魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第43陣德川包囲網突破作戦①

 翌朝、起きて居間へと向かうと既にノブナガさんが朝食の支度をしていた。

「おはようございますノブナガさん、何か手伝いますか?」

「あ、ヒスイ様。間も無く準備が終わるのでゆっくりしていてください」

 ノブナガさんに言われ、適当な場所でくつろぐ。調理場からはいい香りが漂ってくる。

「昨日結構寝る時間が遅かったのに、よくこんな早くから起きれますね」

「少々寝れなくて。そういうヒスイ様も寝てないのでは?」

「俺は元から早起きは苦手ではないので、慣れているんです。それに意外とぐっすり寝れたので、寝不足でもないんですよ」

「すごいんですねヒスイ様は。私なんか昨日のネネさんの話を聞いてから、ずっと悩んでいるのに」

「やっぱり驚きましたか? ネネの事」

「当たり前じゃないですか、と言いたい所ですけど、ここだけの話をしますと実は薄々勘付いていたんです」

「え?」

 俺は少し驚いた後に、冷静になって考えてみた。

(そっか、よく考えてみたらあり得なくもない話だよな)

 そもそもネネを德川から引っ張り出したのはノブナガさんらしいし、恐らくはある程度の事情を把握していたのかもしれない。

 それでも何故あえて知らない素振りをしたのか?

 そんなのは考えなくても分かる。あくまでノブナガさんは知っていることを隠して、ネネ本人の口から聞きたかった。だから今回みたいな形で、それを聞いたのだろう。

「あの子もなかなか不器用な所がありますから、隠せないものは隠せないんですよ」

「じゃあ結構前からネネの事は」

「はい。ただ、本人の口から聞きたかったので、ずっと黙っていました」

「やっぱり……」

 この人は、俺が思っている以上にすごい人なんだ。だからこうして全ての上に立ち、いつかは天下を取る。俺もその瞬間まで見てみたいものだが、果たしてそれはいつになるのやら。

「さあ朝ごはんできましたよ。しっかり食べて、今日も頑張ってください」

「はい!」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 朝はそんな感じでまったりとした時間が流れたが、その後は昨日と同じようなメニューをこなした。これが果たして休暇なのかと聞かれたら、語尾に?がついてしまいそうだが、二日目とあればほんの少しだけ慣れた自分がいた。

「皆さんお疲れ様です。これで全部の日程は終了しました。ミツヒデさん達を待たせるわけにもいかないので、すぐに城へ戻りますが、帰りの準備はよろしいですか?」

 そして夕方頃になって全日程が終了。あとは城へ戻るだけとなった。

「朝の内に準備は済ませてあります。いつでも帰る準備はオッケーです」

「じゃあ出ますよ」

 ノブナガさんに連れられ、全員が外に出ようとする。

 だが戸を開いた所で、ノブナガさんは外を見るなりすぐに閉めてしまった。

「ノブナガさん、どうかされましたか?」

「これは非常にまずいことが起きました」

 ノブナガさんは急いで中に戻り、他の窓からも外を確認する。そしてノブナガさんは何かを確信づいたかのように俺達の所へ戻ってきた。

(何だ、何が起きているんだ)

「そんなに慌てて、何が起きたんですかノブナガ様」

 俺と同じく現状を掴めていないヒデヨシが代表して尋ねる。

「私達は今、包囲されてしまいました」

 それに対してノブナガさんは真剣な目で俺達に告げた。

「え? 包囲?」

「兵を見る限りではざっと百はいました。そして攻めてきた軍が……德川軍です」

「德川軍が?」

 何ともタイミングが悪い。昨日の流れでネネも今日の合宿に参加していて、奪還するには絶好のチャンスに違いない。

「まさかとは思うけど、ネネを狙って……」

「恐らくそう考えて間違いないです。こちらの兵は私達四人、私を討ち取ると共に、ネネを奪う算段だと思います」

「つまり俺達は……」

「絶対絶命?」

 恐らく德川はどこからか今回の休暇の情報を入手したのだろう。そしてそれを絶好のチャンスと見て動いた。ただ、ネネが来ていることまではいい意味で予想していなかっただろう。

(相手は百に対して、こちらは四人。さてどうする)

 今から援軍を呼ぼうにも、その時間もない。というよりは、援軍を呼ぶ人がいない。だから答えはおのずと決まってくるのだが、果たしてそれを成す事ができるのだろうか?

「わたくしのせい……です」

 どうしようか悩んでいると、ネネがそんな事を呟く。

「なんだってそんな事を今言うんだよネネ。誰一人お前のせいだなんて思っていないぞ」

「そう思ってはいなくても、わたくしに責任があります。わたくしがもう一度あそこに戻れば、全て解決する」

「たとえ全てが解決するとしても、ここからは出さないぞ」

「どうしてですか?! 私はいわゆる裏切り者。せめてその罪くらいは、償わせてほしいです」

 何を意固地になっているのか、話を全く聞かないネネ。そんな彼女に言葉をかけたのは、

「何を馬鹿なことを言っているのよネネ! あんたが意地でも行こうとするなら、私が一人で外に出る!」

 誰よりもネネの事をよく分かっているヒデヨシだった。

「お姉……様?」

「私もヒッシーと一緒。あんたが何者だろうと、あんたは德川のネネではなく織田のネネなの! だから絶対に差し出すようなまねなんてできない!」

「でも私は……」

「ネネさん、私も同じですわ。どんなに戦況が悪くても、私は仲間を差し出しません。あなたの過去にどんな事があろうとも、ネネさんは私達の仲間ですから」

「ノブナガ……様……」

 よほど思いつめていたのか、ボロボロ泣き出すネネ。俺は彼女の頭に優しく手を置いたあと、こう告げた。

「分かっただろ? 誰もそんな事思ってないって。だからそんな事を言うな」

「ヒスイ……」

「とりあえず、今はこの状況をなんとかしないとな。そうですよね? ノブナガさん」

「はい。決して時間があるわけでもありませんから、皆さん戦いの準備をしてください」

 ノブナガさんに言われて、全員がそれぞれの武器を取り出す。それを確認した後、ノブナガさんは今回の戦の説明を始めた。

「今回は非常に危険な状態での戦いになります。最優先事項は、ネネさんの護衛とこの包囲網の突破です。なるべく戦いを避けて素早く脱出します。よろしいですね?」

『はい!』

 全員が返事をする。ネネもしっかりと泣き止んでいて、作戦に備えていた。
 そして最後にノブナガさんは、作戦開始の合図を宣言した。

「では包囲網突破作戦、開始します!」

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