虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武



 クエストをクリアした俺だが、内容が内容であったため、特に日々に変化は無い。
 今まで提出していなかったポーションを一気に放出してギルド長に奇怪な目で見られたり、E1にいる魔物と壮絶な死闘を繰り広げたり……まあ、殆ど変わっていない。

 家族の活躍はいつも家で聞いているので、外聞はあまり気にしないのだが……どうにもプレイヤーの中で広まっている噂が気になっている。

 曰く、上位ランカーがご愛用のアイテムを作成する者がいるらしい。
 曰く、その者が作るアイテムは文字通り軌跡を起こすらしい。
 曰く、『龍殺し』の剣はその者によって打たれた物らしい。
 曰く、『聖獣使い』の鞭はその者によって作られたらしい。
 曰く、『最運教祖』の杖はその者によって削られたらしい。
 曰く、死者をも蘇生できるポーションをその者は作れるらしい。
 曰く、現最強のプレイヤーらしい。

 ……最後のは絶対に違うだろうが、殆ど俺のことだよな。
 ランカー制度がいつの間にかできていたことにもビックリだが、それより家族に二つ名が付いていることにもだいぶ驚いたものだ。
 ――家で言っていたのと、違っていたんだから。

 まあ、隠したかったんだろうな。
 ルリなんて全力で否定してきたし……。
 いつの間にか宗教のトップに君臨しているのは、ルリを崇めれば運が上がると言う噂があるかららしい。
 ……俺も祈っといた方が良いのかな?

 そもそも、この噂はどこから広まったのかと思う。
 ポーションなんて、バレたくないからギルド長が必死に根回しをしていたはずなんだけどな。
 それでも人の口に戸は立てられぬ、結局この噂は生産世界にまで響いたらしく、俺……というよりこのポーションの製作者を探しているそうだ。

 ――あ! ショウたちのパーティーの誰かが情報を流したのか?
 ギルド長や家族に渡した物を除けば、希釈していないポーションがある場所はアイプスルかそこしかない。
 家族が俺の情報を広めることは無いし、アイプスルの情報は神様にしか知られていないのだから……残る情報源は一つだけだ。

「ま、最後の噂が俺のことを隠してくれているだろうし、一応の忠告として伝えてくれればそれでいいか」

 レアなアイテムを作るためには、それ相応の難易度の高い所に行かなければならない、と思うのがゲーマーという生き者だ。
 :DIY:という裏技を知らない者からすれば、俺が使う素材の数々はきっと、相当レア度の高い物として見られるのだろう。
 だからこそ、最後の噂もより確証性の高い物として見られている。

「実際、俺はそれとは真逆の最弱プレイヤーなんだけどな。……ハハッ、おかしいや。目から汗が溢れてくるな」


 そんなひ弱な俺の日々は、のんびりと過ぎていくのであった。


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