魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第46陣魔法使いの追憶 恋の章

 最初は二人きりだった旅。

 だけど道を進むに連れ、一人、二人、そして三人と仲間が増えていった。勿論その間には色々な出会いと別れを繰り返していた。

『なあサクラ、もうすぐ半年なんだな』

『何が半年なの?』

『旅を始めてだよ』

『そっか。もう半年なんだね』

 そして気づかない内に時間は過ぎて行き、魔法使いになってから半年が過ぎた。

『色々あったよな。この半年』

『うん』

 ある日の晩、偶然二人きりになった俺とサクラは、その半年を振り返っていた。

「もう半年か……なんと言うかあっという間だったな」

「うん」

 半年前にこの世界に突如呼ばれた時には、信じられなかった。どうして自分がこんな目に合わなければならないのか? 下手したら死ぬかもしれないだなんて、すぐに逃げ出したくなった。だけど、彼女が……

 サクラが俺を支えてくれた。

 勇者だからとか、そんなの一切関係なしに支えてくれた。だからここまでやって来れたと言っても過言ではない。

「今更だけどありがとうな、サクラ」

「何よ突然。気持ち悪いなサッキーは」

 だからこの時初めて彼女に感謝の言葉を述べた。俺にとって彼女は心の支えだった。だからほんの少しだけ自分の気持ちに気づくのが遅かった。

 いつからかは分からない。俺は勇者サクラではなく一人の人間として、サクラの事が好きになっていた。

 ただ、その想いに気づいたのは、全てが終わってから。

(どうして今になって、気づいたんだろう)

 全てが終わって、サクラを失って、そこでようやく気づいた。自分の気持ちに……。もっと早くに気づいて、もっと早くに伝えて、もっと強くなって彼女を守りたかった。だけど、もうそれは叶わない。

 それはもう消えない後悔。

 それはもう届けられない想い。

 だけど想いはまだ残っている。

 届かない想いだけはずっと残っている。

 だから俺は……。

 もう人を好きになることなんて、できなくなってしまった。

 後悔するくらいなら。

 失って傷つくくらいなら。

 ずっとこの気持ちのままでありたい。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 俺が再び目を覚ましたのは、徳川との闘いから二日後。よほど疲れていたのか、かなりぐっすりと眠っていたらしい。

「もう、ヒッシーは無茶するんだから」

「無茶なんかしてないぞ俺は。こういう状況は慣れっこだしな」

「慣れてる割りには、すぐに眠ってしまいましたけどね」

「もうからかうのはやめてくださいよノブナガさん」

 一泊二日の休暇も終わり、またいつもの日々に戻った。とは言っても、敵襲とかはない限り鍛錬しながら普通に話をしている。その中で、ノブナガさんは一つ不思議な質問をしてきた。

「そういえばヒスイ様って、現在好きな人はおられないのですか?」

「ど、どうしていきなりそんな事を聞くんですか?」


「以前ヒスイ様の異世界の話を聞いた時、まるでその方が好きみたいな話し方をしていましたから」

 以前彼女に話したのは、勿論あの話なのだが、誰が好きとか嫌いとかそんな話まではしてなかった(むしろ、ノブナガさんは途中で寝てしまっている)。
 それだというのに、なんで女性というのは、こう勘がいいのだろうか?

(でもノブナガさんが言うその方って、もう教えたはずなんだけど)

「俺って、そんな話し方していましたか?」

「はい。とても分かりやすかったです」

「なになに、ヒッシー好きな人いるの?」

「いや、そうじゃなくて。それにノブナガさん、その方の事って、その話をする前にどうなったか話しませんでしたか?」

「そうでしたか? そんなにハッキリとは聞いてないんですけど」

「言われてみれば……」

 思い返せばあの時は感情的になり過ぎて、誰の事なのか、とかそんな話はしなかった。というかしたくもなかったし、なるべく思い出したくなかった。思い出したら、また苦しまなくちゃならなかったから。

