魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第139陣進むべき道

 ーーあれから一ヶ月後。

「ヒッシー、西の方に兵士の影が見えるよ」

「よし、こっちは俺に任せて、反対側の敵は頼んだぞヒデヨシ」

「了解!」

 俺達はいつも通り、いやいつも以上に戦場を駆け抜けていた。天下統一という目標を掲げたヒデヨシの言葉は決して偽りはなく、ノブナガさんが亡くなった一週間後には既に動き始めていた。

(まるで本当の歴史通りみたいだな)

 忘れそうになるがここはあくまで戦国時代。本物の秀吉は本能寺の変で命を落とした信長の跡を継いで天下統一を果たしたと言われている。あくまで一説ではあるが、こちらのヒデヨシはまさにその通りの動きをしていた。
 ちなみに今はその一環として、今の日本でいう北陸の方へ遠征しているのだが、俺達の動きを嗅ぎつけたのか、上杉軍と衝突している。

「ノブナガが亡くなったと聞いたから、たいそう落ち込んでると思ったけど、どうやらそうじゃなかったようね」

 戦いはこちらが若干ながら優勢のように見えていたが、大将であるケンシン自らこちらに攻め込んできた事によって、押され気味になっていた。

「ウチの大将がやる気満々でな、それに力を貸しているんだよ。だから簡単には負けられないぞケンシン」

「その気力、いつまでもつかしらね」

 ケンシンの槍と俺の太刀が衝突する。俺はこの一ヶ月ヒデヨシと何度も手合わせを行い、お互いの力を高めてきた。特にヒデヨシの成長は右肩上がりで、最初に出会った頃よりも何倍も強くなったのではないかと思っている。

「くっ、流石の強さといったところかしら。最近勢力を強めているだけはあるわね」

「そっちこそ。流石は上杉謙信といったところだな」

 お互い一歩も譲らない戦いが続く。そこに、

「ヒッシー、背中借りるね」

「は?」

 背後からヒデヨシの声が聞こえると共に、背中が一瞬だけ重くなった。

「ちょっ、俺を踏み台にするなよヒデヨシ」

 俺の言葉を無視して、ヒデヨシは自前のハンマーを空中からケンシンに振りかざす。だが滞空時間が少し長かったからなのか、それはあっさり避けられる。

「まだまだ甘いわね、ヒデヨシ」

「甘いのはそっちだよ」

「え?」

 ハンマーを叩きつけたところから地面がひび割れ、それがケンシンに向けて一直線に突き進む。それを寸断のところで避けるが、隙が生まれる。

「ヒッシー!」

「おうよ!」

 俺はヒデヨシの合図と共に、ケンシンに一太刀を浴びせるのだった。

 ■□■□■□
「なあヒデヨシ、ああいう事やるなら予め言っておいてくれないと、こっちとしてはすごく怖いんだけど」

「何を言っているのヒッシー。臨機応変に動くのが、この戦場で生き抜くのに大切な事でしょ?」

「それはそうだけどさ」

 大将に深手を負わせた事によって戦況は変わり、上杉軍を無事退ける事に成功した俺達は、その近くに拠点を立て次の進行に向けたひと時の休憩を取っていた。

「そういうヒッシーこそ、結構押され気味だったじゃん。あそこで私が助けなければどうなっていたか」

「お前が勝手に乱入してきただけだろ。それに、戦い始めたばっかりだったし」

「そう言うならどうして魔法を使わないの?」

「それは……」

 ヒデヨシの言う通りだった。彼女が成長を遂げている一方で俺は魔法を封印し、自分の力だけでこの一ヶ月を乗り切ってきた。大幅な戦力ダウンだと言われても仕方がないが、それにはちゃんとした理由があった。

「もしかして使えなくなったの? 魔法」

「違う、そうじゃない。単純にもう、使いたくないんだ」

「どうして?」

「俺は一度死んだ後からの人生はずっと魔法と一緒だったんだ。せめて最期のときくらいは、魔法から離れようと思ってさ」

「最期ってどういうこと?」

「そのままの意味だよ」

 ノブナガさんが亡くなる少し前から体に違和感があった。少しずつではあるが、体が徐々に衰弱し始めている。けど、せめてヒデヨシがその夢を叶えるまでは彼女を支えてやりたいと思ってここまで生き続けてきた。

「もしかしてヒッシー、もう長くないの?」

「ハッキリとは分からない。だけど、元々無理してここまで生き続けてきた体だ。ロスタイムはそんなに長くないよ」

「そんな……」

「でも心配するなヒデヨシ。せめてお前のその夢が叶う時までは頑張るから。安心してその背中を預けてくれ」

 ポンとヒデヨシの頭に手をおく。この言葉は強がりに聞こえるかもしれない。けれど、一度決めた道は行けるところまで進み続けるのが俺のモットーだ。

「分かった。ヒッシーを信じるよ。その代わり、倒れそうになったらいつでも言ってね」

「そうはならないように気をつけるよ」

 それから一年をかけて豊臣はこの戦国時代を収める事になるのだが、その時ヒデヨシの隣に俺が立っているという夢は叶えられなかった。

 ノブナガさんが亡くなってから半年。

 ヒデヨシの夢も半分が達成されたところで、俺の体は限界に達してしまった。その時はたまたま休みの日だったのだが、突然俺の体は立ち上がる事が出来ないほどになってしまったのだ。

「悪いヒデヨシ……。最後までお前の夢に付き合える事出来ないかもしれない」

「ヒッシーの馬鹿! 無茶していたならもっと早くに言ってよ!」

 異世界と戦国時代を生き抜いた魔法使い、桜木翡翠。

 彼の人生がいよいよ幕を閉じようとしていた。

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