邪神と一緒にVRMMO 〜邪神と自由に生きていく〜

クロシヲ

閑話 灰水晶の姫

閑章 遥か遠く、あの宙の下で。


継母は父も姉たちも連れて行ってしまったので、少女は家に誰もいなくなりました、少女はガマズミの木の下にあるお母さんのお墓に行き、両手を合わせて静かに祈り始めます。

“ガマズミゆらゆら、ゆさゆさ、体を揺すって美しきドレスと靴を落としてください”

すると鳥はなにやら拒絶するような動きを見せたのですが、最後には煌びやかな金と銀、そして紫水晶アメジスト紅水晶ローズクォーツで彩られたドレスと、一点の曇りもなく透明で美しい水晶クリスタルの靴を持ってきてくれたのです。

少女は急いでそのドレスに着替えて、これまた鳥達から貰った美しき水晶の馬車で舞踏会へ向かいました。
継母と二人の姉はそんなことは知らず、綺麗な水晶に彩られたドレスに身を包んだ少女はとても美しかったので、外国の王女に違いないと思い込んでいました。

彼女らは一度も少女だと思わなかったですし、少女は家で汚く灰の中から豆を拾っていると信じていました。
舞踏会が始まって少し経った頃、王子は少女の元へ向かい、その手をとり、少女と一緒に踊りました。
王子は他のだれとも踊りませんでしたし、誰かが少女をダンスに誘いに来ても王子は「私のパートナーだ」といってそのお誘いを拒絶したのでした。

少女は王子と最後まで踊りましたが、次第に家に帰りたがりました。
しかし王子は「一緒に行って、家族に挨拶したい」と少女に言いましたが、少女は王子から逃げ、王城近くにある鳥小屋に逃げ込みました。
王子は舞踏会に出席しているであろう少女の父親が来るまで待とうと思い、会場へと戻りました。
やがて王子は少女の父親を見つけ、事情を話して少女を説得してくれるように頼みました。
すっかり老人となった父親は少女かと思い、斧を持ってきて鳥小屋をばらばらにしました。しかし、中には誰もいませんでした。
少女は鳥小屋の裏からガマズミの木まで走り、綺麗なドレスを脱ぎ、お母さんのお墓に置きました。すると鳥がどこからともなくいっぱい現れ、それを剥ぎ取るように持って行きました。
そして少女はいつもどおり灰に汚れてすっかり黒灰色になったぼろぼろのガウンを着て台所にいました。

次の日、舞踏会が始まり、両親と姉さんたちが出かけると、少女はガマズミの木に向かい、こう言いました。

“ガマズミさんゆらゆら、ゆさゆさ、体を揺すって金銀を落として”

するとまた拒絶するような行動をとったあとに鳥がより綺麗なドレスを持って来てくれました。
そしてそれを着た少女が舞踏会に現れると誰もが少女の美しさにうっとりしました。王子は入口でルビーのように赤いワインを片手に少女を待っていて、すぐさま少女の手を取り、他の少女には目もくれずに歓談し、そして踊りました。
誰かが少女をダンスに誘いに来ても王子は「私のパートナーだ」と少女を独占し続けたのでした。

やはり真夜中が来ると少女は帰りたがりました。
こんどは無理に誘うことはせず、王子は後をつけ、家に入ろうとしたのですが、少女は家の横にある庭に逃げ込みました。
大きな木の枝の隙間に隠れると王子は見つけることができなかったので、王子は少女の父親が帰ってくるまで待ち、彼に問いかけました。

「見知らぬお嬢さんが逃げた。おそらく木の上に登ってしまったのでしょう」

父親は少女かと思い、斧を持ってきて木を切り倒しました。しかし、木の上には誰もいませんでした。
そして、彼らが台所に探しに行くと、少女はいつものように灰にまみれて仕事をしていました。
少女は木の反対側から飛び降り、綺麗なドレスを小さなガマズミの木にいた鳥に渡し、何故か昨日よりも薄汚れてぼろぼろになった灰色のガウンを着て、仕事をしていたのでした。

三日目、また少女を置いて両親と姉さんたちが出かけると、少女はまたお母さんのお墓に行き、言った。

“ガマズミさんゆらゆら、ゆさゆさ、体を揺すってドレスと靴をを落として”