「俺が好きな人は……いました。けど、もう会えないんです」

「会えないって、もしかしてヒスイ様があの時言っていた……」

「そうです。俺の好きな人は、俺を庇って死んでいきました。自分の気持ちを伝えられないまま」

「そんな……」

「本当に最後の最後で詰めが甘いんですよ俺は。守ると決めたのに最後に命を張って守られて、自分の想いも伝えられなくて。だから決めたんです。誰かを傷つけたり失ったりするくらないなら、誰かを好きになるのはもうやめようって。ヒデヨシの求婚を断ったのは、それが理由の一つでもあるんです」

「ヒッシー……」

「この前家康と戦った時も俺は思ったんです。どんなに魔法っていう強力な力があっても、肝心の俺が強くなければ誰も守れない。家康に言われてしまうくらいなんですから、俺はまだまだ弱いんですよきっと」

 だからまた誰かを失いそうで怖い。

 だから好きになれない。

「でしたらヒスイ様、私から一つ提案します」

 そんな俺の話を聞いたノブナガさんは、口を開くなりこんな事を言ってきた。

「提案?」

「こんな事を言うのはどうかと思いますけど、ここの城の者は皆女性ですから、その、誰かと仮のお付き合いをしてみてはいかがですか?」

 それは俺の想像を越えた提案だった。

「いや、だから誰かを好きにはなれないって……」

「だから仮なんですよ。どうせ私達はいつ死ぬか分からない身ですから、その来たる日まで側にいて、そして守り続ける。そうすればいつしか、トラウマだって消えているはずです」

「でも……」

 何か急にラブコメ展開になっているけど、ちょっとその設定はキツイ気がする。

(ここは過去の世界。誰がどういう結末を迎えるか、ある程度把握しているんだよな……)

 それまで守り続けながら付き合い、そして最後を迎えるまで一緒にいる。そんな事をしたら、余計にトラウマが生まれる気がする。

(結局は死ぬわけだから、トラウマを克服する手立てにすらならないよな)

 その条件でトラウマを消す方法があるとしたら二つ。

 歴史を変える、もしくは死の直前までに帰る方法を見つけること。

 どちらも可能性は極めて薄い。前者なんて、まずあり得ない。

(やっぱり無理だよな、そんなの)

「うーん、ノブナガさん。それはちょっと無理が……」

 どう考えても無理だと踏んだ俺は、却下しようとしたが、次の瞬間。

「あ、あれ」

 俺の意識が突然途切れた。まるで俺はこの世界から拒絶され、強制的に眠らされた、そんな感じだった。

「ひ、ヒスイ様?!」

「ヒッシー!」

 ノブナガさんとヒデヨシが叫んだ気がする。だが俺の耳にその声は届かなかった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「うっ、何だったんだ今のは……」

 それからしばらくして、途切れた意識を俺は取り戻したのだが、そこは見たこともない場所だった。

「ここは?」

 先ほどまでとはいた場所とは全く違う、一言で言うなら宇宙空間みたいな場所。俺はそのど真ん中にいるのだが、何が起きたのかサッパリ分からなかった。

『ようやく……ようやく繋がった』

「え?」

 どこからか声が聞こえる。俺はその声にどこか懐かしいものを感じた。

「この声……もしかして……」

 俺がその名を告げる前に、再び俺の視界は暗転。
 そして再び視界が開かれた先で待っていたのは、ノブナガさんとヒデヨシの姿があった。

(何だ今の?)

 ほんの数秒間みたあの空間、あれは一体なんなんだ? そしてあの声は……。

「ヒスイ様! よかった、目を覚ましたんですね」

「もう、心配したよヒッシー」

「……」

 全てが突然起きたことだったので、俺は呆然とする。そしてようやく出て来た言葉が、

「ヒスイ様?」

「サクラ?」

 あれから一度も使うことがなかった名前だった。

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