高一の俺に同い年の娘ができました。
二話 娘ができました。
そもそも、この子と俺の初対面は遡ってはほんの数時間前だ。
春休み、誰もが今日くらいはのんびり、だらだら過ごそうと朝一で決心するような暖かくのどかな日。
きっとのどかな生活と言われたら今日みたいな日と想像するように絵にかいたような日曜日。
過ごしやすい気温と暖かな日差し、空気も澄んでいて穏やかに吹く風と時折それに乗って飛んでくる桜の花びらがこの上なく春感を醸し出す。
世間は日曜日、さらには学生たちは今日が春休み最終日、明日から新しい日常が始まるとあってほとんどの人が最後の休日を堪能しているか、新しい生活の期待を胸に寄せているだろう。
そんな中俺、神山 優は一人せわしなく段ボールに詰められた荷物と格闘していた。
なぜ俺だけがそんなことをやっているのかというと、両親のせいである。
つい一か月ほど前、中学校を卒業し、志望していた公立高校に合格した俺は新しく始まる生活を夢見て少しワクワクしていた。そんな折、外交官をしている俺の父が急に海外に転勤と言われた。うちの家ではそんなに珍しいことでもなかったので俺はあっそうと流して聞いていたのだが母が、
「私もついていく!」
と急に言い出したのだ。今までそんなことは無かったので少しびっくりした。なんでも今度行く国は、昔父が一度だけ浮気をしてしまったことのある国らしい。そんな父の心配をした母が今度は一緒に行って阻止しようとしているらしい。
そんなこんなで、家族は俺以外は海外の親父の所にいき、俺は春から一人暮らしをすることになった。もともと住んでいた家は一人で住むには広すぎて手入れも面倒というわけで、近くのマンションを借り、そこで暮らすことになった。今日はその引っ越しの片づけをしていたというところだ。
リビングの片づけがひと段落し、少し休憩して自分の部屋をやろうとまだ慣れない扉に手をかけ開くと、そこに彼女がいたのだ。
まるで絵画のよう、そんなありふれた、チープな表現になってしまうが、俺のボキャブラリー、いやおそらく誰もがそんな言葉しか出てこないだろう。そのくらい幻想的な雰囲気をまとう少女。
少女は窓の外の景色を見ていたが、俺に気づくとくるっと振り向き微笑みかけてきた。
艶やかできれいな黒髪、少し長めのポニーテールは彼女が回るのに合わせてふわっと軽やかに舞うと俺の鼻に春のにおいではない甘い、素敵なにおいをとどかせてきた。
一瞬見ただけでもはっきりとわかるほどの美少女。
肌は雪のように、とまではいかないが健康的に白く、遠目から見てもきめ細やかそうなのがわかる。大和撫子らしい、つやのある黒髪を肩甲骨ほどまで差し掛かるポニーテールで肌とのコントラストで一層引き立つ。目は大きく、全体的にとても整っており可憐の一言だが、それだけでなく、少し幼さを残した笑みを浮かべる表情からは何か人を引き付ける魅力を感じる。
引っ込むところは引っ込み、出るところは出るというプロポーションをもち、女優も裸足で逃げ出す体型だ。
年は同じくらいだろうか、どうしてこんなところにいるのだろうか?さっきから心臓がドキドキ鳴りっぱなしなんだが、
「あ、あのーどちら様でしょうか」
もしかしたら隣に住んでいる人とかかもしれない引っ越し早々こんな美少女に出会えるなんてラッキー。できればぜひお近づきになりたいものである。
それが俺と彼女の初めての会話だった。俺はこの言葉をおそらく、いや、絶対に忘れないだろう。
「やっと会えたね、パパ!」
彼女は俺に向かって満面の笑みを浮かべて言うのだった。
「タイムスリップでやってきました、私はあなたの娘の神山 奏です。年はお父さんと同じ15才だね!これからよろしくね、おとーさん♪」
「はぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!????」
この子は一体何を言っているんだろう、大丈夫だろうか。初対面の俺にいきなりあなたの娘です宣言してきた。それだけでなく、未来からやってきたとか、本当に大丈夫だろうか。
自分で同い年だと言っておいてどうして娘になるのだろうか。
花粉に頭をやられでもしたんだろうか?なるほど、最近の花粉症は恐ろしいな。
俺は違うから知らなかった。
俺はどう反応すべきだろうか?とりあえず病院に連れていあったほうがいいのだろうか?
もしかしたら記憶喪失とかそういう結構あれな病気みたいなのがあって、俺を親だと勘違いしているのかもしれない。
もしそうだったら、この状況なかなかきついな。記憶喪失の上にタイムスリップしてきたといった。言っている感じ、まじめに言っているのだろう、少なくとも嘘を言っている感じではない、そんな様子だ。おそらく現実と物語の状況がごちゃごちゃになっているようだし、勝手に人の部屋に入ってくるあたり、判断能力も正常ではないようだ。この様子だと警察には言わないほうがいいな。
しっかりと会話はできるようだがおそらく一人ではきついだろう。
とりあえず早く病院に連絡して連れてってもらおう。親御さんも心配していることだろう。早急に連れて行ってもらおう!
