虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

有給届



 ログアウトをして隣を見ると、まだ瑠璃はアーションを付けていた。
 ……今はもう23時なんだけどな。
 冷蔵庫に向かい水分を補給してから、翔や舞の部屋をノックしてみた……反応が無かったので、子供達もまだEHOの中なのか。

「初日とはいえ、やり過ぎは駄目だな」

 部屋に戻った俺は一度アーションを被り、家族全員へとメールを送信した。
 この機能は、一々EHOにログインせずにできるものだ。
 ゲームから戻って来ない子供たちのための機能なのだが……まさか、大人にも使うことになるとは。

「ふわぁぁぁ。……今日はもう寝るか」

 ゲームの中とはいえ、慣れない環境での椅子作りは精神的にクるものがあってようだ。
 デカい欠伸を一つしてから、今日という日は終了した。



「ほぉ、君も有休を取りたいと。確かに君はこちらから言っても有休を取ってくれない人だったからね。むしろそれは大歓迎だよ……平時だったら」

「……やっぱり、同じ理由ですか?」

「私も娘に頼まれてね。本当だったらこんな仕事すぐにでも終わらせて、EHOをやりたいところだよ」

「は、はぁ」

 翌日。
 会社に出勤して有休届を出した俺に待っていたのは、上司からの愚痴であった。
 そう、一気に社員が有休届を提出してくるのだ。
 それを受け取らなければならない側の身にもなってあげてほしい(俺はむしろ、いつでも有休を取ってくれとお願いされていた側だからな。問題ないだろう)。



「それで、結局どうなったんだ?」

「もちろん通ったぞ。全く、どうせお前も有休を取ったんだ。一緒に聞いてくれよ」

「だから今日は早朝出勤にしようと(心の中で)言ったんだぜ?」

「おい、今絶対どうでも良い捕捉を入れただろお前」

 現在は、帰宅中に拓真に愚痴を俺が零している。
 ……コイツ、自分だけ先に出勤して出してやがった。
 そんな考えの奴ばっかりだったのか、今日は朝早くから仕事が始まり、終わるのもかなり早かった。
 本当、俺はブラック勤めじゃなくて良かったよ。

 あ、こいつには既にEHOを買ったことは伝えてある。
 やっぱりかよ、みたいなドヤ顔がとてもウザかった。

「そういえばツクル。お前はどの世界でログインしたんだ? 俺は当然、アドベンチャーワールドにしたが……」

「俺、俺は……良く分からないな」

「ハァ、良く分からない? ランダムの無い選択式だったんだから、お前の好きなお任せは無いだろ?」

 隠す必要も無かったので正直にそう答えると、拓真は不躾にそう言う。
 失礼な、俺はただ自分の妻を信じているだけじゃないか。
 ……俺に直接、ラッキーだと思えることが起きたことなんてほぼ無いがな。

「表示が『???』だったんだよ。だから俺にはそこがどこなのか、全く分からないの」

「……お前、また巻き込まれたのか?」

「ん? 誰も関わってないだろ」

 変な拓真だな。
 そもそも俺がトラブルメイカーみたいな言い方は止めてくれよ。

「……コイツ、一番厄介なんだよなー。全然気付いてないから(ボソッ)」

「あ? 今何か言ったか?」

「い~や、な~んにも言ってね~よ」

 この後、拓真と情報を交換してから帰宅の途に着いた。


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