すると数分の間を置いて水晶や宝石に彩られたきらびやかなドレスが少女の前にありました。そして靴は透明な水晶製でした。
それらを着、化粧をして会場に向かうと、誰もが少女の美しさに息を呑みました。
王子はやはり少女とだけ踊りました。
誰かが少女をダンスに誘いに来てもやはり王子は「私のパートナーだ」といって誘いに来た貴族を追い返すのでした。

真夜中が来ると、少女は帰ると言いました。
王子は一緒に行きたいと言いましたが、少女は素早く逃げ、追いつけませんでした。
しかし王子は階段に仕掛けをしていたため、左の水晶の靴がくっついて脱げてしまいました。
それでも少女は左の靴を脱いで逃げだし、そのまま家に帰りました。

王子は残った靴を拾い上げ、それを見聞しました。
それは小さく、精緻な彫り込みがあり、全てにおいて完璧で、透き通った美しい水晶でできていました。
次の日の朝、王子は靴を持って父親のもとに行き「この水晶の靴が合う者を妻としよう」と言いました。

二人の姉さんたちは喜びました。
なぜならふたりは顔は申し分ない美女ですし、小さな美しい足をしていたので、きっとうまくいく、と思っていたのです。
年上の姉が靴を試しに自分の部屋へ入りました。
継母もそこにいて、その様子を見ていました。
年上の姉は水晶の靴を履こうとしましたがつま先が大きく入りません。
彼女には水晶の靴は小さいのです。
しかし、諦めきれない継母はナイフを渡して言いました。

「足を少し切り落とすんだよ。少しは痛いだろうけど、そんなこと構うもんか。じきに良くなるさ。そうすれば、お前達どちらかが女王様になるんだし、女王様になったら足で歩くこともないからね」

姉はナイフを取り、つま先を少し切り落とし、そうして無理やり足を靴の中に押し込みました。
そうやって上の姉は王子の前に出ました。姉さんの足が靴に納まっているのを見ると、王子は、この人が私の花嫁だと言って、馬車へ連れて行き、一緒にお城へ向かいました。

ところが馬車がお母さんのお墓のところで、ガマズミの木の上に二羽の鳩達が止まっていて、言いました。

“ちょっと後ろを見てごらん。ちょっと後ろを見てごらん。その女の靴の中は血だらけだ。靴が小さすぎるもの。本当の花嫁はあなたを待っている”

王子は騙されたことに気付き、偽の花嫁を家に帰しました。
そして少女の家に戻ると、二番目の娘に靴を試すよう言いました。
そっと試すと、今度は踵が大きすぎました。しかし、やはり諦めきれない継母はナイフを渡して言いました。

「踵をすこし切り落とすんだよ。女王様になったら足で歩くこともないからね」
娘は歯を食いしばって踵を切り取り、大急ぎで足を靴に押し込みました。そうやって娘が進み出ると、王子は、この人が自分の本当の花嫁だと思い、一緒に馬車で城に向いました。ところが馬車がお母さんのお墓のところで、ガマズミの木の上に二羽の鳩達が止まっていて、言いました。

“ちょっと後ろを見てごらん。ちょっと後ろを見てごらん。靴に血が溜まっているよ、その靴は彼女には小さすぎたんだ。本当の花嫁はあなたを待っている”

王子は下を見ました。すると、花嫁の白い靴下が赤く染まって、血が上の方まで上がってきていました。
そこで王子は、二番目の娘もお母さんのところへ連れて行き、言いました。

「この人も本当の花嫁ではありません。この家にもうひとり娘さんはいませんか」

「いいえ」と父親は言いました。「前の妻の残した小さな少女がいますが、結婚相手であるはずがない」

王子は連れてくるよう言いました。
しかし継母と姉達は「あらまあ、彼女はとても汚らしいやつよ、性根も腐ってるし、王子様の前になんか出せないし、何より出てこれるはずがないわ」

王子は譲らないので少女が呼ばれることになりました。
少女はまず手と顔を洗って水晶の靴を差し出す王子の前に現れた。
そして少女はしゃがんで重く粗雑な木の靴を脱ぎ、そのあかぎれや靴擦れだらけのぼろぼろになった足を水晶の靴に足を入れました。
すると少女の足はすっぽりと靴にはまり、ぼろぼろであった足を嘘のように綺麗になりました。
決して二人の姉のように足を切り落としてはくようなことはしていないとひとめでわかります。

