虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

神様談



 ツクルのいなくなったその空間に、靄のような物が出現し――ある存在が出現する。
 昏い闇を束ねて編んだようなローブを身に纏い、同じ色で冷たく輝く鎌を握り締めた、優し気な顔をした老人。
 骸骨の意匠が施された仮面を軽く撫でながら、誰もいなくなった空間を見渡して――ため息を吐く。

「これがツクルの死神に対するイメージなのか。てっきり幼気いたいけな少女でも妄想されているのかと思っていたのだがな――そう思わないか、■■■よ」

『あ、あれ? やっぱりバレてた? あと、君の声で幼女じゃ無いことぐらい想像が付いちゃうんだよ』

「お前の祝福……いや、呪縛だな。アレが付いているのだからお前が観ているのも当然であろう。全く、不憫な奴だ」

 ツクルに与えられた祝福の内、(■■■の注目)には■■■がツクルの位置を特定できる効果が含まれていた。
 ■■■はその座標を見ようとするだけで、いつでもツクルの活動を目撃することが可能なのだ。
 ■■■がツクルを観ていることは、老人にもすぐに分かった。
 だが、それをツクルに告げる必要は無かったので黙っていたのだ(ちなみに、老人の声はハードボイルドな感じである)。

『酷いな~。僕はただ、彼に魅せられただけよ。君だって、彼のことを面白い子だって思うんでしょ?』

「……私は全ての者に平等な判断を下す。一個人へと固執することは無い」

『またまたー、そんなこと言っちゃって~。君が僕みたいに祝福を渡しているのはしっかりと目撃したよ……お蔭で座標が分からなくなったじゃないか』

「ふんっ。あの■■■ともあろう者が、ここまで執着するとはな」

 元々■■■は冷徹なことで有名であった。
 その軽薄な口調とは裏腹に、全ての事象へと効率を求めた行動のみを行い続けた。
 ――今のような姿に至るまでには、様々な経験を積み重ねたのだ。

『……僕もね、最初はただあっちの世界の者がどこまでできるかを観ていただけだったんだよ。すぐにクソゲーだと逃げ出して新しくゲームを始めるか、それとも何もできないままただ星の中で引き籠るだけか……。彼は僕の予想を遥かに超えて、僕の力なんてほとんど使わずに、僕の星を再星してくれたんだ。
 見せられたよ、魅せられたよ――彼に!』

「……あの星に関してはもう何も言うまい。お前が彼の地に人を送ったと聞いて、私以外の者も気にしてはいたのだが……まあ、それもよかろう」

 老人はもう一度ため息を吐き、真っ黒な空間を薙ぐように手を払う。
 すると、空間に黒色以外の色が出現し、この空間の本来の姿が広がっていく。
 自身の後ろにある椅子に腰かけ、■■■との会話を続ける。

『それにしても、君は彼を『超越者』として選んだんだい? 確かに彼は死に戻りを反則的な方法で行っていたけど、アレは仕方が無いことだって周りに伝えてあったよね?』

「仕方なかろう。ツクルはお前のせいでかなり目立っていた。死に戻りは私たちが下界の者の召喚に使う最も有効な時だ。私が動かなければその異常さを知り、お前以上に厄介な奴が動いていたかもしれない。それならば、先に確保しておいた方が良い……そう思わないか」

『君の『超越者』になれば、確かにそれだけは防げるからね。でも……方法は一つじゃないし、世界は外界からの干渉で刻一刻と変動しているんだよ。例えば――ほらね?』

 ■■■がそう言った途端、何かが軋むような音が空間に響いていく。
 それは、世界の理が作り変えられた際に鳴る――悲鳴とも言えるような音であった。

「……また厄介なことをする」

『上はどうやら、死の法則すら捻じ曲げるつもりだね。どうする、手伝おうか?』

「余計なお世話だ……と言いたいのだが、ツクルにリソースを使い過ぎたな。少し手を貸してもらうぞ」

『一つ、貸しだからね』

「ふん、分かっているわ」


 ツクルの知らない場所では、こうした会話が繰り広げられていた。


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