魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第125陣過去の世界を光ある未来へ

 マルガーテの魔法が目の前にあるこの刹那。俺は次の行動が頭の中を巡っていた。この距離じゃ避けるのも難しいし、時間もない。なら、どうすればいいか。

「ぐっ」

「なっ、私の魔法を避けもせずに受けた? そんなのリスクしかないのに」

「リスクがあろうがなかろうが俺には関係ない!」

 その魔法をあえて受けた上で、その刃をマルガーテに向けて刺す。

「ぐっ、小癪な真似を」

 たとえ俺の魔法に闇が混ざっていようが何をしようが、そんなのは関係ない。

 とにかく今俺が出せる全力を奴にぶつける。そしてそれでマルガーテを倒す。

「確かにお前に傷をつけるのは難しいかもしれない。だがそれは表面的なものであって、それ以外は違う」

「何が言いたい」

「今この太刀がお前に刺さっている状態で、刃先から魔法を放ったらどうなる」

「なっ、そういう事か……」

「光れ刃よ。闇を打ち払え」

 太刀を通して光の魔法を放つ。それは太刀を辿って、マルガーテの体へと入り込む。

「ぐぁぁ」

 悲鳴をあげるマルガーテ。彼女の声はもはや人の声を越え、少しずつ魔物の声に近づいていく。その声はいつしか聞いたあの声とよく似ていて、嫌でも耳に残り続ける。

(流石は親子か)

 たとえ種族が違ったって、血の繋がりだけは共通している。だからこそ、俺はあの時あの瞬間を思い出す。

「こごまで、わだしをグルジメルとは……。ダガ、マダオワラナイ」

 マルガーテはそう言いながら魔法を放つ。だがその狙いは俺ではなくノブナガさん達。

「ノブナガさん、ヒデヨシ!」

 マルガーテから太刀を抜き、急いで守護に俺は入ろうとする。

「テキニセヲムケルとは、オロカな」

「しまっ」

 だがその一瞬の隙にマルガーテはもう一発、今度は俺に向けて何かが放たれる音がした。

(間に合わな……)

 先程とは違い不意の攻撃だった為、その威力をまともに受けてそのまま地面に転がる。

「がはっ」

 俺は全身の痛みから、地面に伏してしまう。ノブナガさんとヒデヨシは……。

「あ……れ?」

 誰も発動していないのに何故か二人は魔法壁に守られていた。一体誰がこのタイミングで二人を守る魔法を。

「フタリノシンパイヨリ、ジブンノシンパイヲシタラドウダ」

 伏せている俺の目の前にマルガーテが立ち、見下ろしてくる。俺は彼女を睨んで、威嚇して少しでも時間を稼ごうとする。

「コレデオワリダナ」

 だがマルガーテは容赦なしと、俺の側に落ちてる太刀を拾い、それを俺に向ける。
 その瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。

「さあコレデ長きタタカイモオワリ。この世界も闇にツツマレル」

「それに……触るな」

「ナンダ」

「それは……ノブナガさんが俺にくれたもの。それをお前なんかに触らせるか!」

 ノブナガさんからもらった太刀、俺にくれたたった一つの太刀。
 こんな俺にくれた大切なものを、マルガーテが手に取る事だけは許せなかった。

「俺は……まだ終わってない、マルガーテ!」

 手に力を込める。この距離なら……マルガーテが弱っている今なら、このたった一度しか使えないこの魔法をぶつける!

「その魔法、お前どこでそれを」

「これは俺の原点の人が教えてくれたお前を討つ為のたった一度の魔法だ」

 マルガーテから太刀を奪い取った俺は、手に込めた力……師匠から授かった全ての力を、太刀に込める。

 光明・滅闇の形

 名前を付けたのはたった今だが、これはノアさんが与えた闇の全てを照らす光の力。これでマルガーテをたった一撃。だが確実に倒すことができる奇跡のような力。

「これで終わりにする、マルガーテ!」

 だがその奇跡は、戦国時代という俺からしたら過去に値する世界を光ある未来へと導く。

「オワルノハお前ダァァ」

 俺とマルガーテが交差する。俺の太刀の手応えはあった。そしてマルガーテが放った一撃も、俺の体に鋭い痛みを与えた。

 そして……二人の立ち位置が逆転しきった時、先に異変が起きたのはマルガーテの方だった。

「バカ……ナ。コノワタシガ」

 耳に何かが焼かれるような音がする。

「コノワタシガァァァァァァ」

 その音が耳から消えた時、マルガーテは大きな悲鳴とともに消え去っていった。目ではかくにんしていないが、今視界に入っているノブナガさん達の反応を見れば、結果は分かる。

「やったの?」

「やりましたよ、ヒスイ!」

「ヒッシー、やったよ! やったよ!」

 歓喜の声が二人から聞こえる。だが数メートルまで二人が近づいた時その声は悲鳴に変わる。

「ヒス……イ?」

「う、う、嘘」

 あの時、俺の攻撃は確かに手応えがあった。だがそれと同時にマルガーテの攻撃も受けている。その攻撃は……。

「ヒスイ、腕が」

「だ、誰かぁぁ!」

 俺の右腕と、マルガーテが倒れるまで僅かに残っていた意識を刈り取っていった。

「ヒスイ、しっかりしてください! ヒスイ!」

 倒れた体からノブナガさんに受け止められる。久しぶりに近い距離で感じたこの世界での織田信長という存在。

(とても暖かい)

 それはまるで母のような、とてもとても暖かい彼女の温もりだった。俺はその腕の中で、ゆっくりと意識を失っていった。

 ゆっくりと……。

 ゆっくりと……。

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