虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

オオサンショウウオ



「魚……じゃ、無かったみたいだな」

《オオサンショウウオ、でしょうか》

「ここは湖じゃないから、ウーパールーパーの可能性は低いしな。あれ? もしかして、湖の方にウーパールーパーが居たのかも」

 ヌラッと湿った体に、無数の黒い斑紋が浮かぶ。縦長いフォルムをしたその魔物は、恐らくオオサンショウウオなのだろう。

「なんか、凄いヌメヌメしてて“インベントリ"”仕舞い辛いんだけど」

《こればかりはどうしようも……旦那様、今度マジックハンドを作りましょうか》

 おっ、それ良いかもな。
 遠隔操作できるマジックハンドなんて物があれば、こうした汚れ仕事みたいなことも簡単にできる。

 まあ、今回はそれを用意することもなく、どうにか自力でオオサンショウウオを“インベントリ”の中に仕舞った。
 手がヌメヌメして気持ち悪かったので、滝の水を使ってしっかりと落とした……冷え冷えで手が凍えそうになったや。



 さて、今度こそ滝壺にレッツゴーだ。
 結界ごと水の中に入り、ゆっくりと水底に降りていく。
 どうして上に浮かないのか分からないが、そこら辺はファンタジー仕様なのだろう。

「穴は……ああ、あれか。オオサンショウウオがぴったり入るぐらいの大きさだな」

 暗視ゴーグルを着用して視ると、そんな穴が確認できる。
 大きさは直径1m程、人は屈んだり泳ぐ姿勢にならなければ通ることは難しい。
 結界を俺にフィットする形に変え、少しずつ屈んで移動を行う。

 穴の中はただ石に囲まれ、それ以外には何もない。暗い暗い穴の中を、延々と一人歩いていると……物凄く寂しくなりそうだ。

「『SEBAS』、マジックハンドの件なんだが……」

 だが、俺には『SEBAS』がいる!
 不安を振り払い、『SEBAS』へ連絡を取るのだが――

《旦那様、申し訳ありませんが『アイプスル』の方で問題が生じました。少しの間そちらに集中しますので、旦那様からの連絡には受け答えできません》

「そ、そうか……が、頑張ってくれ」

《承知しました》

「…………グスンッ」

 仕方ないよね、俺が『アイプスル』を任せたんだからさ。
 本当は管理人である俺の仕事なのに、色々とやりたいからって『SEBAS』に任せてさ……うん、仕方ないんだ。

「寂しいとなると、もう独り言をずっと呟いて気を紛らわすぐらいしか選択肢が無いのが俺の悲しいところだよな。暇潰しのアイテムも作ったには作ったけど、わざわざ水中でやるような物かって言われると、反論できない物ばっかりだしな……」

 結局、穴から出るまで俺の独り言が止むことはなかった。


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