虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

失われた森林



 また日が過ぎて、俺は街の中をフラフラと移動していた。

 ポーションの納品も終わり、いつも通りクエストを出してくれる者を探しているのだけれど……全然見つからないな。

 そうしていると歩き疲れてしまい、とある店でまったりとしてたのだが……ある客たちが、こんな話をしているのを偶然耳にする。

「なあ、あの噂を知ってるか?」

「ああ、当然に決まってるだろう」

 ん? 噂だと? だいぶ気になるな。
 耳を澄ませて、盗聴を試みると――。

「「森が消滅したってヤツ」」

 ……ズズッ、コーヒーは美味いなー。
 いやー、あまりに美味しくて周りの声なんて、何も聞こえないよー。

「魔物たちが突然活発に動いて、一気に死に戻りさせられたんだっけ?」

「そうそう、プレイヤーが居なくなっている隙に、代わりに森が無くなるって全然面白くないジョークだよな」

「誰も森に居なかったから情報は何処からも掴めないしさ、掲示板でも荒れてるよな?」

「これもイベントの助長か? このゲームってそういうのゲリラでやることもあるらしいしさ」

 そう言えば……確か風兎が、転位前に魔物たちに指示をしていたな。
 何をしていたからは訊かなかったけど……もしかして、それなのか?

「――そういえば、見慣れない魔物がいたって情報もあったらしいな」

「あ、なんでも風を纏ったウサギらしいな。ウサギがボスってのもあれだが、鑑定を使ったら相当に強かったらしいから間違いない」

 風兎ー! やっぱりお前かー!!
 道理で転位した時に、プレイヤーが誰一人として存在しなかったわけだよ。
 ちゃんと周りの様子も窺っておけば、こうならなかったのしれないな。
 作業に集中したかったから、そういうのを全部OFFにしていたんだよ。

「しかし、あれから全く森が再生してこないよな。あそこでしか伐採できなかった素材もあったのに、お蔭で生活が苦しくなったよ」

「これがプレイヤーのせいだったら、絶対赤の奴だよな。実際NPCもこのことを、事件として調査してるらしいし……」

「森が無くなったから先の場所から魔物が来るようになったし、確信犯なら何をしたかったのか問い詰めたいよ」

「…………」

 こ、こここ、コーヒーはははは、う、ううう美味いなななな……。
 は、犯罪者……た、確かに勝手にやればそうなるのか。

 ステータスには何も書かれてないし、称号にも犯罪系の物は無い。
 森を持っていくということが、犯罪として認識されていなかったんだろう。
 木を勝手に取るならともかく、俺が取ったのは地面そのものだ。
 それなら俺が今も犯罪者として認識されていないのが、少しだけ理解できる。

(ま、不味いな。『SEBAS』とかギルド長に一度相談した方が良いかも)

 今日やること、それは無罪かどうかを調べることに決定だ。


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