少女が立ち上がり王子が少女の顔を見た時、一緒に踊った少女だとわかりました。そして叫びます。「本物の花嫁だ!」継母と二人の姉は震え上がり、憤怒と混乱と嫉妬が綯い交ぜになった感情で真っ青でした。
王子は少女を白馬に乗せ、連れて行きました。そして、やはりガマズミの木を通るとき、二羽の白鳩達が叫びました。

“ちょっと後ろを見てごらん。ちょっと後ろを見てごらん。靴に血はないよ。靴は彼女には小さくないね、本物の花嫁が一緒にいるよ”

そして二羽のハトは飛んできて、少女の肩に一羽ずつとまり座りました。

王子との結婚式がとりおこなわれた日、二人の姉さんは、少女にとりいって、幸せにあやかろうとしました。
誓い合った二人が、教会へ向かったとき、年上の姉は右側にいて、下の姉は左側にいましたが、まん中にいた白い鳥に、ふたりとも、片方の目を食べられてしまいました。

二人が帰ってきた時に、今度は年上の姉は左側、下の姉は右側にいたため、まん中にいた白い鳩に、ふたりとも、もう片方の目も食べられてしまいました。こうして、悪いことばかりしていた2人の姉は、戒めとして、一生、目が見えなくなったとさ。

めでたしめでたし

『と、思っていたのか?』

いつの間にか肩に止まっていた鳩がそう言いました。
今までのような囀る優しい声ではなく、威厳を感じさせる男の声です。
「誰……?」
「誰だ!」

少女は恐怖し、王子は少女を守るように動く。
しかし周囲の参列者は時が止まったように動かず、ただ虚空を見つめている。

『何事にも代償はあるんだよ』

『前回、奇跡を与えることは母親の愛とお前の祈りが代償だった』
『傷ついたお前を助けてやるのは、お前の名前を代償にしたからさ』
『そして今回は?ドレスや靴、それ以外にも様々なものだ。代償はなんだ?』
鳩はゆっくりと二人に話しかける。

「彼女から離れろ!」

鳩に向かって王子が剣を振り下ろします。

『君は、邪魔だよ』

そう言うと、王子は水晶に覆われてしまいました。

『なぁエラ・・、次の代償は、なんだと思う?』

「エ……ラ…?それが、わたしのなまえ?」

『そうさ、エラ・ラグライト。それがお前の名だ』

「エ……ラ…、ラグ……」
そこまで少女が言ったところで、少女の喉に激痛が走る。

『最も、私が名前を代償としたから私以外の誰も誰もその名前は呼べないんだけどね』

『さぁ可哀想なエラ、煌びやかなドレスに透き通った水晶の靴、二人の姉と継母への復讐。この代償はなんだ?』

「姉さん達に……復讐?嘘!そんなことは……」

『いいや、願ったさ、そうでなければ僕は願いを叶えない』

「嫌!来ないで!」

少女___エラは逃げ惑います。
しかし王宮の前の石畳の小道を走りにくいハイヒールの靴で走っていたので転んでしまい、片方が脱げてしまいました。

そんなエラの逃走は意味をなさず、鳩は悠々とエラのほうに迫ってきます。

「あ、ああ……嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘やってないやってないやってない嘘殺してな嘘そんな殺してや憎んでなんかやってない殺した嘘」

少女は、ついに狂ってしまいました。
そんな少女に鳩は近寄り、優しくつつくと、少女の体は次第に灰色の水晶。灰水晶スモーキークォーツに包まれ、やがて柩のようになった灰水晶に納まりました。

『ああ、心と体を貰うつもりだったのだけれど、これじゃあもう要らないや、さようならエラ、灰にまみれた君にお似合いだろう。せめてその柩の中で安らかに。代償は……王子君にでも貰うさ』

そうすると鳩は水晶の中の王子へと向かっていき、王子を軽くつつきました。

後には、水晶の柩に納められた少女と、悲しき王子のみが残されていました。

                おわり


ガマズミの花言葉は『愛は死より強し』。
母の愛は届いたのでしょう。
が、それ以上に人の欲は強かった。

等価交換。それがこの世のルールなのです

エラという名称には意味があります。
ある意味間違っているんですがね。

従魔スキル紹介
空間創造
小規模な異空間の生成
命あるものの収納は不可能。
容量はMP依存

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