に攻めてきたのが銃を持ったエルフの軍勢だったら……うん、考えちゃいけないな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 戦いは、一頭の炎鹿が倒れたことで幕を開けた。
 火が弾ける音だけが鳴っていた、それ以外の音など何もなかったはず。

 なのに実際、仲間が一匹倒れた。

 即座に警戒を行うフレイムディアたち。
 全身の炎を激しく燃え盛らせ、いつ敵が攻撃を仕掛けようと対応できるように。

 しかしそれでも、それは止まらない。

 一匹、また一匹と仲間たちは減っていく。
 恐慌に陥った一匹が逃げ出す。
 しかしその個体も何かに狙われ、逃げようと向かった先で倒れ込む。

 どうしてこうなったのか、相手はいったい何者なのか。

 一番最後に残ったフレイムディアは、そう考えながら意識を暗転させる。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「お疲れ様でした。なかなか、扱いが上手くなってますね」

「回収されてからも、日々意識の中で修練を重ねていたからな」

「……諦めてくださいよ」

 それでもなお食い下がるスリュを笑いながら、俺たちは炎鹿の死体をフリュに積んでいくのだった。


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