ムービーイン

水島コウヤ

ようこそ、映画の中へ。

俺の名は岳、映画鑑賞が趣味というどこにでもいる男だ。
その中でも最近は待っているジャンルはホラー系統のもので今も昔好きだったホラー映画を一人暮らししている部屋の中で見ている。
俺はこのように映画を見ていると常々思うことがある。
本当にこんなことが起こったら、もし自分がその場にいたらどんな気持ちになるだろう?と。

「あー、一度でもいいからこんなことが起こったらな〜」

今日は友人と飲みに行ったあとに見ているのでついいつもは怖いから言わないようにしていることを言ってしまった。
するとその直後、耳元に微かな声が囁かれた。

「……ら…なぃ?」

思わず立ち上がり周りを見るがもちろん誰もいるはずがない。
取り敢えず落ち着く。

「今日は飲みすぎたんだ、きっと空耳だろ」

怖さのあまり自分に言い聞かせる。
続けて映画を見る、仕方なく。
でも気持ちはおどおどとしている、いつも聞こえてくる隣の部屋の足音にさえ、時折聞こえる風の音にさえその都度体をビクつかせた。
それでも映画を見続けた。
今見ているのはホラーだがただでさえ静かな部屋、テレビの音が消えてしまったらそれこそ怖かった。
あれから30分すっかり酔いが覚め、いつの間にか恐怖も消え映画が終盤に移ったその時だった。

「……こっちに…こな…ぃ?」

はっきりとは聞こえた、先程とは違って女性の声が耳元で…
すっかり余裕を持っていた岳は恐怖のあまり身動きひとつとることが出来ない。
それは岳がやっていることではない、逃げようと体を震わせている。
でも動かない、いや動かせなかった。

「金縛り………」

やっと開いた口からはそんな言葉だけが出てきた。
すると女性の声はだんだんと声量を増してゆき…同じ言葉を繰り返している。

「……こっちに…こない?」
「こない?」
「こっちに…」
「こない?」
「こっちに………」

その度に岳は心の底から恐怖を思い知る。
さっきなぜあんなことを言ってしまったのだろうとか、今まで見たきた映画や今見ている映画の事を恨むとかそんなことを考えることも出来ない、ただ頭に浮かぶ言葉は『助けて…』それだけ、でも口には出来ない。
こうしているうちにも映画は進んでいき、クライマックスの幽霊が現れるシーンに差し掛かった瞬間…
テレビに写った白顔の長髪の女性がこちらを恐ろしい目で見て目が合ったような気がした。

「こっちにこない?」

その明らかにこちらを見つめて言っている女性を見て恐ろしさのあまり口を開いた。

「うわぁぁぁぁぁぁ」



次の日全国のテレビニュースにこのような記事がでてきた。
『昨夜未明、東京のアパートに一人暮らしをしていた20代の男性1名が意識がない状態で発見されました、原因は未だわかっていない模様です。
意識不明になった男性は映画鑑賞をしていたと思われテレビの画面にはその映画と思われる映像が流れており、警察が発見した当時画面には若い男性が逃げ回っている映像だったそうです。
では次のニュースです……』




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