虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

販売交渉 前篇



 そして一週間後、ついにそのときがやってきた。
 ギルドのとある部屋の前で、俺は棒立ちになって待機している。

「……もう、気配があれだからなー」

 その日街に訪れた時から、その気配は掴めていた。
 風兎や『超越者』、普通の魔物や人では放つことのできないナニカ――それを、この部屋の中から感じられる。

 しかし、そんな死地に飛び込まなければならないのだ。
 中に居るのは依頼主、俺に指定依頼を出したのならば、いきなり殺すなんて無粋なことはしないだろう……多分。

「スゥー、ハァー。…………よし」

 コンコン、と扉を叩く。
 すると、中から渋い声で入ってくるようにと言われる。

 もう、逃げられないのか。
 そう観念すると、俺は扉をゆっくりと開けていった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 部屋の中には、声と同様に渋い感じのする紳士が座っていた。
 スーツのような物を身に纏い、鋭い眼光で俺を観察している。

 そして、こう一言――

「座りたまえ」

「あ、はい。失礼します」

 指し示されたソファーに座り、紳士と相対する形になった。

「お前は……ツクルだったな、このギルドの長からある程度の話は聞いているよな?」

「…………いえ、全く」

「ハァ、アイツはいつもそうなんだ。肝心なことを特に忘れやすい」

「そ、そうなんですか」

「まあ、それでも構わん。今から直接説明すれば済む話だ」

 目を閉じてため息を吐く紳士であったが、目を開けると再び、俺の元に鋭い眼光が向けられる。

「ライフポーションの取引なんだが、お前のポーションは少し薄めているらしいな」

「……ええ、そうですね」

 やらないと、蘇生薬になるらしいので。

「正直で結構。ここの長との繋がりを提示しておいて正解だった。そこでだが、肉体損傷が癒える程度で構わない。その品質のライフポーションを一ダース頼みたいのだ」

「理由をお聞きしても?」

 肉体損傷なら、前に希釈度を弄った時に確認したからすぐに用意できる。
 が、何故それが必要なのだろうか。

 ――建前の話・・・・でも、しっかりと確認する必要があるだろう。

「……近頃、理性を持たない魔物の活性化が続いている。その影響で、負傷を負う者が多発してしまっていてな。魔法で癒せない傷もあり、このままではその傷が治癒されぬまま残ってしまうのだ。それをどうにかすべく、ここにポーションを求めたのだが……そのときにアイツにお前のことを訊いてな、今に至るというわけだ」

「…………そう、ですか」

 つまり、ギルド長が情報を漏らしたということか?
 いや、ギルド長の方が格下として扱われていて、屈したという考えもあるな。

 ヒントは足りないが、ここは無理を通してみようか。
 何か確信に迫れるかもな。


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