虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
錬金王 その07
「まあ待て、『生者』。紙を渡しただけで終わらせるほど、私も自惚れてはいない。それに資料はエリクサーの対価。救ってくれた礼がまだだ」
そう言って、立ち上がろうとした俺を止めようとする『錬金王』。
そんな言い方をされて去るのも失礼っぽいので、大人しく席に戻る。
「正式には『錬金王』の名はユリルが継ぎ、今の私に残ったのはその経験だけ。しかし、ユリルは生みだした人造人間だが私の娘……『生者』に渡す気はない」
「当然です、私もそのようなことを言うならばすぐに去っていました」
こっちの世界で子供がどう扱われるものかは知らないが、少なくともお礼だからと相手へ子供を受け渡すのは貧しい農村か煌びやかな貴族たちだけだろう。
子供を渡されたとして、俺はどういった反応をすればいいんだろうか。
……うん、必要ないな。
「だから──私でどうだろうか?」
「…………は?」
思考が停止してしまったが、今回は仕方ないよな?
とりあえず事情を確認し、どうにか納得できる理由を聞き取れた。
「貴女の錬金に関するすべて、ですか」
「『生者』の指示ならば、作れる限りあらゆる物を錬成しよう。ポーションだろうとゴーレムだろうと、望まれれば望まれるがままに用意してみよう……どうだ?」
「……では、それでお願いしましょう」
要するに、頼まなければ特に何もしないということだろう。
俺が『錬金王』に訊きたかったことは訊き終えたし、資料を自由に読みに来る了承はすでに得ている。
本人が作ることを望むならともかく、人の嫌がることを無理矢理実行させるほど、俺はまだ腐っちゃいないさ。
「それでは今度こそ、お暇しましょうか。ユリルも貴女と話をしていたがってるでしょうし、私のことは気にせず、彼女の元へ行ってやってください」
「いやいや、それこそ娘に怒られてしまう。『恩人を見送りもしないで帰すなんて!』と叱られる姿が目に浮かぶ」
「あー、それでは仕方ありませんね。では、見送っていただいてから帰りましょう」
のだが、途中で俺たちを見つけたユリルも見送りにやってきた。
この屋敷はいくつか外に設置した転移術式の場所に繋げられる仕組み付きらしい。
目的の場所に対応した術式へ魔力を流すことで、扉がその場所へ繋がるらしい。
「『生者』さん、また来てくださいね!」
「用がなくても構わないぞ、私たちはいつでも『生者』を歓迎しよう」
「そう言ってもらえるとありがたいです。ではお二方、お邪魔しました」
俺でもMPが足りたので、術式は正しく作動して外の世界と繋がる。
俺はその扉に映る懐かしい景色へ向けて、足を動かして帰還した。
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