魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第118陣魔法使いの追憶 真実の章①

「……ここは?」

 目を覚ますとそこは見た事もない場所だった。どこか見知らぬ部屋の一室なのだが、安土城の中にある部屋ではない。むしろこの部屋はこの時代にはそぐわないものだ。

「目を覚ましたね」

 聞き覚えがある声がすぐ近くからする。俺はその声を聞いて思わず身構えてしまう。

「っ! マルガーテ、どうしてお前がここに」

「どうしても何も、ここは私の住処。そしてこの部屋はあなたのために用意した部屋です」


「何をふざけた事を」  

 体を起こそうとするが、身動きが取れない。マルガーテが束縛の魔法でも掛けたのだろう。

「何もふざけていません。あなたは今日から私の仲間になるんですよ」  

「ふざけるな! 誰がお前の仲間になんかに」

「なるんですよ。いえ、なりざるおえないんです」

「どういう意味だよそれ」

 マルガーテが言っている意味が全く理解できなかった。というが理解もしたくない。誰がこんな奴の仲間なんかに……。

「あなたはとても大事なことを忘れているんです。それを思い出した時、あなたは私の手を取ることになります」

「大事な事を忘れている?」

「よく思い出してみてください。あなたが犯したもう一つ罪を」 

「もう一つの罪……だと」

 何かを知ったかのような口をするマルガーテ。ただ、俺はそれに思い当たる事なんて一つもないので、目の前の敵を討つ為に束縛の魔法を解こうとする。

「その魔法は決して解けることがありません。いくら強い魔法を使用しても」
  
「そんなの知るか! 俺はお前を倒して……桜やリアラの無念を……」

 無理をして解こうとしているため全身が痛む。だがそんな痛み、皆の痛みに比べれば痛くもない。

「誰かの為にそこまでしようとするとは、全く愚かですね。そもそもあなたが私達の世界に来なければ、長きにわたる戦いになんてならなかったというのに」

「ここまでの戦いはお前達が起こしたもの……だろ! どうして俺のせいになる」

「まだ分からないのですか? あなた自身に隠されている秘密を」

「俺自身の……秘密?」

 思わず動きを止めてしまう。何だ、何が言いたいんだこいつは。

「この前あなたは気づいたはずです。自分の中に何かが眠っている事を」

「あれはお前が仕組んだことだろ」

「いえ。あれはあなたの力を呼び覚ますために私がちょっとした力を加えさせてもらっただけです」
  
「何だよそれ」

「あなたはその力で大切な人を殺めています。そう、愛する人さえも」

「愛する人?」

 もしかしてサクラの事を言いたいのか? いや、俺がそんな事をするわけ……。

『サッキー、その力はもしかして……』

『俺は……サクラを守る為なら……』

 そんな事……。

『さ、サクラ?! おい!』

『よかった……サッキー元に……』

「お忘れかと思いますが、あなたと私は一度この世界ではない場所でお会いしています。そして私はあなたに力を授けました。禁忌の力を」

「禁忌の……力?」

 ■□■□■□
 シンゲンを傷つけたのがヒスイ様だと知った私はショックを受けた。まさか彼がそんな事をするとは考えたくもなかったし、何よりそれでヒスイ様がマルガーテの元へと行ってしまったことが何よりも衝撃だった。

「ヒスイ様……」

 あれからすっかり空も暗くなり、皆が寝静まっている頃、私は一人部屋で彼の事をずっと考えていた。今まで何度も彼が城からいなくなる事はあったけど、今回はいつも以上に寂しさと不安があった。もしこのまま彼が、マルガーテの所に身を置くことになってしまったら、そんな悪い考えばかりが頭をよぎる。

「ノブナガさん、いますか?」

 ふと部屋の外から声がする。やって来たのはヒスイ様の師匠のノアルさんだった。彼女にはシンゲンの治療もしてもらっていて、お世話になってばかりなのがすごく申し訳ない。

「どうかしたんですか? ノアルさん」

「ヒスイの事でお話ししたい事がありまして」

「ヒスイ様の?」

 すぐに部屋に入ってもらう。お茶を一杯出して、一息ついた後に話を始めた。

「これはノブナガさんには知っておいてほしい話で、ヒスイが起こした今回の事件の事なんですけど」

「ヒスイ様が闇に飲まれたとかいう話ですよね」

「実はシンゲンさんの怪我の具合を見て私一つ気づいたんですけど、あれは恐らくマルガーテが仕向けた事ではない可能性があるんです」

「それはつまり、ヒスイ様の意志で起こした事だと言いたいのですか?」

「本人の意志、とまでは言えないのですが彼が無意識で起こした事です」

「無意識?」

「本当はずっと早くに気づくべきだったのですが、彼が使っている魔法は私が教えたものではない力が入っています」

「ノアルさんが教えていない?」

 彼の魔法という力は他でもない師匠である彼女が教えたもの。それ以外の魔法を彼は使っているなんて、私などでは到底気付けなかった。

(流石は師匠なんですね)

「その力は下手をすれば術者の全てを奪ってしまうものです。心も体も。今回の事件はその前兆だとも言えます」

「それじゃあヒスイ様はこのままだと」

「元に戻る可能性は低いかもしれません。それがマルガーテの手に渡ったとなれば尚の事。それにヒスイはこの事件でもう一つ向き合わなければならない事があるんです」

「向き合わなければならない事?」

「彼が愛していた勇者サクラの死んだ本当の原因を」

「本当の原因?」

 それってまさか……。

「ヒスイは覚えていない、いや意図的に忘れているんです。自分がサクラを殺した張本人である事を」


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