虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

提案



「お二方、ご提案があるのですが……」

 いつまでも続く長い闘い(?)に疲れ、俺はローブの男たちへ対話を試みる。
 あれから更に時間が過ぎたのだが、俺は一度も老人の魔法によって転送させられてはいない……毎回毎回、移動先は結晶の所さ。
 だが、いつまでもこうしていればいつかは気付かれるだろう。
 プレイヤーも日々生長するし、俺以外にも『超越者』が出現するだろう。
 ……俺がなれるんだから、誰でもその気になれば、なれるんだろうからな。
 なので、こうした無為な争いを止めるためにも、こちら側から対話を試みなければいけないのだ。

「なんじゃ、言ってみよ」

「私を貴方がたの連れていきたい場所に運ぶことは不可能……そう、既に理解していますよね?」

「うぐっ。ま、まだやれるわい!」

「爺、もう諦めろ。……そうだ、お前がどうして拒み続けるかは分からないが、俺たちにお前をどうこうすることはできない」

 ……ま、拒んでるわけじゃないんだが。勝手に死ぬんだよ、この虚弱体質はさ。
 おっと、意見を言わなければ。

「ですから、発想を変えてほしいのです。私がそちらに行くのではなく、そちらがこちらに来る……不可能ですか?」

「な、ならん! それだけはならんぞ!」

「それは……確かに危ないな」

 え゛!? 俺はそんな危険な場所に連れてかれようとしていたのか?
『超越者』=強いという方式を、どうにか止めてほしいな。

「……あの、それはどうしてですか?」

「「この街が滅ぶ(のじゃ)(ぞ)」」

「そ、それは……御免被りたいですね」

 街が崩壊して、その責任が俺に行くのは非常に困る。
 建物は再建できるが、生き物を再生することはできな……でき……できるんだっけ。
 あ、でも犯罪になるからやっぱ駄目だな。

「お主を向かわせようとした先には、そうした危険な力を抑制する効果があったのじゃ。だからこそ、儂ら『超越者』が挙って集まれる場所なのだ」

「新たに生まれた『超越者』には、一度そこに挨拶に来てもらうのが決まりなんだ。もし来ないなら……」

「こ、来ないなら」

 ゴクリと唾を呑み込み、男が言葉の先を放つのを待つ。

「――――頻繁に『超越者』が別々にお前を訪ねてくることになる」

「あ、それなら大丈夫ですよ。もう慣れてますしね」

「……まあ、既に今のお主はそんな状況じゃからのう」

 今までのネトゲでも、そんな経験があるからな。
 過度の期待をするだけして、最後には失望したとかなんとか言って立ち去っていく奴らは結構いたよ。

「やはり、貴方がたは『超越者』の方々なのですね。私がそちらに向かうことを拒んだということで、これからはあまりこちらに干渉してこないでもらいたいです」

「お主、死ぬぞ?」

「そう、かも知れませんが……私にも目的があるのです。申し訳ありませんが、それに貴方がたとの接触は含まれていません」

「そう、か。一応ではあるが、お前の意思は他の『超越者』にも伝えておく。だが、絶対に一度はお前のことを見に来るであろう」

「分かりました。心に留めておきます」

 俺は別に、バトル物のような超展開を求めているんじゃないんだ。
 普通の冒険で充分だよ。
 ……ん? 普通の冒険って、一体何なんだろうな。

「難儀な奴じゃな、お主は。儂は『龍王』とでも呼んでくれ。困ったことがあれば、いつでも力になってやろう。……今までに迷惑をかけた分じゃ」

「俺は『闘仙』、爺の結界を超えるその力はいつかやり合ってみたいものだな。ああ、やりたければいつでも連絡してくれ」

「え、えっと確か……そうだ『生者』です。よろしくお願いします」

 そうして、彼らとの邂逅は終わった。
 だが、これから俺の日々は更にキツイものへと変わっていくだろう。
 ……何回死ねば、自由になるんだろうな。


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