邪神と一緒にVRMMO 〜邪神と自由に生きていく〜

クロシヲ

第三百十八話 全ての母にして父

8章 復活儀式


「な……体が……動かない……!?」

ウボ=サスラを視認したシグレは、一瞬にして自分の四肢が動かなくったことを悟った。
見えない何かに固定されているかのように、自らの四肢が一ミリたりとも動かない。
魔法やスキルも使うことは出来ず、シグレは未知の相手に完璧に拘束されてしまった。

そして、当然のように周囲の怪物達がシグレに群がり、その柔らかな肉や鮮血を貪り尽くさんと突進する。

飛行するポリプの血を吸って姿を現し、牙の生えた触手を振り回す星の精が、樽型の体を揺らし、五芒星の形の頭部を振り上げて移動する古のものが、不気味に光を反射し、奇怪な鳴き声をあげながら空を飛ぶシャンタク鳥が、コウモリとイモムシが混ざりあったような、あるいはクサリヘビのような体を羽ばたかせた醜悪なる忌まわしき狩人が、シグレに飛びかかり、その柔肌を蹂躙しようとした時、その全てが弾け飛んだ。

鉤爪を持った砂に潜むものが、コールタールの匂いと共に玉虫色の粘液を滴らせるショゴスが、常に変形し続けるウボ=サスラの落とし子が肉塊となって弾け飛び、そしてその肉塊や血液はシグレに降りかかることなく空中で微粒子レベルにまで分解されることで霧散した。

未だ身体の自由が効かないシグレは、どうにかして動き、ここから脱出しようともがくが、シグレの体が動くことは無かった。

『よく来たな。器のものよ』
「ウボ……サスラ……」
『そう畏まるでない。時間がない故、簡潔に話す』

そう理知的な声で話すウボ=サスラはやはり不定形の粘体のような姿をしており、生み出した落とし子を取り込んでは生産している。
その近くには魔術師たちの秘宝たる世界の真理が刻まれた石版が無造作に所狭しと転がっており、ここに魔術師がいたのならば狂乱して憤慨するであろうことは間違いなしであった。

『ニャルラトホテプを殺せ。さも無くば、アザトースの支配は幽玄のようにこの世から消え去り、混沌と戦乱、狂乱と愉悦の世の中が世界にもたらされるであろう』

「え?」

『前にも言ったが、時間がない故、説明する余裕はない。だが、そのための力を与えることは出来る』

ウボ=サスラがそう言うと、動けぬシグレの心臓をウボ=サスラから伸びた漆黒の針が貫いた。

『さらばだ、器のものよ』

そう言うとシグレの意識は闇へと沈み始める。

「待ってください!ニャルラトホテプを殺せとは、器とはなんなのです!」

その問いへの答えは、ついぞ返されることは無かった。


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