そう思い、まず病院に連絡しようとスマホをポケットから取り出そうとするが、
「あれっ、ない?」
いつも左の尻ポケットに入れているのにこんな時に限ってない。ほかのポケットも叩いてみるがない。
どこかに落としたかと部屋のあたりを見渡すがそれらしきものはない。
そう思ってスマホを探していると、
「あっ開いた」
な!!??
そう言って彼女がいじっているスマホは使い慣れた俺のものだった。
「お父さん、いくら見る人がいないからって言ってパスワードに誕生日はさすがにだめだよー」
「おいっ、それ俺の携帯だろ!!」
そう言って彼女からばっとひったくるようにスマホを奪い、画面を見てみるが何もいじられてはなかったようだ。とりあえずよかった。
「おい、今まで何をやらなかったが、もう限界だ。とりあえず本当のことを言え。さもないと警察に通報することになる」
「もー、だからさっきから言ってるじゃん。私、未来からやってきたあなたの娘。ユーノー?」
スっ
俺は何も言わずスマホの画面を開き、ぴっぴっぴと素早く三桁の数字を入力し、電話に耳を当てると数コールの後に電話の向こうから声が聞こえてきた。
「あっもしもしすみません。なんか・・・・・・」
「わーストップ、ストップ!!わかりました、すみません!ちゃんと説明するから警察は待って!お願いします!」
彼女は俺の手からスマホをとって通話を切ると、本気の涙目で俺に訴えかけてきた。
この子は本気で悪いことをする子には見えなかったので、もともと本気で通報する気はなかったのだが、どうやら効いたようだ。なぜかポニーテールがシュンとなってる。
さっきから思ってたけどあれしっぽじゃないよな?
なんかこの子相手だと少し甘くなってしまう気がする。気のせいだろうか。
「わかったから。とりあえず説明して。あなたは誰?どこから来たの?」
「私は神山 奏。今から25年ほど未来からやってきた。あなた、神山 優の実の娘です」
「またそんなこと言って」
さっきから言っていることが変わらない、俺はため息をつくと彼女はだんだんと涙目になってきた。
「だって本当なんだもん」
うっ、涙目でそんなこと言われると弱い。
「そんなこと言ったてな、未来から来た?そんな話そんな簡単に信じられるかよ・・・・・・」
「じゃあこれならどう?」
すると彼女は懐からぼろぼろのノートを取り出し俺に見せつけてこう言った。
「証拠にこのノート読んであげるよ」
黒いなにやら魔法陣のような模様の書いてあるノートだ。俺はそれを見た瞬間全身からすごい量の冷や汗が噴き出てくるのを感じた。
「ちょっと待とうか、ウン分かったから・・・・・・」
「え~っと何々、『我が左腕にやどりし漆黒の魔力よ、我、神山 優の名にて世界を蹂躙せよ。』だって!」
「うわ~~~!!」
余りの衝撃に膝をついて丸まってしまった。
「教科書に載るレベルの典型的な中二病だね~」
「やめろ、やめてくれ!それ以上俺の黒歴史を思い出させないでくれ!」
「じゃあこれで信じてくれる?」
「いやそれだけじゃあ・・・・・・」
「なら自分の目で見てみる?自分の字ならわかるでしょ?」
「うっ」
そう言ってノートを投げられたので、中身を見てみると、確かに俺の字だった。
今でも思い出せてしまう、これを書いたとき俺がいかに痛々しく、頭がおかしかったかということを。
羞恥心に悶えるのを抑え後ろのほうまで見てみるが内容も俺が書いたもので間違いなかった。
もう二度と見ると思らなかったのに・・・・・・見たくなかった。
「何なら、部屋の残りの段ボール調べてみなよ。もう一冊出てくるはずだから」
なんだと!こんな凶悪な兵器がもう一冊出てくるだと!
こんなもん一冊で十分だ。だが、この子が言っていることを確認しなければならないし...
そう言って段ボールを数箱開けると、確かに同じノートがあった。こっちのほうが新しいものだ。
一日に二回もこんなもの見る羽目になるとは。
「マジかよ」
「マジマジ、大マジです」
「それでも信じられないならお父さんの個人情報でも言ってみる?あっ、なんだったらDNA調べてみてもらう?親子だから半分同じって出てくると思うよ」
「いや、いい・・・・・・」
力なくうなだれながら言う。
「おっ、理解してくれたようだね」
よろしいといって張った胸がぽよんと揺れる。普通だったら目を奪われてしまうが今の俺にそんな余裕はない。
「わかりたくないんだけど、まぁ一応納得はしたよ」
「てことはじゃあ、あんたは・・・・・・」
「はい。さっきから言っているようにあなたの娘です」
これは夢なのだろうか、夢ならいろいろ言いたいことがあるが、まぁ幸せな夢と言えるだろう。
そう思い頬をつねるが、痛い。そして一向に覚める気配がない。
少し現実逃避をしたいが、言い逃れできないようだ。
高一の俺に同い年の娘ができました。
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